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10-01 裏切り者

 聖美と真美のふたりは研究所を予定どうり夕方に出発したが、昼前に薫と美由紀の姿を見たのを最後に合流することはなかった。松山本社から来たスタッフの望月の話によると、二人は美咲のように先に行かないといけない事態が生じたので既に出発したとの事だった。もっとも実際には所長のバンガローで美由紀の誕生日を祝っていたのが真相であったが。


 同じごろ、研究所には居残りの横山副所長が副所長室にいた。あの”奴ら”のバイオノイドの”偽者”の山崎麻美と一緒だった。この研究所の裏切り者は福井でも小野でもなく横山副所長であった。しかも”裏切った”のはホンの半年前のことで、サイバーテック本社による事前のチェックも意味を成さなかった。


 「前田と江藤の二人は、小野がスパイと思っているようだから助かったよまったく。それにしても二人は研究所に昼から見ないけどお前知らないか」と横山はイライラした表情を浮かべていた。所長から「早く出発することになったので、研究所のことは頼む」といわれたが、何処にいるまでは教えてもらえなかった。


 「あの二人のことを知るわけないじゃないよ。わたしゃ江藤の指示でトラックを回送していたのだから。明日はそれに機材を積んで松山に行きなさいってことなのよ。なんで運送業者に頼まないのかしら」と怪訝そうな顔をしていた。二人が”奴ら”側のスパイだった!


 「あの二人に尾行を付けとけばよかったけど、手配するのを忘れていたよ。まあ、取りあえず東京に行くのは間違いないけどもよ。東京の連中が何か機械娘たちに工作するかもしれないけど、取りあえずあいつ等が戻ってきた時の段取りを考えようぜ」と横山はさらにイライラした態度を取っていた。横山は二人に”奴ら”の工作員を尾行させるつもりだったが、予想よりも早くふたりともどこかに出かけていったため、工作員が来た時には手遅れだった。


 横山が”奴ら”の陣営に落ちた理由は”経済的問題”であった。要は多額の負債があることに漬け込まれてしまったのだ。研究所の財務を担当している者が実は経済的に破綻しているのは会社に知られたらまずいほかなかった。それに研究所の資金にも手をつけている。そのため、薫の電脳と機械娘を”奴ら”に売り渡して、着服の証拠をも消そうと言うのが副所長の横山の企みだった。自分は一緒に襲撃された”被害者”のふりでもしようとの魂胆だった。

 

 「まあ、十日後には前田たちは戻ってくる。そのときは研究所もろとも葬ってやろうぜ。そうそうワシは”被害者”にならないといけないので、ボスにはくれぐれも上手にやってくれと伝えてちょうだい」とデスクの椅子に深く腰を落としていた。それは自身の計画の成功を疑っていなかった。


 そのころ所長と薫は、美由紀を父の泰三が運転する軽トラックに乗ってもらい、近畿か東海付近まで同行してもらうことに決めた。取りあえず美由紀には首から下が機械娘ぼ姿なので大き目の浴衣を着てもらって怪しまれないようにすることにしたが、前田所長は研究所のことが心配だった。おそらく”奴ら”の工作員が付近に潜んでいるのは確実なので、自分らは遠回りして研究所の前を通らないこととした。


 「国家情報局からの通報では、横山の周辺に不審なことがあるのはわかっていたが、もう裏切っていたとは残念だ。まあ最期の研究所の仕事として囮になってもらおう。本当なら説得すべきかもしれないが、一度”奴ら”の手に落ちた者に情けは無用だ」と祐三は研究所の方角を見ながらつぶやいていた。


 先に出発した美由紀と泰三の車とは別の方角に車を向けて、「このコテージにもしかすると二度と来れないかも知れないが、もし機会があれば次は楽しくバーベキューなどしてみんなと楽しみたいものだ」といって、祐三は自動運転モードにして薫と一緒に出発した。薫はコテージの周りの風景を義眼に焼き付けるようにみつめていた。

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