洗脳された女子大生
”奴ら”の工作員で機械娘が乗る運搬車を尾行している藤井明奈は実は美咲と同じ大学に通っている学生だ。横山副所長の指示で急遽工作員として洗脳された。本当は最初美咲を拉致する予定だったが、工作員の手違いでよく似た明奈を洗脳してしまったのだ。
明奈は美咲をライバル視していたが、美咲からすれば親しい同級生としか見ていなかったし、実際のところ実力の差も大きかった。にもかかわらず彼女の嫉妬心は恐ろしいものであった。だから、美咲を受験会場で見たときの憎悪は恐ろしいものであった。
明奈に施された洗脳は、同時多発テロ戦争初期にアメリカ軍が多用した脳にチップを埋めることで操るシステムだった。このシステムそのものは非人道的であるとの指摘や”奴ら”にテクノロジーが流出したため現在では使われていない方法だった。なお”奴ら”が現在用いている洗脳方法は脳組織そのものを改変する手法で、適合者が少ない反面洗脳されたことを本人すら認識しないという恐ろしい方法である。
そのため明奈自身は何者かに操られている事を認識していたが、自分では抜け出せない事を苦悩していた。この方法の欠点はそこで、心の葛藤で精神のバランスが崩壊して操縦不能に陥るため、長くは使えない。いわば彼女は”使い捨て”の工作員だった。
彼女に与えられたミッションは副部長がいうところの機械娘が参加するイベントに参加し、なにげなしに美咲などに接触するというものだった。この接触で「十年に一度の天才」といわれる美咲とコンタクトを取るか、あやよくば拉致しようというものであった。
アンドロイド工作員が運転するワゴンの助手席で明奈は眠っていたが、頭の中がかき回される感覚に意識が朦朧になっていたからだ。「美咲、あんたには負けたくなかったけどどうもあたしはあんたと対峙しなければいけないようだ。本当はこんな形で会いたくない」などと心の中で葛藤していた。
横山副所長が立てた計画では、機械娘が参加するのは毎朝テレビグループが開催する「東京ベイエリア文化祭」のイベントと思われるので、そこで何らかの形で機械娘に接触を図るというものだった。この時には機械娘の拉致もしくは破壊を意図していないが、美咲だけでも拉致しようとしていた。美咲を洗脳すれば”奴ら”からすれば今後再構築されつつある従来型の国際秩序を破壊し”奴ら”が理想とする秩序を作り出すためのテクノロジーを生み出してくれるはずと思われたからであった。
そのことを知っているためか、明奈は自分を捨て石にして美咲を引きずり込もうとする”奴ら”に対し怒りを覚えていたが、自分ではどうすることも出来なかった。いま自分は操り人形にすぎなかったからだ。




