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夏バイトに行て機械娘にされてしまった  作者: ジャン・幸田
第六章:機械娘への変身
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美由紀がエリカになった日 

 その日薫は朝から疲れ気味だった。機械娘から人間の姿に戻り数日、十ヶ月間も機械娘の中にいることに順応していた身体が、そのサポートを失ったことで、まるで夏バテが秋になってから出てきたようにしんどい状態だったからだ。また義眼の故障だけでなく電脳痛というか頭痛もするようになっていた。


 「いくら機械娘になるのが7度目でも、いつもこうなるのね。でも今回は無理し過ぎちゃったかな。それに今回は日増しに頭痛がひどくなるねえ。やはり明日、達川部長に脳の機能をチェックしてもらわないといけないね」と薫は一人で考えていた。次の日は達川部長は聖美の義体の状態を確認を受けた上で機械娘にする処置をすることになっていた。そのため達川部長に薫は自分の「補助電脳」をついでに見てもらうことになっていた。


 「でもね達川部長は、私の頭は既に人工知能によって支配されているから、よく調べると超高性能の人工知能の開発に生かせるというけど、本当に失礼よ。私は一応生身の女なのよ、いくら機械娘のような機械になるのが好きなと言われてもしかたはないけど。でも頭痛の原因がわからないから仕方ないわね」と半ば諦めていた。それよりも今は薫自身がもう機械娘になれない方がショックだった。「まあ、電脳とリンクさせないパワードスーツなら問題ないようだけど、やはり機械娘のほうがいいんだけど、しかたはないわね。これからの身の振り方は自分で考えなければいけないわね」と別の将来を模索し始めたようだった。


 既に機械娘になった美咲と真実、それと今日処置をする美由紀と優実が集められた。そこに現れた薫は、研究所の白いブラウスに白衣と黒いスカートの制服を着ていたが、やややつれた表情だった。どうやら昨晩は一晩中なにかをどこかでしていたようだ。


「みなさん、おはようございます。今日は今井美由紀さんを機械娘に調整します。そしてガイノイドスーツは私か着ていたエリカの改修型を使います。ご存知のようにガーディアン・レディのエリカのバージョン・アップですが今回でマーク8になります。最初のモデルは単なるパワードスーツでせいぜいアクションシーンで役に立つという程度でしたが、現在ではネットワークに接続して問題を解決したり、高濃度に核で汚染された地域で活動したり、また重武装の歩兵並の戦力があったりします。


 それと実はエリカは汎用型機械娘用ガイノイドスーツの前量産型なのでっすが、それよりも津田さんが着ているガイノイドスーツが一番機能があります。そのためエリカは津田さんのよりも限られた機能です。


 そのため今井さんにはいろいろ試してもらいますので大変だと思いますが、頑張ってください。それとうちの研究員の菊池優実も今日機械娘に調整します。彼女にはみなさん四人の取りまとめ役をしていただきます。私の補助をしていただきますので、よく指示を聞いてください。また赤松さんは県の免許センターに行ってもらっておりますが、彼女のガイノイドスーツは戦闘用なので皆さんのとは色々ちがっておりますが、五人はチームですので頑張ってください。それとあなたたちは対外的には会社の”備品”扱いなのでそのつもりで」と挨拶した。


 研究所では今回の機械娘は非公式には「ガーディアン・エンジェル」と呼ばれていた。あの「ガーディアン・レディ」にあやかったものであるが、違う点が多かった。元祖は四人だったのに五人になったということもあるが、その役割と着用するガイノイドスーツが違っていたからだ。


 美咲は演算能力と探査能力が強化されたタイプで、しかも宇宙飛行を想定したものであるため、呼吸器と消化器が完全に機械と一体化しており身体の内部まで調整装置とそえに付随した管が挿入されていた。


 真実は安価な量産型の提案モデルなので最小限の生命維持装置とネットワーク機能しか装着されていなかった。引いて言えば「脱がなくてもよい廉価版パワードスーツ」といったところだった。オプションで様々な機能が外付け出来るようになってはいたが、その分潰しが利く機械娘だった。


