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00-06 なんでバイトを募集するのだ(新装版)

 この研究所は機械娘プロジェクトを推進するために設置されたが、そこにいる研究員と技術者は全員女性であり、必要に応じて男性の研究員が出張してきていた。それは管理職も同じで前田所長と横山副所長以外に男性職員は在籍しておらず、男性といえば守衛のみであった。


 研究所から少し離れた渓流沿いにあるコテージが前田所長の自宅だった。そこに青いメタリックな外骨格を持つガイノイドがいた。このガイノイドは美由紀が持っている”ガーディアン・レディ”エリカに良く似た姿をしていた。


 「薫くん、君がその姿になって10ヶ月が経つのね。いくら長期着用タイプの実証試験といったって、自分が被験者になることもなかったのに」と前田所長はそのガイノイドに話しかけていた。いや、そのガイノイドの中身は人間で江藤薫自身だった。


 「副所長の手前、一緒にあきれたような表情をしたけど、あれって事前に予定していた機械娘の被験者に問題があると私が言ったから言い出したことだろ? このプロジェクト自体最初からスパイが潜入している疑いがあるって問題になってきたけど、最終段階になって特にひどくなったし。だいたい君だって私がスパイだと思い込んでいた時期があったし」といってメタリックボディの胸部を触っていた。本当ならこれはセクハラ行為だが薫は何ら気にもしていない様子だった。そればかりか、やぶさかでもないといった様子だった。


 「所長、いや祐三さん。あなたもご存知だけど機械娘の被験者として赴任してくるはずだった大久保沙羅さんが殺害されたじゃないの? 彼女は機械娘に搭載している強制学習機能の適応性が高いとして松山本社から派遣されるはずだったのに、どうもクローン体だったそうじゃない。本人はかなり前に消されていたということだし」といって少し不安そうな動作を薫はしていた。その表情は窺い知れなかったが、もし見えたらより判るはずだった。


 大久保沙羅のクローンが研究所に赴任する直前になって、本物の沙羅の死体の一部が松山市内で発見されたため発覚したが、そもそもクローンを誰が製造したかが問題になっていた。


 「おそらく”奴ら”の仕業だろう。それにしてもクローンを潜入させるために殺害するだなんて本当に酷い事をするもんだ、あのクローンだって生命活動を終えるのも時間の問題だそうだ」と前田所長はデスクの上の資料に目を通していた。そこに研究所のある中国地方内の大学に送ったバイト求人票への応募状況が記載されていた。


 「いまどきネットに求人票を載せないなんて個人経営の商店しかしないことだよ。まあ、ネットに載せたら”奴ら”が工作員を堂々と送ってくるのは間違いないけどさ。今回だってわかたものじゃないよ。それにしても薫くん、なんで大学生のバイトを募集するのだよ。別に強制学習機能の被験者だったら27.8歳ぐらいまで問題ないでしょ」と前田所長は質問した。すると薫はその硬質な外骨格で覆われた体で彼の後ろにもたれかかってきた。


 「実はね、大陸のあのオバチャンが警備のものを遣してくれるというのよ。それで折角だから誰が本人なのか当ててみろ、これもリサーチ力を試すためだと。それとうちの義父がね、どうしても引き止めたい優秀な学生がそっちにいるのだけど、バイトならやるかもしれないので試験したうえで採用しろというのよ。だからバイト選抜の多額の経費をかけて行なってもいいというのよ。本当は、”奴ら”の動きをさぐるためでもあるけど」といって、前田所長の首に薫は腕を回した。


 今の薫は機械娘なので硬い感触が首に走っていたが、そこには愛情も少し感じていた。”奴ら”とは現在社会最強最悪のテロリスト集団であったが、機械娘は彼らに対抗する手段として生み出されたものであった。最もその機械娘も”奴ら”によって生み出されたものを改良したものではあったが。


 ”奴ら”の手に寄らない機械娘になることが出来るのが現在のところ10代から20代までの若い女性だけであったが、先に選抜した被験者候補生に問題があったから、急遽バイトで募集することになったのだ。


 そのことは研究所のメンバーには伏せられていた。研究所に複数の”奴ら”の手下がいるのは確実だからだ。だからこそ、研究所の外にある所長のコテージでこのような話をしていた。


 「取りあえず機械娘の被験者になるバイトが決まれば、君はこれを脱ぐのだよね。はやく生身の君に会いたいものだ」といって所長は薫にハグしていた。そして小一時間ほど二人だけの時を過ごした。


 研究所に戻る際、薫は研究所のワゴンの器具入れに入った。所長と密会しているのを研究所員にバレないようにだ。もっとも一部には気付かれている様子ではあったが。


 「そうそう、薫くん。わたしは適正試験の日は国家情報局に顔を出してくるよ。他の人には鮎の渓流釣りに行くため有給休暇を取ったことにしてくれ」


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