09-07 今井泰三との邂逅
「まあ忘れていてもしかたないなあ。俺があんたに会ったのは大戦前だからなあ。たしかあんたが六歳だったからな。俺に対してあんたは、日本人は母さんと祖父母以外は嫌いだなんていうから、ほとんど顔を会わせてもらえなかったからな。あの時あんたみたいな娘が自分の子になればいいのにと思ったものだよ」といった。彼は薫と会ったことがあるというのだ。薫は幼い遠い日の事を思い出した。たしか熊のような大男の日本人と母に似たおばちゃんが北京の家に来たことを。たしか私はあの日泣き出していたのだ、日本人は怖いといって。まあ今では完全に日本人だけど。
そう驚いている薫に対し泰三はさらに畳み掛けることを続けたのだ、その時薫はいつのまにか自分が電脳になっていた事以来の衝撃を受けてしまった。「俺の家内はあんたの母の江藤香織と従姉妹だったんだよ、だから俺んところの美由紀はあんたのハトコだ。北京に行ったあの時あんたの母から卵巣から卵子を提供してもらうために行ってたんだ。家内が卵巣の病気で卵子が出来なくなっていたので、家内の頼みで卵子をもらったんだ。あの時もらった卵子を何度か失敗したけど最後の卵子を体外受精して生まれたのが美由紀だ。だから美由紀は生物学的にはあんたの父親違いの妹だ! 」
さすがの薫も驚いてしまった、自分に血が繋がった妹がいたことを。無論、民法上は姉妹とは認められることはないが、生物学的にはDNAに共通点多いわけだ。だから薫と美由紀の体型が酷似していたことは不思議でもなかった。「それじゃ、あなたの娘さんと私は姉妹だというわけですか? 確かに彼女と似ているなあとは思っていたのですが、私も知りませんでした。母が卵子を提供したこともですが」と言うのがやっとだった。
無論、薫はスパイが入りこまないようにするため、美由紀の事は様々なことを調べたが、まさか今井家と江藤家は親族だったとは薫も気が付いていなかった。しかも血を分けた妹とは。どうりで体格も顔の作りも似ていたわけだ。
泰三は用意されたコーヒーを飲みながら「まあ、アンタのことは美由紀に話したことはないから知らないよ。でもなんとかレディーに出演していたアンタを憧れた時にも言ってないし。ハトコとはいえ付き合いがないから言ってないよ。あんたと違い俺の娘だから頭の出来は悪いけどもしかたないさ。まああんたのように大人の色気のある女に成長してくれたのはうれしいけど」




