00-04 面接に行くことにしたのよ(改訂・増補版)
美由紀の住むアパートは今でも崩れてきそうな壁で、元の色がわからないぐらい錆付いて変色したトタン屋根という外装であることから、同級生からは「昭和の雰囲気が強すぎる古臭さ」や「女の子が住む場所じゃないむさ苦しい場所」などといわれ嫌われていた。実際、同じ大学の学生はこのアパートには他に誰もいなかった。
これも父の泰三が不動産屋で「大学に近くて最も安い物件」を要求し、ひと悶着したうえで娘の意見を聞かずに強引に決めた部屋だった。決め手といえば前の住民が残していった使い古した家電や家具が丸ごと残っていたので使い回しが出来るという、自らの懐をあまり痛まないですむからという理由であった。
そのような理由で住んでいる美由紀の部屋は「昭和時代の貧乏学生の部屋」そのものであったが、唯一目を引くのは下駄箱の上に置いてある「ガーディアン・レディ」のフィギュアであった。「エリカさん、私はあなたが着ているようなパワードスーツを作ってみたいからと思ったばっかりに、こんな片田舎に来てしまったのよ、責任を取ってほしいものだよ、ホント」と八つ当たり気味に投げかけた。そもそもこのフィギュアが美由紀を此処に来た理由であった。
このフィギュアになっているエリカは、普段は駄目でドジなメガネ娘がパワードスーツを着用することで超人的な活躍をする特撮番組のキャラクターであったが、美由紀はこの作品を見てファンになっただけでなく、とうとう進路までも左右した結果、現在の場所に落ち着いたわけである。現在通っている大学ではパワードスーツ製造工程を学べるという事がパンフレットに書いてあったから。
この学部に行きたいといった時、父の怒り酷かった。以前にも自衛隊のパワードスーツ部隊である機兵隊の養成コースに進みたいといった時よりもマシだったが、大変なものであった。結局、お金は出してもらえたので許してもらえたのだろうけど、それから父とは満足に口を聞いていなかった。
それにしても美由紀はこんな海も見えず都会から遠く離れた学校になろうとは思ってもいなかった。これなら父が望んでいた建築関係の学部に進学すればよかったかなとも考えていた、
本当は物価の高い首都圏は無理でももう少し大きな都市にある大学に行きたかった。だが入試に連戦連敗し浪人は許されないと粘った末に引っかかったのが現在通う大学である。
この大学の長所といえば学問の妨げになるような誘惑が町に全くないといもので、この町といえば山間部の渓谷に沿った細長い田舎町で、周囲が深い森林地帯にある「のどかな」ところだった。そのような環境であるから都市部とは違い刺激的な娯楽を提供する場所がなく退屈な町だった。そのため同級生の中にはこの町には住まず近くの少し大きな倉敷などで下宿して通ってくるものも少なくなかったぐらいである。
「エリカさん、いっそ私もあなたのように変身して何処かに旅立ちたいよ」と脇に置いたフィギアに語りつつ美由紀は履歴書を仕上げるのを何度も失敗していた。