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夏バイトに行て機械娘にされてしまった  作者: ジャン・幸田
第七章:機械娘たちの困惑
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機械娘たちの長距離走

 機械娘にされた三人の機能試験が行われていたが、当然円周コースなのであまりにも早く走るとコースアウトする危険があった。実際、達川部長が乗ったティルトローター機が着陸しようとした際には、美由紀が驚いて急停止しようとしてタイミングを誤りバランスを崩してしまう事故をおこした。


 美由紀が入っているエリカの上半身のウェアはちぎれボロボロになったので、新しいものに着替えたが、「美由紀、あなた生身だったら今頃、医務室送りだろうし、保護のための分厚い全身タイツが無かったら、主任が着ていたガイノイドスーツの外骨格が傷だらけになっていたよ。気を付けなさいよ」と”試験担当”の芳実は言った。とはいえ、彼女も試作用のガイノイドスーツで同じように転倒事故を起こしていたが。


 「10分間で運動場を何周できるか」という項目があり、三人は一斉にスタートした。彼女らはスーツの力で”人間離れした”速度で走っていた。しかし最初に脱落したのは美咲だった。彼女は高校時代から科学部在籍であり体育が苦手で、基礎体力も弱く”人としても”足が遅い部類になので無理の無い話しであった。機械娘に選ばれたのも彼女の知力が優先されたもので、体力系は二の次だった。それでも300メートルコースを15秒ほどで走っていたから乗用車よりも早かった。


 当然、美咲は「なんてスピードなの? これって機械娘の力なの、すごいわねえ。風になったみたい」と感動していた。無理も無い、”頭でっかちの美人”であったため、身体的能力が人並み以下で、高校時代にオープンスクールに来た小学生にすら足の速さで負けてしまったほどで、当然体育の成績だけはからっきし駄目だった。


 一方、残りの美由紀と真実は競うように走っており、運動場の土がえぐれるほどの勢いだった。その光景を見ていた他のスタッフもあきれてしまうほどだった。二人は互いにライバル心が芽生えたようで、負けてたまるものかとムキになっていた。どうも機械娘にされてから闘争心に火がついたようだった。


 真実は夢はかなわなかったが、マシンガールプロレスに入門したくて、格闘技だけでなく基礎体力つくりのためトレーニングをしていたので、体力は人一倍だった。また美由紀は体力的に恵まれており、足は速く力も強かった。引っ込み思案で目立ちたくないからと言って、教師から何かスポーツをやりなさいといっても応じなかったが、機械娘になってから性格が解放された様子だった。そのため互いに時々「あんたには負けないわ」といって競い走っていたわけである。


 その後、三人は跳躍力の試験や打撃力の試験を行った後で、旧講堂にあるシュミレーターに集められた。初日に黒いボディスーツを着せられ適性試験を受けたところだ。あの時とは違い機械娘の姿になっていたが、美由紀達は感慨深かった。あの時は身体を機械の拘束して行うものだったが、今は身体そのものが機械に覆われてしまい、生身はその機械を動かすための器官に過ぎなかった。


 そのためポットに入って機械娘の表面にある外部入力用の端子をゲーム機に接続し、物理的に360度動けるように回転マシーンを表面に取り付けた。そうして現れたのが、互いの姿がバーチャル空間に現れた。加奈は「あなた達には、互いに格闘してもらいます。もっとも現実にしてもらうと怪我もしますし機械娘の装置も傷んだりします。そこで仮想空間で戦ってもらいます」というものだった。ただ仮想とはいえゲーム内で受けた衝撃や感覚は機械娘の外骨格に物理的にフィードバックされるため、仮想で倒れた場合には実際に倒れたような衝撃をうけるものだった。いわば身体も追体験するわけである。


 ここで喜んだのは当然のことだが真実だった。好きなプロレス技が出来るからだ。ここでも美咲は格闘センスなど全く無いので最初は及び腰だったが、加奈から何か指示を受けたらしく、突然闘い始めた。それに驚いた美由紀は加奈に尋ねると機械娘の装備のひとつである「強制学習能力機能」を発動したからという。これは素人であっても機械娘の中にいれば半ば強引に何でも出来るようになる機能だという。それで格闘技を見たことの無い美咲でも闘えるようになった。


 美由紀もその機能を使わせてもらった。すると目の前の画面に格闘を教えるコマンドが表示され、しかも身体をマンツーマンで指導を受けたかのように機械娘の外骨格も動いてくれた。美咲は先ほど早く走った時と同じように感動しており「私はこんなに戦う女じゃなかったわ。でも機械が私を変えてくれて嬉しい」と言っていた。美由紀も機械娘のサポート能力の高さに感動していた。


 一方で真実は、最後まで「強制学習能力機能」を使わせてもらえなかったので、「なんか二人とも私と同じぐらいプロレス技が使えるようになって悔しいわ、今度は勝って見せるわ」とつぶやいていた。こうして三人が一緒になった機械娘の試験は終わった。