 美由紀は長期間着用モデルのためであり、設計上は薫の十ヶ月よりも長い二年間の連続着用が可能であった。ただ今回はそこまでの長期着用は予定されていないが、将来的には気圧が極端に低い火星で人類が活動することを想定していた。実際に火星への殖民は2035年に世界同時多発テロ戦争で荒廃した世界に見切りを付けた人々が「片道飛行」の殖民に出かけていた。それを支援する者も多いので火星への長期宇宙飛行や火星活動に有用なスーツの開発が行われており、それに即したものといえた。


 聖美と優実のスーツについては、まだ詳細はわからないが世界各国の軍隊や民間軍事企業を顧客としているのは間違いなかった。この時、美由紀は聖美の義体が軍事用のものとは知らなかったが、彼女の義体が装甲が無いことを除けばエリカの攻撃力よりも上で、ガイノイドスーツを着用すると機動戦車並みの戦力になる予定だという。


 今日、調整される優実の場合、ガイノイドスーツは警備用のガイノイドを流用したものだった。そのため外観がとても威圧的な姿であったので、急遽女性らしいフォルムになるように改造したものになった。先に機械娘にされた二人のように生まれたままに近い姿になり、全自動着装装置の前にいた。


 その直前、「優実、無理を頼んでごめんね。今回のスーツは指揮機能と防御機能が強化されているのであなたの身体に比べて”がっしりとした”ものなのよ。あなたの専門とは外れるので担当の研究員をサポートさせるから、頑張ってね。それと東国から帰国したら、私の今後についての告白をするから」と、三十を目の前にして妖艶な雰囲気を出している彼女の身体にそっと手を置いた。そして「あなたの、この綺麗な身体。同性の私が見ても嫉妬するぐらいよ。その身体を機械娘にするのはもったいないけど、これが終わったらみんなと一緒に温泉に行きましょうね」と語りかけていた。いままで仕事に関係の無い旅行など誘ったことが無い薫になにかがあった事に優実は気づいた。


 全自動着装装置に入った優実の身体は人間から機械娘にされ、その上にガイノイドスーツが被せられた。装置から出てきた彼女の姿は警備用の流用であるから威圧的であった。薄紫に赤いラインが入った胸と腰が強調されたボディに流線型の頭部に覆われ、目がある位置にはLEDのライトがついていた。まさに機械的な姿だった。彼女はさっそくネットワークにつないだが、薫の補助電脳から通信があり、「優実、着心地はいかが、こうしてあなたと私は他のメンバーに聞かれる事がなく会話できるわ」というものだった。


 そして、いよいよ美由紀が機械娘になる時が来た。美由紀はどんなにこの日を待ちどおしいと思ったことであるか。既に胴体は機械娘のアンダーであるGスーツインナーで覆われていたが、まだ人間の姿のままであった。美由紀は、これじゃ下手なコスプレ衣装よりも恥ずかしいと思っていた。


 そのため中途半端な姿が恥ずかしいから、機械娘になった美咲と真実がうらやましかった。しかし美咲は気道と食道が機械によって塞がれたことによる適応障害のような症状が現れ、真美は嬉しくってたまらないのか、なぜかマシンガールプロレスの真似のような動きをするので、それはドウかなと思ってはいたが。


 美咲は「今井さんはエリカになるからこれからエリカと呼んでもいいのかな」といったり、真実は「一緒に機械娘になったら外骨格が破損しない程度にプロレスをしたい」などといっていた。美由紀も機械娘にされようとしていた。


 「エリカのパワードスーツのデザインも最初とは違うわね。同じなのは青色というてんじゃないかな」と薫は用意されたガイノイドスーツの外骨格を触りながらチェックしていた。つい最近まで着ていたエリカの外骨格であるが、素手で触りながら「もう一度、これを私が着れたらいいんだけど、こうして触るだけで我慢するしかないのがすごく残念」と機械娘に未練たっぷりな表情だった。


 いよいよエリカの外骨格が美由紀の身体を覆い始めた。一つ一つの部材が身体に取り付けられるたびに感激していた。先日見た悪夢と違い心地よい拘束感と満足感に包まれていたが、まさに美由紀の身体はエリカに包まれていった。美由紀の柔らかい素肌はエリカの硬い素材で出来た外骨格に覆われてしまい、美由紀の五感のうち外部から受ける情報は機械娘の電気的なパルスによる生体脳への刺激に変換されていった。


