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夏バイトに行て機械娘にされてしまった  作者: ジャン・幸田
第五章:機械娘へと改造される日々
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薫はもう機械娘になれない

予定では美咲と真実が機械娘に調整された次の日に美由紀の番であったが、なぜか聖美と一緒に出荷作業の手伝いを頼まれた。明日に延期というわけだ。


 美由紀は「美咲と真美は機械娘として、何か試験をしているようだけど私ら二人は倉庫係りなの? 」と作業服姿でガイノイドのロボット倉庫から出てきた部品が入った段ボールをピッキングしてコンテナに収めていた。なんでも大口の注文があって急いで出荷して欲しいということだった。モニターが写す通りに入れて、しかもスキャナーに読み取らすと間違ったらエラーが出るので初心者でも出来るバイトと言うことだった。


 ガイノイド製造部の福井は「あんたら、大学行ってんでしょ? そんなことすぐに出来るでしょ」と次から次へと出荷作業のため、出庫指示を機械に打ち込んでいった。ちなみに福井は製造部では数少ない”人間”の作業者だったが、歳は六十近い派手なおばさんだった。


 美由紀はこのときまで聖美と話したことは無かった。そこで何か話をしようとは思ってはいたが、なかなか切り出せずにいた。どうも近寄りがたい雰囲気のお姉さんといった気がしたからだ。


 昼休憩になり福井のおばさんは「あんたら、ようこんな山奥に来たもんだね。まあ若いときにはこんなこともいいじゃろ。それにしたってあんたらどこからきたんじゃ? 」といった。すると聖美は「おととしまで関東で就職しいたのですが、大怪我をして帰郷したのです」といって自分の義足を見せた。


 「ほうなかなかの義足じゃな。二十年前とは大きな違いだ。私の息子もテロで足を失ったのだけど、その時の義足といったら機械そのものでな。相当ショックをうけていたよ。なかなかいいのう」と福井は言った。


 聖美は一瞬はっとしたような表情を出したが、気をとりなおしたらしく「ええ、今はいいものができるようでして。あとは彼氏も出来ればいいのですけどね」と切り替えしていた。後は三人と取り留めの無い話をしていたが、美由紀は「津田さん、明日教習所に行って国際免許証を取りに行くというけど、どんあ免許ですか?」と聞いた。聖美が明日は研究所の車で県の免許センターに行くと聞いたからだ。


 「ええ、明日は大型二足歩行機械の免許証のね、国際免許を取りに行くのよ。なんでも次の研修で使うかもしれないからといわれたからよ。もちろん費用は研究所持ちで」と聖美は頭を掻きながら言った。「ええ、車の免許ではなくロボットの免許なの? すごいですね。以前は建設会社がどこかで勤めていたのですか? 」と美由紀に言われ、彼女はうなずいた。


 実は陸上自衛隊の時に取得した免許で、このような大型の二足歩行機械が必要な仕事は非常に限られている。しかも聖美はパワードスーツを着用したままで操縦することが出来る高度の技能を持っていた。もっとも聖美は除隊した以上二度とあの「殺人機械」に乗るまいと思っていたが、研究所に経験者と知られた以上しかたは無かった。


 「まあ、私がレンタカーを運転してとは言われないと思うから、東国の人たちを和ますために、ロボットに乗って曲芸でも披露してとでもいうことかもね」と冗談を言ったが、実際のところ何をやらされるのかは何も教えてもらっていなかった。


 そのごろ菊池優実は薫に呼ばれていた。薫の左目の義眼の交換は終わったらしく、元の薫の顔になっていた。ようやく仕事がはかどると言っていた。すると薫からとんでもないことを頼まれていた。


「ここまで期日がせまっているのに私も機械娘になれというの薫?どういうことなの?」と詰め寄られていた。見本市にバイトの四人とは別に機械娘になれということだった。このときまで計画に無いことだったから、驚くのも無理も無かった。薫は「まあ、機械娘になったほうが研究所のホストコンピューターと接続できるから、仕事ははかどるよ」といった。


 薫と優実は上司と部下というだけでなく、学生時代からの友人だった。だから二人で話をしている時は互いに呼び捨てだ。薫にとって研究所内で一番仲良しの同性だった。


 二人が出合ったきっかけは七年前に「ガーディアン・レディ」の撮影だった。第三シーズン中の番組の企画で、パワードスーツを着てみたいというエキストラ募集の時にやってきた学生の一人だった。その時薫と優実は意気投合し現在では同じ職場だ。


 その企画では、サイバーテックロイド社の新製品の宣伝も兼ねて、量産型パワードスーツを「悪の組織の戦闘員が使うもの」ということにして、試作機と前量産型も含め番組に出すという企画だった。それでメーカーと製作会社が折角だからエキストラにモニターもさせようということになった。この時の募集では「ガーディアン・レディで出てくる女性型パワードスーツを着たいエキストラ女性を応募します。その際出演者と懇親会もします」というもので、どちらかといえば懇親会目当ての女のこの方が多かった。、


