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夏バイトに行て機械娘にされてしまった  作者: ジャン・幸田
第六章:機械娘への変身
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機械娘たちの気持ち

 機械娘のエリカになった美由紀は嬉しくってたまらなかった。中学生の時に見た番組のヒロインにリアルになったような気分だった。もっともバイトで何をやらされるのかわからないという不安もあった。この日から「人間」のための部屋でなく「機械娘」のための部屋に移動した。そこには美咲と真実もいた。しかし、いままでとは扱いが違っていた。


 薫が「機械娘は備品」という理由がわかった。そこにはベットに代わりカプセルが置かれ様々な器具があった。また家具もなく代わりに道具箱のようなものが置かれていた。簡単に言うと寝室が物置になったといったものだった。まさに人扱いから物扱いというわけだ。ただ床や道具は機械娘の外骨格のメタリックが痛まないように比較的柔らかな素材で覆われており、綺麗な部屋であった。そのため「上品な病室」といった感じもした。


 「まあ、私は機械娘だから機械のメンテナンスはしっかりしないといけないって事よね。それにしてもエリカのボディはすばらしい」とエリカの外骨格をむさぼるように見つめていた。まるでナルシストといわれても違和感ないような状態であった。


 朝までの柔らかな手足の肌は炭素繊維素材や特殊金属で構成された外骨格に覆われ、外からの音や光といった感覚は、一旦外骨格で受けたものが電気信号に変換された上で生身に伝わるようになっていた。また食事はフェイスガードを装着している間は顎が固定されているので、口に通された管から流動食が注がれるようになっていた。また下腹部には様々な管が通されているので、トイレといっても機械娘専用の装置にセットしなければならなくなっていた。それに外観こそ人型であるが、人間らしい肌も見えず声も機械的なもので、表面は冷たく体温すら感じられなくなっていた。ただ背中の排気口から中から放出される熱や水蒸気が僅かに確認できるぐらいだった。


 一連の行動は、すでに人間のそれではなく機械そのもので、事情を知らなければ機械仕掛けの人形が人間のような行動をしているように思われたであろう。もっとも、中には生身の女性が入っており、生身を駆動装置とした機械人形が活動しているといった表現が正しいのかもしれなかった。


 美咲が「美由紀、機械娘になった気分はどうなの? やはりお気に入りのエリカになったから嬉しいのよね」と触ってきた。さっき、薫に無理矢理機械娘たちのリーダーに指名された優実が「機械娘になっている間は互いに敬称を付けず下の名前でお互いを呼びなさい。私も”優実”と呼んでいいから」との通達が出されたから、互いに下の名前で呼ぶようになった。


 「なんか、わたし機械の体に生まれ変わったみたい。人間の時のように暑さも感じないし、かといって肌が蒸れるわけでもないしね。本当に外骨格の下に生身が隠れているのが信じられないぐらいだね。でも、心臓の鼓動も呼吸もしているもが感じられるから、まだ人間だと認識するわね」といったところで、美由紀はもしこの二つがなければ、私は人ではなく機械というわけだろうね。と思い「このままでいると、そのうち機械そのものとなったりして、なんて考えてしまうわね。でも美咲も真実も機械娘にされて三日目になるけどどうなの」と二人に尋ねた。


 「ほら、わたしって気道と食道に太い管を入れられいるでしょ。最初は気持ち悪かったけど段々なれてきて、いまじゃ生まれた時からこんな状態だったと思うぐらいよ。こうして会話しているのは機械娘の発生装置のおかげだけど自分がしゃべりたい内容を代わりに言ってくれるという感覚もおかしいね。それに、あなたと同じで機械の身体に転生したかのような気分だわ。なんだか性格も変わりそうだし」と美咲は答えた。たしかに美咲がこんなにしゃべるとは思っていなかった。


 ここまで黙っていた真実はようやく私の番だとばかり「あたいも、憧れのマシンガールプロレスラーになったみたいよ。でも脱ぐことは出来ないから悪役レスラーというわけだわ。だって他のレスラーはリングサイドでパワードスーツに着替えるのに、悪役レスラーは最初から最後までパワードスーツを脱がないので正体がわからないしね」といった。彼女も美由紀ほどでないにしても機械娘になったことが嬉しい様子だった。


 それに対し美咲は「あなたたち二人は機械娘になれて嬉しいかも知れないけど私は複雑よ。いままで人間にどのような機械的援助を与えることで特殊な能力を発揮させるかを学んできたのに、まさか自分がその被験者にされると思っていなかったのよ。しかも私のはずなのに鏡に映るのは機械にされた身体なのよ。どうにかなってしまうのではないかと思ってしまう。それに、お化粧をして身だしなみをする必要がなくなったとはいっても、機械娘の中の私は年頃の女の子というのに、もう誰も私とは認めてくれそうに無いから本当に不思議な気分よ」と気持ちを吐露した。やはり彼女だけは機械娘にされたことに違和感があるようであったがしかし次のことを聞いて、なにもかも悪くは無いのかなとも思った。