 次の日、機械娘三人は研究所周辺を150km近く走るプログラムをこなす事になった。これは三人の機械娘として習熟させるとともに、スーツの機能が充分使えるかを確認する目的もあった。なお、聖美は別メニューで、今日一日旧講堂で試験を行うということだった。


 昨日と同じく三人の機械娘は、首から下は分厚い全身タイツを外骨格の上に着込んで、その上をサイバーテックロイド陸上部が使う競技用の水着みたいなウェアを着ていた。傍から見ると大きな女が異様な姿でいるようだった。普段の機械娘の女性らしい外装から大きくかけ離れており、お世辞でもキレイとはいえないものだった。


 「美咲、あなた、まるでお相撲さんの肉襦袢を着た女みたいでおかしいよ。保護するためと言っても笑えてしまうわ」と真実がいったが、美咲は「あら、あなたもまるで丸々太った犬みたいですよ。下手して転ぶとボールみたいにころがってしまいますよ」と冗談を言っていた。美由紀は昨日グラウンドで派手に転倒したので、このように保護のための全身タイツを着せられた理由が判るが、それにしても自分の好きなエリカの姿が見れないというのは残念だった。


 研究所は中国山地の山奥にあるので、付近の道路は谷間や尾根などを曲がりくねりながら伸びていた。機械娘の安全を確認するため、前方には同じ姿をしたガイノイドが走っていた。それらは完全に「機械」であるので、自律的な動きはしないので研究員の芳実と加奈がコマンドを送っていた。


 「加奈、あんたって機械娘になった際に同じような試験をやったよね? あの時は保護カバーを着せたり、ガイノイドを前に走らすなんて事をしなかったね。主任は、よっぽどあの娘達が着ているスーツの事が大事なようだけど、これって新製品として発表するからじゃないかな。それならどうして私たち研究員を機械娘にしないのかな」と芳実に聞いていた。


 「なんか噂では機械娘のプロジェクトは成功しようと失敗しても今年の9月30日で打ち切りだという話があったわね。彼女達バイトが着ている機械娘のガイノイドスーツって次の見本市が正式発表会になるはずだったけど、その前に一部週刊誌がスクープしたというじゃないの? だから持ち株会社の社長が怒っているそうよ。だから所長も主任も飛ばされるという憶測があるようだけど、どうなるだろうね。あなたも私も10月で雇用契約が切れるから、次はこんな山奥の研究所じゃなくて他所に行きたいね」などと話していた。


 彼女達、機械娘のプロジェクトに参加していた研究員は二十人いたが、全て契約研究員だったので契約が終われば元の所属であるサイバーテックロイドの親会社のグローバル・ネクストの研究部門に戻る事になっていた。しかも契約延長の話がなかったので、研究所員の間から近いうちの機械娘プロジェクトの終了が噂されていた。この研究所も研究部門は閉鎖され、アンドロイドスーツやガイノイドスーツの製造工場に特化するという噂が社内に流れていた。


 もっとも、機械娘シリーズは既に製品化が決定しており、男性用も別の研究所で開発されているので、いわば成功で終了という形である。だから円満な終了であるが、主任の江藤薫と所長の前田祐三の処遇についてはなんら判らなかった。そのため、二人とも更迭という噂であった。


 ただし研究員たちは薫の素性を知らされてなく、薫がサイバーテックロイド会長の孫娘という事を知っていたのは所長と副所長と優実、製造部門の福井のおばちゃんだけだったので、研究員達は飛ばされるか解雇されるかぐらいにしか思っていなかった。


 三人の機械娘とサポーターのガイノイドの一団は、山の中の道を走っていた。沿道には人がすまなくなって久しい山々であり、時折シカやイノシシなどの野生動物が山の中を歩いていたりする光景があった。また時々対向車が通ることもあったが、彼女ら機械娘は一応陸上部のトレーニングをしているように見えるので、気になって立ち止まる車は皆無だった。


 行程の半分が終わろうとしていた時、先発していたガイノイドから前方で交通事故が起きているかもしれませんという報告があった。そのため一行は減速し始めた。


 すると機械娘三人は、谷底に向かってガードレールが落ち込んでいるのを見つけた。それで谷底を見ると一台の乗用車が落ちていた。どうも自動運転装置の故障かマニュアル操作中の運転ミスでガードレールを突き破り落ちたようであった。


 芳実はすぐに警察に通報したが薫にも報告した。すると「試験は中断で構わないから、谷底に落ちた車をエリカいや美由紀達に確認させて。それから報告をお願い」といわれた。そこで芳実は美由紀達を谷底に降りてと指示した。


 三人は下まで降りてみると、車中に負傷した老夫婦がうずくまっていた。エアバックは作動したのである程度の衝撃は避けられた様子だったが、激しく転がったためか車体の至る所が傷ついていた。さらに深刻だったのは妻のほうはなんとか意識があるようだったが、運転していた夫は頭を強打し意識がなくハンドルと座椅子の間に挟まっていた。

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