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夏バイトに行て機械娘にされてしまった  作者: ジャン・幸田
第七章:機械娘たちの困惑
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美咲の疑問とカンナの帰還

 その日一日、薫ら研究所に残っていたスタッフは聖美を機械娘として調整する作業を行なっていた。聖美は義体であるので本人の生体脳に挿入されている義体を制御する制御装置と機械娘の外骨格の制御装置をシンクロさせる作業が難航していた。いくら義体と機械娘の制御装置が同じメーカーであるとはいえ、全く異なるものを動かすようにしているプログラムとの相性がうまくいかなかったからだ。


 聖美はいくら生身の部分が残されているとはいえ、義体になった部分がなければ人間としての姿ではいらでない状態だった。そのうえに義体の上に機械娘の身体を被せられたのだから、精神的に機械そのものになることは受け入れるのは難しかったといえる。そのため機械的なトラブル以上に聖美の精神的負担がシステムに干渉していたのかもしれなかった。


 生体と機械を体内ないし外部で融合させようとして、このような困難なものになる事態は、過去にも数多く発生しているが、最近では薫の生体脳と補助電脳がうまくやってきたところ、機械娘との過度の情報のやり取りで異常をきたす実例があった。薫は聖美がこれ以上機械の身体になることを抵抗しているのかもしれないと思っていた。


 この日の作業では、聖美が取り合えず機械娘として最小限の活動ができるように調製した。明日は自衛隊の演習場で実弾を使った試験を行なう予定であったが、この試験に関するものは火器担当のスタッフが徹夜でやることになった。聖美の気持ちは機械娘のフェイスガードの下に隠れ見えなかったが、相当疲れているのだけは確かだった。「聖美、こんなに時間がかかってごめんね。実は明日あなたの恩師の苫米地さんが会いたいといっているのよ。いいよね」という薫の言葉にはっとした。


 苫米地とは自衛隊の機兵隊部隊のトップで、聖美の父親代わりのような人物だった。「実は、私の祖父と二十年来の友人で、私も知っていたわ。本当は部外者だから聞いてはいけない事だけど、あなたが義体になった時の経緯を聞いたわ。ここだけの話だけど来月その敵と対峙するかもしれないから、覚悟していてね」といって、薫は聖美のいる部屋を後にした。


 聖美は薫がいっていた「敵と対峙するかもしれないから」という言葉が気になっていた。これって、もしかすると、この研究所にいる機械娘は見本市に出るだけでなく、何か別の危険な事をするというのだろうかということだろうか? 実弾試験はそのためなのかと考えていた。


 夕方、試験にはない救助活動をしていた美由紀ら三人が研究所に戻ってきた。全身に付けられていた保護カバーは泥だらけで破れていた。作業所に入り三人の保護カバーを外すと真新しい機械娘の外装が現れた。その姿は中に人間の少女が入っているなど想像できないものであった。


 三人は夕食の時間になったが、「いくら今機械だからといっても、これじゃ味気ないよう美咲」と真実が話すように、その食事はフェイスガードの横にある搬入口からチューブでジェル状の栄養剤が送り込まれるものだった。もちろん、美由紀と真実の場合、フェイスガードの口の部分を外せば普通の食事を取ることも可能だが、このオプションは非常時のもので、可能な限りバイトの機械娘はフェイスガードを外さないことになっていた。そのため、美由紀らバイトの身体は機械娘が機械娘として活動させるための内臓であり動力源としかみなされていないともいえた。


 美咲は薫のデスクに行こうとしていた。自分が入っている機械娘の事を聞きたかったからだ。美咲が着せられたガイノイドスーツは、GGS770シリーズのシリアルナンバーGGS770-005で、通称”Gミサキ”だった。最新型モデルのガイノイドの外骨格を機械娘に流用したものだった。


 もちろん中に生身の人間が入るため様々な機能が追加されており、あらゆる場面に対応できるように演算機能を通常のモデルよりも数十倍増強したり、過酷な環境、たとえば解体中の核分裂型原子炉の炉心に入っても中の生体を被爆から守るようにするなどの機能が追加されていた。