 「でも、機械娘になって時間に余裕があるときにネットワークに接続して大学の卒業論文作成のための資料集めと分析に、私の機械娘に装着されている演算装置を使ってもいいと優実の許可を取ったから。これで夏休み中にナントカなりそうでよかったと思うね。いまのところ機械娘になっての一番のメリットかな」といいながら、美咲の頭部の装置からタブレットの画面に映し出されたのは、様々な論文がスクロールされている映像だった。そう美咲は機械娘になっても研究生の卵の魂は捨てていなかった。それが、自分自身に関することを扱っていたとしてもである。


 一方、薫の下には一通のメールが来ていた。それはかつて番組プロデューサーとして付き合っていた男である。「テレビ毎朝の広岡か?いまさらガーディアン・レディの続編を作るんじゃあるまいし。前に自衛隊の機兵部隊を題材にしたドラマを作りたいからといって、うちに協力を求めてきた時に、もう二度と連絡しないでといったはずじゃないの? 本当に懲りないな」といっていた。


 彼からのメールには機械娘のスーツを着た女の子を貸してくれと書いていた。そこには続編ないしリメイクは絶対無理だけど、刑事モノに登場させたいのでプロモーション映像を作らせてくれというものだった。どうもリバイバルヒットを狙って、「パワードスーツを着た女の子が活躍する番組」を新規に作りたいとの魂胆であることは間違いなかった。


 「あのね、今の”ガーディアン・エンジェル”には次の見本市で商品の売込みをしてもらうこと以外にも大事な任務があるというのよ。それなのにテレビ番組に協力できるわけないわ。でも、今度機械娘システムが市販されたら彼のテレビ局で買ってもらって、勝手に番組でも映画でも好きに作ってもらえばいいさ」と考えたところで、ふと思い出しだ。そう薫がまだスーツアクトレス兼女優だった時のことを。


 「そういえば、あの時はまだパワードスーツの体温調節機能が未熟だったので、炎天下でアクションシーンを撮影した後でインナースーツを脱いだら全身が汗疹だらけで、義父さまが嫁入り前の娘の身体をどうするつもりなんかと広岡のところにクレームを入れたこともあったね。それを思うとエリカの中に入っていた十ヶ月間は機械になった気分がして本当に気持ちよかったよね。でも、もう二度とあの拘束感と機械との一体感が体験できなのはすごくさびしいな」といって、自分の手を見ていた。その手には婚約指輪がはめられていた。


 「この手も身体も、もう機械の身体に入ることは無いのね。機械娘にはなれないのね。次は家事をしながらパートでなにか研究をするというのも悪くは無いね」と一人しゃべっていた。


 薫のデスクには「週刊民衆」のゲラ刷りがあった。そこには「30年代にブームになったガーディアン・レディのチームが実現したのか? スーツ製作元が新機軸のスーツ開発に成功!近日受注生産始まる! 」と大きく書いていた。そう、機械娘の件が公になった。このゲラ刷りが事前に出回っていたので、先ほどの広岡のメールがあったわけだ。


 「それにしても祐三さんも、なんで三流週刊誌が最初に記事にするように仕向けたのかな? 毎朝新聞は無理でも、せめて帝都政経新聞にしてもらいたかったね。でも広岡の奴が食らいついたということは、効果があったということだね。ということは奴等がここを狙うのも時間の問題ということね」と言った。後からすると薫と研究所にとって残された時間が少なくなりつつあった。


 すると彼女はデスクの上にあったお気に入りの人形やアクセサリーなどを箱に詰め始めた。「しばらくあなたたちには、東京の実家に疎開してもらうわ。次の新しい場所に落ち着くまで隠れていてね。でも、この写真だけはいつも私と一緒だからカバンにいれるわね」と家族写真二枚をしまっていた。


 「さあ、これからが勝負よ! 忙しくなるわよ! 早く五人組をまとめてここを離れるようにしないといけないね。もう二度とこの研究所には戻れないかもしれないから」と言った。どうやら薫は機械娘にした美由紀と美咲、真実にしゃべっていない事がまだたくさん隠しているようだった。


 さて、機械娘になった三人は優実のところにいって自分たちのスーツについての説明をしてもらっていた。「真実のスーツは廉価版だけどオプションでいくらでもバージョンアップは可能だから様々な用途はあるわ。美咲のスーツは演算能力もあるし情報収集能力もあるので役に立つわ。でも美由紀のスーツは薫のスーツから情報分析装置と演算装置を外して美咲の方にくっつけたから、今のところネットワーク装置だけは良いけど、マスコットになるぐらいの能力しかないわ。でもね美由紀のスーツには試験的に戦闘指揮装置を明日搭載するから、それは自衛隊の演習場で試しましょうね」と言った。


 美由紀は「マスコットというのはわかるけど、自衛隊の演習とは一体何? また何かよくわからないことをやらせるというわけ?」と困惑していた。まさかエリカは戦闘用だったというわけなの? と疑問を感じていた。

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