 この時の話は、薫ことエリカが他の学生と一緒に犯罪組織に拉致されたうえ洗脳されて女戦闘員にされてしまう話であったが、エリカ(番組中ではドジな娘という設定なので)が悪の組織に連れて行かれそうになっているのを防ごうとして、優実が扮する通行人が拉致しようとする工作員を殴ったが一緒に拉致され戦闘員にされたという話だった。この時の話のメインはエリカでなかったので、ほとんど出番らしいところはここぐらいだった。


 この時の懇親会で、他のエキストラが女優生活についての話を聞きたかったのに、優実だけが番組で使った女戦闘員用のパワードスーツの熱調節機能について話をしていたのを、薫が気に入ったため、大学卒業後に薫の研究班に就職することになった。


 薫は隠していたことを話し始めた。「優実、あなたと私の仲だから話すけど、十月に大幅な組織改編があるのよ。その時この研究所の研究員はだぶん全員異動になるわ。このことは噂になっているので驚かないだろうけど、私も研究主任を解任されると思うよ。これは社長の義兄の方針なのよ。その後の予定は未定だけど、研究員にとって悪くは無い話ではないよ。私のほうは退職して早く誰かと一緒になるのもいいのかなと思うよ」と、髪の毛を弄りながら話していた。このしぐさは薫の癖であったが、機械娘になっている間は見れなかったものだ。


 優実はいよいよ機械娘が実用化されるので、秘密ではなくなるので研究拠点を本社に移管するという噂のことだと思った。ただ薫が研究から手を引くような話しぶりなのが気になった。もっとも「誰かと一緒になる」の発言は薫が前田祐三所長と深い関係とは知らなかったので、単に結婚願望を話しているだけだと思っていた。


 その時薫は自分のデスクにある家族写真のうち、いつも他の人が居るとき倒して隠している写真たてを起こし優実に見せた。そこには石橋の欄干の前で撮影した家族らしき集合写真だった。その写真の中央に小さな女の子がプレゼントのような袋を持ち嬉しそうな表情をしていた。後ろにはその子の両親とその祖父母などに見える六人の大人が並んでいた。その一人はこの会社の江藤英樹会長で、しかも若かった。その背景には教科書で見たことがあるような当の昔に失われた異国の風景であった。すると薫はなぜか昔話をし始めた。


 「優実、この写真は私が六歳の時にまだ中国人だったときの家族写真なの。その時住んでいた北京の頤和園の昆明湖に掛かる橋の上でみんなで一緒に撮影したもんだよ。ほら背景には万寿山が写っているでしょ。いまでは廃墟に埋もれてしまって、みる影もないけど。


 この写真を写した時には、こうして日本で生活するだなんて夢にも思っていなかったわ。私はお母さんが日本語を教えてくれなかったから、全く理解できなかったわね。だから、この時おじい様と話したことは全く覚えていないのよ。


 そういえば私は北京に居た時、友達に”小日本”などといじめられたこともあったのよ。それで日本が本当とても嫌いでね、今のように日本人になって日本語で話して生活するなんて絶対するもんかと子供ながら考えていたのよ。

 

 でも両親は北京が核攻撃で壊滅した時に家族と一緒に犠牲になったの。私だけは直前にお父さんにお前だけでも先に行けといわれて旅客機に乗せられていたから助かったけど、そのあと父さんどうして最期まで一緒にいさせてくれなかったのよ恨んだものよ。


 それで孤児になった私は母の実家だった江藤家に引き取られたんだけど、日本人になることが本当にイヤだったわ。だから日本国籍になって江藤薫になっても、高校に入学するまで中国名の張薫媛で通していたぐらいだったよ。


 でもね九歳のときに大きな病気になったのよ。あの時中国から日本に向かう旅客機が日本海上空で核爆発に遭遇したのも原因といわれたけど、眼球と視神経と大脳皮質が悪性腫瘍に侵されてね、それで失明したうえ運動機能が麻痺して植物状態になって数年過ごしたわ。そのころ私はこの世とあの世の間を漂っているような感覚で、今から思うとあれは魂の牢獄に閉じ込められていたのだと思うよ。


 その後、十二歳の時に脳組織だけは蘇生して意識が戻ったけど、実用になる機械義眼が無くて十四歳まで暗闇で過ごしたわ」と、いままで研究員の誰にも話していないことをしゃべっていた。このように昔の話をする薫は始めて見た。しかも不遇な話だった。いままで誰にも話さなかったのも無理は無いと思った。みんなが知っているのは「ガーディアン・レディ」に出ていた二木エリカを演じていた薫以降だけだからだ。