 またクライアントになる可能性がある商談相手のため、オプションで追加可能な機能がほぼ一通り備えられていた。いわば美咲はガイノイドとしても超一流の機能を持たされていた。


 機械娘にされた美咲はひとつ疑問に思っていた。「女性を機械の身体に閉じ込めてガイノイドのようにさせるのが機械娘ということは判ります。では男性を同様にアンドロイドのようにしたものは、この会社ではあるのですか」というものだった。


 その疑問を薫にぶつけたところ、「ええ、男性用の機体の研究は東京本社管轄の東第一研究所と松山本社管轄の第二研究所でも行っているわ。でも機械娘にする研究はうちだけよ。いまのところは」というものだった。


 薫の話によれば、男性用の方が軍事用にしても民生用にしても需要は大きいが、基礎研究は被験者が女性の方が使いやすいので、先進的な研究は女性スタッフばかりのここで行っているというものだった。あともうひとつの理由は「技術者自ら被験者になれない研究というものもつまらないと思ったからだ」という。やはり薫は自分も身体をはった研究をしなければ気がすまない技術者のようだった。


 薫は何を思ったのか、東第一研究所で進行中の男性が着用するアンドロイドスーツ。そちらでは”シーマシンメン”と呼ぶ動画を見せてくれた。なんでも製品化はそちらの方が早かったが、深海資源探査用なので薫が言うには「潜水艦を海底で歩けるようにしてついでに泳げるようにして男に着せたやつ」といっていた。


 映し出された映像には金属の鱗に覆われた深海魚のような外装をした半漁人といえるグロテスクな機械が出ていた。その機械の中には男の潜水士が入っているという。しかも深海を往復するのに時間がかかるので、潜水士は最大三週間もその中に入っているというのだ。


 「まあ、あなたも機械娘になっているから同じようなものだけどね。私も十ヶ月も機械娘の中に入っていたけど、時々快適だから、このまま一生機械娘の姿でいてもいいかなと思ったぐらいだったわ。そうそう、あなたのだけ気道に管を入れているけど今度外すわね。なんか拷問の道具みたいになったからというわけではないよ。実はあなたの機械娘の呼吸法は液体換気法を装着することを意図していたんだけど、間に合わなかったので管だけを入れたのよ。知っているかもしれないけど、肺臓の中を特殊な液体で満たして効率よく呼吸させるものよ。さっき見せた”シーマシンメン”と同じものよ。ただ、あなたの場合故障する危険もあるし、オプションの提案はうちの三陸研究所がやってくれることになったから、問題なくなったのよ。それよりも、今度あなたを東京本社直属の研究所に連れて行ってあげるわ。なんでも最新鋭のパワードスーツ搭載型のスーパーコンピューターをあなたの外骨格に入れてあげるから」と薫は美咲に来週の予定を言った。どうやら美咲の機械娘の頭脳はさらに強化するということらしかった。


 美咲と入れ替わるように入ってきた女性がいた。バイトで唯一機械娘になっていない川島カンナだ。彼女は本社で研修を受けて戻ってきたのだ。薫は事務的な説明をした後、いきなり中国語でカンナに話しかけてきた。しかも酷く険しい表情で「あんたって本当は東国国防部の曹玲華の部下でしょ? 本当の正体はわかっているのよ。よくも図々しくうちの研究所に来たものだ。あんたを機械娘にしなくてよかったよ。一体何が目的なのか言いなさいよ」と激しい口調で言い寄っていた。


 カンナは「ええ、私は東国国防部のエージェントだわ。こんなに簡単に潜入できるはずは無いと思っていたけど、ばれていたのね。ただ安心して、私も曹もあなたの味方だわ。あなたに未曾有の危険が迫っているから派遣されたのよ」と、それまでの可愛らしい表情ではない顔であった。





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