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事故扱いにしよう

 明奈が運搬車に取り付けた装置の正体は運搬車に搭載された自己診断装置によればセンサーの類のようだった。この時、望月には副所長が裏切っていることは知らなかったので発信機ではないかと考えていた。しかし副所長はこの運搬車のGPSが発信するコードを漏らしてしまったので、”奴ら”の手先がそれで付いていたのであるが。


 後の調査では、この時取り付けられていたのはガイノイド分析機であり機械娘の性能を運搬車のコンピューター経由で探ろうとしていたようであった。実は横山副所長は開発部門の情報へは一切のアクセス権限がなかった(そのかわり財務情報のアクセス権限は所長にはなかった)ので、機械娘の情報を殆ど入手していなかったからだ。


 この事は前田所長も薫も承知の上だったし、望月も何らかの手段で尾行している事は予見できた。しかし今取り付けたのは何かと言うのが気になっていた。もし爆発物なら取り返しの付かない事になるのは、火を見るよりも明らかだった。望月は直ちにメールを送信した。これは音声通話の場合、盗聴していたらまずいからという判断だった。


 望月のメールはただちに薫の電脳の受信機に送信された。この時薫は助手席で仮眠中だったが、電脳の一部が稼動しており事態を把握した。そして運搬車のコンピューターと直結した。この手法は薫が機械娘になっているときは多用していたが、電脳に重い負担があるため避けていた。しかし、達川技師長による改善した通信システムへの更新で「機械娘のシステム」を通さない形で一部だけを使えるようにしていた。


 状況を把握した薫は望月に「責任は自分が取るから、次のように行動してください。事故扱いにしようということです」と伝えてきた。望月は声を出さないように読んだ上で実行することにした。


 そのころ運搬車は駿河湾沿いを走行していた。ゆっくりと走行していたが夜が明けるまでには時間があった。その後ろを尾行する明奈が乗るワゴンが追走していた。彼女はウトウトとしていたがその間も洗脳チップによる酷い頭痛は続いていた。そのため彼女は悪夢にでもうなされているような寝言を言っていた。その様子に対し運転している”奴ら”の工作員アンドロイド”JD258910”安藤論はなんら反応を示さなかった。彼は対人工作の時にしか感情を出さず、仲間には何も反応することはなかった。


 その時、運搬車の電源から突如白煙が上がり、路肩に急停車してしまった。あまりにも急なことだったが、ワゴンも急停車した。しかしワゴンの二人はさっき顔を望月に見られているので降りることは出来なかった。それで少し先のパーキングエリアで待機するため、すぐ発車した。


 二十分ほどして後方から救援に来たレッカー車が到着し、牽引を始めた。牽引車は少し走行した後最寄のインターチェンジで降りた。これに慌てたワゴンはすぐに運搬車を見つけようとしていた。運搬車に乗る機械娘の最終目的地は東京本社というのは判明していても、途中で乗り換える可能性もあるから尾行していた。最初に行く場所を副所長は知らなかったからだ。


 しかし運搬車を見つけたときには、一般国道沿いの駐車場で炎上していた。そこで近くにいた警官に尋ねたところ、運搬車の電源から出火したので消火しようとしたが間に合わなかったということだった。中にいたアンドロイド運転手と”製品”は無事に脱出し代車に乗っていき、同乗していたメーカーの社員は事情を聞くため警察署に向かったということだ。


 この時、尾行をまかれたことを知った明奈は落胆してしまった。任務を遂行できなかったからだ。そのため明奈は「次に機械娘に会った時は落とし前をつけさせてもらう」と怒りを隠せない様子だった。


 そうしてきた時、向こうから若い女子大生風の女が近づいてきた。カンナだった。「あなたたち、あの車の火事が気になるというわけなの? 」と尋ねて来た。二人は慌ててワゴンを出発させていった。


 ワゴンを見送るカンナは「”奴ら”の工作員がお出ましというわけね。どうやら私のことを知らないということは、あの尾行の工作員の情報収集能力は低いというわけね。でも、これからボスのお出ましという訳だろうから、気を引き締めないといけないね」といって、立ち去っていった。


 このごろ、望月は聖美と真実と一緒に近所のタクシー会社からチャーターしたジャンボタクシーに乗っていた。高価な運搬車ごと焼くことで尾行をまいたのであった。後日、この時の損失は薫が”ポケットマネー”で支払ったという。


 朝早くから起こされた聖美は訓練で経験済みだったので問題なかったが、真実は相当不機嫌な様子だった。「君達、朝早く起こしてゴメンネ。もうすぐ目的地につくから」といって謝っていた。三人の目には朝焼けの空が見えてきていた。

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