09-03 ”奴ら”のターゲットは薫!
このように具体的な事をいわなかったのは、ここに来ている研究所員の一人にスパイ疑惑があったためだ。しかも疑惑がある管理職とは別に。すぐに外せば問題はなかったが、それでは”奴ら”にばれてしまうのであえてそうしていたのだ。薫は疑惑の整備士のひとり山崎麻美に声をかけていた。「あなた6月からうちの研究所に来たばかりなのにお別れなのは残念だね。明日悪いけど岡山に行ってチャーターした資材運搬用のトラックを受領してください。それとあさってからあなたはお盆休みですが、私たちが東京から戻る前の日に出勤してください」とだけいった。薫は茶番だけど仕方ないと思った。彼女の疑いは限りなく黒だったからだ。
疑惑の一人である研究員兼事務長の小野明美も、この場に来ていたが後で薫の宿泊室に呼び出していた。「小野さん、あなたは9月15日にインドネシア赴任が決まりました。そこで悪いのですが、私たちが東京から戻る21日まで出勤をお願いします。その後は異動特別休暇になりますので。それと美咲に搭載されたラインブルグの製品、あなたが発注されたということですが、まさか問題はなかったですよね? あの部品が故障の原因でしたので、今後業者の選定は厳格にしてください」といった。小野は何かをいいたそうであったが、何も言わずに出て行った。
この時既に”奴ら”の探知網に薫ら機械娘プロジェクト一行はマークされていた。意図的に流した情報で”奴ら”の殲滅をなんらかの方法で企てている事を知ったからだ。その方法がわからないのでマークしていた。さらには薫の電脳の中に「強制学習機能」に関する技術情報に加えサイバーテックが持つあらゆる情報が保存されていることも伝わっていた。そのため薫の電脳は”値段が付けられないぐらいの価値”があると思われることになった。薫を殺害し頭部だけを奪おうとする陰謀が張り巡らされていた。
仮に薫の生命反応が消える、すなわち死亡した場合には電脳の記録も消去される機能も装備されているにはされているが、確実に作動する保障もないうえに、ある方法を使えばフリーズすることもわかっているため、もしもその方法を知っているものが薫に使うと無傷で電脳を手に入れることが出来るかもしれなかった。
「本当に失礼だわ、私の身よりも頭の方が大事だから出国するのはやめにしてもらいたいなんて。気持ちは判るけどそうでもなければ”奴ら”の尻尾なんか捕まえられないだろうから。むしろ私が身を張って囮になっているのよ」と薫は話していた。内々に内閣国家情報部から自粛するようにという通達があった。場合によっては強制措置もありうるという強硬な要求だった。無論、薫は応じる気はなく、懲罰覚悟で出国することを計画していた。