 「わたしって、人間から機械になるというわけ? まるで改造人間にされているようだけどものすごく気持ちいい感覚だわ」とある種の性的な興奮に似た快感に襲われていた。体の中にも機械が入り込みつつあったが、美咲がおぞましく思ったのとは違い、美由紀は心地よく思いながら受け入れていた。


 装置の扉が開いた時、美由紀の姿は着えそこにはエリカがいた。「わたしはついにエリカになったのね。感動的だ、待ちにまった事だ」と。装置の外に置かれていた姿見の鏡を見ながらうっとりしていた。


 エリカの概観は青色を基調に水色のラインが入り、顔は初代のエリカに酷似した二木えりか(薫)を無機質にしたようなフェイスガードであった。また胸は女性らしい大きなもので腰もくびれていた。美由紀が持っているエリカのフィギュアと比べたら大人の雰囲気が漂っていた。美由紀は感激で胸がいっぱいだった。


 しかし美由紀は気づいた。「はて、エリカになったはいいが、私って一体バイトで何をすればいいのだろう?」そう、彼女はエリカになることばかりを考えて、その後何をやらされるのかを考えていなかったのだ。どこの世界に賃金を支払って「コスプレ」をさせて何もさせないという企業があるものかということだ。すこし不安になった。


 薫はエリカになった美由紀を羨望の眼差しで見つめながら「エリカは次の見本市ではマスコットガールみたいなものです。昔から人気がありますので、今井さんはエリカとして頑張ってください」といいながら自分が機械娘だった時のことをしみじみと思い出していた。


 ガーディアン・レディの時にはリーダーのサヤカが赤色で、エリカが青色、ミドリが緑色、ミナヨが黒色のパーソナルカラーだった。今回バイトの機械娘が着る色と一致しているが、やはりマスコットは薫が女優時代に着ていたエリカということで決まっているようだ。しかもリーダー役は紫の優実であった。それに非公式にはガーディアン・エンジェルと言っているがその機能は互換性が無いといえるほど違っていた。


 「あの時ね、リーダー役だった一岡サヤカを演じていた一岡彩夏って子と本当はウマが悪くて、ドラマ中では厚い友情で結ばれた友人だったけど、プライベートでは全く付き合いがなくてね。だから引退後はミドリとミナヨとは時々メールのやり取りをするけど、サヤカとは音信不通で。でも今じゃ彼女は大河ドラマに出演するなど一人前の女優だからわからないものだわ」と昔話を薫はしていたが、新たに機械娘になった二人のチェックをスタッフに任せて所要があるといって外に出ていった。


 しばらくして薫は車で研究所から離れたダムの湖畔まで行っていた。夏の夕暮れが迫る水面に夕日が映し出されていたが。薫は車からさえ離れ、湖畔のベンチに一人座っていた。まわりには誰もおらず薫の孤独な面を感じさせるような光景だった。


 薫はそこで所長の前田と連絡を取っていた。どうやら研究所の誰にも知られてはいけない会話をしているようだった。「祐三さん、取り合えずバイトのうち三人は機械娘にしたわ。それと優実もね。計画では黒の子にするつもりだったけど、あなたが言うとおり研究員に指導役にしたわ。最後の一人はこれから行う作戦で用いる新機種の試作をはじめて生身の身体を挿入することになるので失敗しないように頑張るわ。ところで、あの二つの計画の首尾はどう?」と話していた。


 通信回線の向こうの声は「薫さん。取り合えず研究所の処置についての段取りは出来たよ。あとは君と僕がいない日に実行あるのみだ。それと祖父殿の記者発表の後で各方面が動いてくれるそうだ。それより前に機械娘の事も自然な形で公になるようにマスコミにリークした。後はいつ奴等が食いついてくるかだ。タイミングがいつになっても危険であることは間違いないけど」といった。やはり二人は何かをたくらんでいるようだった。


 最後に祐三は薫に向かってある言葉を送った。「君の質問だけど答えはイエスだ。この危機を乗り越えたら次の段階に進もう」というものだった。薫の表情は日が暮れてしまうよく見えなかったが、彼女は静かに車で帰宅した。明日にはガーディアン・エンジェルの活動が本格的に始動することになることに、薫は気を引き締めていた。

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