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夏バイトに行て機械娘にされてしまった  作者: ジャン・幸田
第五章:機械娘へと改造される日々
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機械娘にする工程の動画を見せられた

 月曜日の朝、研究員の菊池優実は慌てていた。いつも”いないのが当たり前”の所長の所在がつかめないのは問題ないが、主任研究員の薫の所在もわからなかった。所長の方は今日は公休日なので釣りにでもいっているのだろうけど、薫の場合、人間の姿に戻ったからといって羽を伸ばしてどこか遠くに行ってしまったのは確実だった。研究所内にある薫の部屋にはおらず薫の車もなかったからだ。


 しばらくして、ようやく薫から優実に連絡が入り、「迷惑をかけて本当に悪いけど、今日は体調がすぐれないので休ませてください。いま温泉地で外泊しているので、何かあってもすぐには研究所に帰れません。本日バイトにみせる研修用の画像や記録は第三研究室の棚に判るようにして置いてあるので、それを使ってください。今日の座学の進行をよろしくお願いします。それと悪いけど今日は緊急事態が起きない限り絶対に呼び出さないでね」というものだった。いつも「自分の事よりも研究のほうが大事」という薫にしては珍しい事だった。


 優実は薫は研究所では最長記録の十ヶ月も機械娘になっていたので、温泉に行って身体を癒そうとしたが、どっと疲れが出て休みたいといっていると思った。よほど身体に悪かったのかなと思っていた。「薫にしては本当に珍しい。よっぽど今日だけは仕事したくないという事だろうね。まあバイトの相手は私一人で十分だね。どうせ動画を再生して見せておけばいいし、今日は薫もいないので多少手抜きができていいかもしれないね」などと暢気に考えていた。


 しかし、優実をはじめ研究所のスタッフ一同、まさかこの時所長と薫は二人で夜釣りのあと、遠く離れた道後温泉まで行って一緒に休んでいることまでは想像できなかった。もっとも薫には非常事態があれば頭部に埋め込まれた補助電脳に直接アクセスすることが出来るので問題はなかったが。


 また優実は悪いと思いながら薫がどこにいるのだろうと思い、薫の補助電脳のGPS機能で探そうとしたが、機能が停止していていた。この機能は薫自身がつけたものであり、本人の意思で切ることは可能だった。


 「あの薫がまさか男と一緒なんてありえないから、疲れきって伸びている姿を研究所の誰にも見せたくないということかしら。まあ、これからしっかりと働いてもらうから、たまには休んでもらってもいいや」とあきれたように言った。薫のこの時の行動がスタッフにばれるのは、ずいぶん先のことであった。

 

 機械娘の被験者となる予定の四人は教室のようなところ、いや昔は教室だった部屋に集められていた。かつて生徒が使っていた机や椅子にかわり、今は大きなモニターがついた設計机のようなものが置かれていた。外の窓は外装を変更していないのでそのままだったが、部屋との間に強化ガラス入りの壁が作られていたため、外から侵入することは出来なかった。そのため高校時代に学んだ教室と似ているようで全く違う光景であった。


 優実は四人にまず、女性を機械娘にする工程だといって画像を再生し始めた。まず画像に写ったのは、昨日みたのと同じ薫の裸に近い姿だった。彼女は意識がないらしく身体に力は入っていなかった。見た目は死体のようだった。去年撮影された薫を機械娘にした時の記録だということだった。四人はこれから自分達に処置される工程を見せられるのである。


 薫の腰と胸には青色のGスーツインナーが装着しているので、ビキニ姿をしているように見えた。彼女の体はスタッフによって表面に人工皮下組織が丁寧に塗りつけられた。この組織は生体の皮膚組織が外骨格に覆われてしまうと、体内の体温や汗の逃げ道が無くなるので、外気や服に代行して外に熱や水分を排出するとともに、外からの衝撃に対する緩衝材の役割があるという。


 表面がジェル状の人工皮下組織に覆われた薫の身体のうえに、Gスーツインナーが被せられていった。頭部以外は青色になってしまったので、まるで全身タイツを着せられたような姿になった。ただ違うのは関節など身体が曲がる部分に継ぎ目があることだった。そのままでは、ただの「モジモジ君」のようだった。この日までに美由紀が受けていた処置はこの姿であったが、他の真実と美咲は腰だけで聖美にいたっては、まだ何も処置を受けていなかった。この違いは、個々に施される機械娘にする方法が異なっていたからだという。


 薫の身体の表面に何かパーツに分けられた表面を覆うものが被せられた。ここで説明が入り「これは人工強化筋肉です。外骨格を支え被験者の体力を増強する機能があります。また生体にとって過酷な環境、たとえば放射能や高温といった外的要因による負担を与えない機能があります」といっていた。


 ここまでは、薄いとはいえ筋肉組織で覆われた模型のようであったが、これからが機械娘にする本番だった。まず下半身に機械が置かれた。ここからはアップの画像に切り替わり、下腹部の前と後ろのハッチから体内に管のようなものが挿入されていった。後ろは肛門から大腸、小腸に達したという。これは消化器を管理するための機能があり。排泄物までコントロールするという。前は泌尿器と生殖器に入り込み、排泄物の管理をするもので、たとえ排尿をしても機械娘の外に出せるようにするものだという。


 この時、薫はうなされているのか気持ちがいいのかわからない声をだしていたが、管が身体の奥にまで入り込んで、肉体を機械娘にする作業をしているようで、見方によっては機械に侵食されるおぞましさに対する抗議のような声ともいえた。ここまで身体を機械に弄られたら、平気でいられるはずはなかった。一堂、このような処置を受けることにショックを受けている様子だった。機械娘になるには身体の中も機械を入れられてしまうからだ。