 薫はさらに優実に驚愕の事実を話した。自分は”頭が改造人間”だというのだ。「実は、私の脳組織って半分人工のものなの。いわば人工知能みたいなものでね。おかしいでしょ。このように血が通った生身なのに頭の中身は機械なのよ。そうなったのもおじい様が私の意識を取り戻そうとして、生体脳と電脳のハイブリットを作っている研究機関の協力を得たからよ。本当に感謝はしているけど、でもどうしてこんな頭に改造されて嫌な時もあったわ。


 優実に機械娘になるようにお願いするのは、私はもう機械娘になれないからなの。今日、義眼を交換する際に頭痛がひどかったので、補助電脳を義体研究部とネットワークで接続して調べてもらったの。すると機械娘として過ごしている十ヶ月の間に補助電脳が相当ダメージを受けているそうよ。


 取り合えず見本市が終わってから、私の補助電脳を全面的にメンテナンスすることに決めたけど、どうも原因は機械娘のシステムと補助電脳がリンクした際に情報のやり取りに負荷がかかりすぎていたようなの。


 こうして人間として活動しているのは問題ないかもしれないけど、機械娘になることは電脳が深刻なダメージを受けることになるので、弱っている今の補助電脳をリンクすると死亡するかもしれないといわれたの」と悲しそうな表情を浮かべていた。


 薫にとって機械娘になることは、たとえ人ではなく物扱いにされても、機械と一体になることは至福の時間だったからだ。だからこそ、ここまで技術者として開発に没頭してきたのだから。そのとき薫から見せられた彼女の脳の立体画像は、大脳皮質の表面は金属に覆われ、幾本の電極が埋め込まれていた。いわば脳は機械に管理されていた。また視神経も眼球も人工物で眼球にはあらゆる情報が映し出されるようになっており、時々うっとうしくなるということだった。だからエリカになっている間、研究所のホストコンピューターと電脳を接続することで、恐ろしいまでの研究スピードが実現できたというわけらしかった。


 機械娘の姿こそが自分の本当の姿とばかりに、薫は見本市に機械娘としてなんとしても出ようと画策していたようであった。「本当はねえ、バイトの子達にも黙って、私がエリカ以外のガイノイドスーツを着て機械娘になって一緒に行動しようと思っていたのよ。私の代わりにはおじい様のところで今ホームキーパーをしているガイノイド”薫子”を使おうと思ったけど、それももうだめだということよ」


 ”薫子”とは元々「ガーディアン・レディ」で、作中のエリカがパワードスーツで活動中に本人の代わりをする「影武者」として製造されたもので、番組が終わった後は江藤家に引き取られ、いまでは会長宅で働いている。容姿も現在の薫の年齢に調整されており、よく見ないと作り物とはわからない出来栄えである。そのため薫がエリカになっている間、どうしても薫が出席しないといけない行事に代役として送り出したことも、しばしばあった。


 「優実には、私の後任の主任研究員になってもらうため研究所の留守をしてもらうつもりだったけど、どうも次の見本市の前後に大変な事が起きるかもしれないの。詳細は今は何もいえないけど、正念場になるわ。事態によっては、私が指示できなくなっているかもしれない。そこで、あなたには機械娘になってバイトの子達を率いてもらいたいの。取り合えず明日はエリカと一緒に機械娘に調整されてください。それであの子達を教育してね」


 自分の研究室に戻りながら優実は薫が今まで機械娘の開発に心血を注いできた理由は、電脳の自我に支配された薫が、機械脳にふさわしい外骨格を纏った生物に進化することを願っていたのかも知れないということかもしれないと思った。それによって、薫は機械娘になることで究極的には機械そのものになろうということだったが、今後はそれは叶わないというこということだ。もっとも優実にとっても機械娘になることは嫌いではないらしかったが。


 終業時間になり薫は研究所の制服から私服に着替えながら、自分の身体をよくみながら考えた。「いまの私の体は機械娘のエリカではなく生身の薫だ。機械だとは誰にも見られない。なのに私の脳は作り物ということとは信じられない。その現実から逃避するため十ヶ月も機械娘の中に閉じこもっていたわけだけど、それも今後は許されないというわけ?


 それにしても、私の脳が誰か他の人が作ったというわけ? こうして嬉しかったり悲しかったり満足感に浸ったり苦悩したりしているのに? 私の自我って魂がある人工知能というわけ? 薫媛の時の記憶もあるのにそれも偽りだというの? それにあんなに祐三さんのことが好きだし、江藤の家の人達も好きだし、研究所のみんなも好きなのに? 誰か答えて!」と非常に苦悩した様子だった。


 彼女は自分の部屋に帰らず研究所を飛び出して、自分の車で夜の深い森の中に消えていった。その晩、彼女がどこで何をしていたかは誰もしらない。

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