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道中にて

 美由紀はこうして運転席にいる父の隣に座っているのはしさしぶりだった。その前はいつだったの? と考えると、高校の卒業式の後で喧嘩した時以来だった。思えばそれ以来まともに口を利いていなかった。そのため最初は車中の空気は重苦しかった。先ほどまでは”姉”の薫と所長が一緒だったが、今は二人きりだった。


 しばらく高速道路を走行する「今井工務店」と書いたフェアリー型軽トラックの車中はしずかだったがその沈黙を破ったのは泰三だった。


 「母さんに美由紀と一緒だと連絡したけど、まだお前のことは詳しく話していないからな。まあ帰ってからゆっくり話すけど、お前のお姉さんに会えるとは思ってもいなかったよ。本当ならお前と一緒に家に帰って話したいことは山のようにあるけど、琵琶湖のほとりにあるパーキングで落ち合うことになっているので、それまでに話せる範囲でお前に言いたいことがあるけど、聞いてくれるか? 」と泰三はアクセルを道路の形状に合わせながらアクセルを踏みかえ、ハンドル調整をしていた。自動運転が標準になっているのに、こうして自分で全て運転しなければならないトラックを使うのも職人肌といえる性格であるといえた。


 「まあ、お前が選んだバイトだから何かいわなければならないかもと思って駆けつけたわけだが、俺がパワードスーツ嫌いなのはわかっていた上であえて着用しているのだから、お前のやりたいようにすればいいんだよ。それにね、無理に家の跡を継がなければならないなんて本当に考えなくてもいいのだぞ。あのお姉さんの仕事の手伝いをしてもいいんだし、はたまた別の仕事をしてもいいんだぞ。だけど、何もかもうまくいかなかったり嫌になったらいつでも家に戻ってきてもいいんだぞ。いつまでやれるかはわからないが、身体が動くうちは家業を守っていこうと思う。なんだってお前が戻れる場所はなくしたくはないからな」


 美由紀は父が本当は自分の事を考えていたのだと少し判ったような気がした。そう思っていると父は急に昔話を始めた。美由紀の生物学上の母である香織のことだった。


 「母さんと出会ったのは、あの薫さんの母の香織さんと一緒に富山に旅行に来た時なんだ。今白状するけど、あの時一目ぼれしたのは香織さんのほうなんだ。まあ、母さんも気付いていたけど。その後母さんと付き合うことになって、長い交際を経て結婚したのだけどその時までに香織さんは昔の中国に留学していて、向こうで結婚したのだ。その時生まれたのがお前の姉さんなんだ」と何か懐かしむような表情を浮かべながら話していた。その時泰三はもしかすると天国にいるはずの香織が自分達の関係を正常化してくれようとしたのだという考えに囚われていた。やはり「娘」の事が心配でならないのだともいうことだろうと感じていた。


 それから、泰三は美由紀を授かるまでの事や幼い時の事を語ったが、美由紀も「母」の香織の存在を意識せずにはいられなかった。しかしその母は生まれる前にはもうこの世にいなかった。そう考えると自然ではありえない状況に愕然としていた。それはともかく父が色々な話をしてくれたのは嬉しかった。


 一方、薫と祐三の二人は、美由紀よりもはるかに後方を走っていた。日が暮れて辺りが暗くなっており遠くに町の明かりが通り過ぎていっていた。


 「次に研究所に戻る時には副所長らは私達を殺害してでも拉致しようとするでしょうね。本当なら早く治安当局に身柄を確保してもらうべきだろうけど、それじゃ”奴ら”の尻尾を触ることも出来ないし。まあ国家情報局の協力で”奴ら”の襲撃後に一網打尽する手はずだけど、出来ればみんなに犠牲は出したくないな」と薫はいった。実はこの時作戦案が固まりつつあったけど、まだ実行に移すか否かまでは決定ではなかった。まだ副所長が”奴ら”に関与している直接の証拠を掴めていなかったからだ。


 「薫くん、まあ君のいうとおり研究員の大半は”夏季休暇”ということで研究所には多くいないようにしたけど、まだ福井のおばちゃんや小野君、斉藤君など残っている。彼女らはなんとか襲撃される時には現場にいないようにしないといけないけど、早くしすぎると相手が怪しむからしかたない。それと”奴ら”に取り込まれている疑いがある者にはわざと残したけど、なにを仕出かすかは判らない。だから一応は研究員に化けた国家情報局のエージェントも残っているけど、正体がばれないか心配だ」


 祐三はカーナビを見ながら合流地点と時刻を確認しながら話を続けた「薫くん、まさか美由紀が君の実の妹だったとは思ってもいなかった。でも、計画には変更ないということだね? あの父に今度のことを説明しなければならない時がくるのはわかっているけど、いつ誰がそれをするのかが問題だ」と、祐三はなにげなしに薫の肩に手を回していた。薫は不安そうな表情を浮かべていた。

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