 次に頭部の処置が映し出されていた。まず薫の頭部に髪の毛になにか樹脂のようなもので固められ、ヘッドギアのようなものが被せられてしまった。次に目の部分にバイザーのようなものが被せられ、鼻と口には管のようなものを入れられてしまった。さらに顎当てのようなものが被せられた。


 ここまでの映像では薫の姿は、醜い出来損ないの人造人間のようなものであった。その上に人形娘の外骨格がはめられていった。そう「ガーディアン・エンジェル」のエリカの姿にするためだ。昨日まで見ていた薫の姿だ。最初に四人の前に現れた時、薫は自らを人間と言わず、他のガイノイド達(そういえば、他の機体にも機械娘が入っているという話はなかった)と同じように振舞っており、二足歩行機械の一体にしか思っていなかった。つまり普通の人々から機械人形と認識されてしまう姿に改造されるのだ!


 優実が説明するところによれば、エリカの姿をした機械娘は、番組登場時のパワードスーツと外見的なところは、多少女性的な膨らみを強調することで外骨格内の装備を増やしたり、背中にオプションで装置を背負えるようになっている程度であり、表面的にはマイナーなチェンジしか無いようにみえるが、完全に生身と外骨格が融合する点のほか、外骨格の性能が大きく向上しているという。


 番組の時に使われたパワードスーツは演技用のものだったので、実際の機能は着用してある程度重たいものを持ったりするぐらいしか出来なかったが、現在のエリカクラスの機械娘ことガイノイドスーツは、趣味で着用する場合のほか建設現場や深海底資源の採掘現場といった民需用、さらには警備や軍事用にも使えるように、汎用機能がオプションで付けられるようにしているとのことだった。また頭部には着用者をサポートする高性能補助人工知能も搭載されていて、着用者本人が気絶していても場合によっては活動できるという。


 このスーツは長期間連続着用が可能でしかも多機能になっており、番組で特撮合成で披露した長時間飛行できるフライトユニットこそないが、場合によっては様々な追加オプションが可能になっている。また番組にあったように高所から転落しても中の人は無事なように、衝撃吸収能力がすぐれているそうだ。


 いよいよ、画像のなかでは薫をエリカにする仕上げが行われていた。頭部にヘルメットのようなものをはめたが、その後外れないように充填材が挿入された。この充填材も外部からの衝撃から生体脳を守る機能があり、また頭皮と頭髪を守る機能が与えられていた。また後頭部は女性の長い髪を意識したような膨らみがあったが、これは生体が必要とする酸素を外部から取りいえるための吸気口と、通信ユニットや探査ユニットといった外部とのデータのやり取りを行う外部に出ている端子を守るためのものであった。


 そしてフェイスガードをはめて完成し、これで薫はエリカへと変身した。なおこのフェイスガードは女性の美しい顔をイメージしたもので、外からみた時に心理的威圧感を軽減する効果を狙ったものであるが、固定なので表情は基本として動かない。最近報道でみる紛争地域で活動する機兵部隊が着用するパワードスーツの頭部が、無機質的で人間の個性を持たない機械人形のようなものとは一線を画しているといえる。


 フェイスガードは文字通り生身の人間の顔を守るため、メンテナンス時を除けば外れないし、動くことも無いが、唯一の例外は呼吸システムが故障するなどの緊急時に口元が開く機能があるという。


 視界はバイザーが立体モニターになっているので問題なく、その映像はスーツ各所にある複数のカメラで取った映像を処理したものが映し出されるようになっており、後ろを振り向かなくても後ろを確認できる機能や、注意を必要な事態が発生したことを知らせる機能もつけられているなどといった説明を優実は次々としていった。


 画像の中の薫であるが、外骨格各所のチェックが終了したところで、立ち上がり自分が機械の身体になったことを認識しているようだった。そして本人は「2043年10月13日の火曜日。午後2時15分。わたし江藤薫は機械娘になりました。装着したガイノイドスーツはGGS700シリーズのシリアルナンバーGGS700-095です。これから可能な限りの長期間、研究所の研究素材として稼動します。私が具体的な指示を出しますが、ほかのガイノイド達と同じように備品のように扱っても結構です」と言った。

 

 優実は機械娘になった後についての説明をはじめた。食事は基本的に流動食になりますが、フェイスガードを外せば普通の食事を取ることも可能ですが、スーツの仕様によっては不可能な場合もあること。基本的に機械娘の発声は機械の身体に覆われて外に聞こえずらいので、本人の声を基にした人工声帯が顎にあるので、そこから発声します。また本人がしゃべりたいことは脳波を探知して発言しますし、オプションとして英語などの言語でしゃべることも可能になることを話した。


 また機械娘は、コアとして他の大型のパワードスーツを操縦したり、無人航空機の操縦なども可能のほか、補助人工知能がサポートすることで着用者本人が使ったことの無い機械でも使えるなどの機能があるなどの説明をした。


 美由紀は、薫に対し今日いてくれたら機械娘になる時の気分などを教えて欲しかったと思っていた。もっとも他の女性研究員の方も機械娘にされたことがあるようだが、やはりエリカになった時の話が聞きたくて残念だった。


 優実によれば、美由紀が着用するエリカは、薫が着ていたガイノイドスーツの性能向上バージョンなので大きく機能が違いとのことだった。早く機械娘になるのが待ち遠しい美由紀であった。

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