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夏バイトに行て機械娘にされてしまった  作者: ジャン・幸田
第四章:機械娘達の心と身体
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エリカの「中の人」の正体は

 日曜日の朝。夏休み前なら単発のバイトがなければ、午前中ゆっくりと過ごすのが日課だった美由紀。しかし、今は住み込みといってもよいバイトをしている。しかも、身体を張ったものをしている。自らの身体を機械を動かす部品として。


 目を覚ました美由紀は違和感を感じていた。既に胴体がGスーツインナーというものに覆われているからだ。見た目はレオタードの様であるが金属的な光沢がする素材で、素肌に密着していて外れないようになっていたからだ。胴体だけを見たら多くの人は機械の身体に改造されたといわれること間違いない外観だった。


 しかしGスーツインナーの下は生身のままであり、トイレに行きたくなった美由紀は与えられた部屋の同じフロアにあるトイレに駆け込んだ。しかし用を足す方法は既に人間のものではなくなっていた。


 「個体認識名称:美由紀排泄作業中」とパネルに恥ずかしい表示が出ていたが、座った椅子からノズルが伸びて股間の排泄口に接続していた。このとき美由紀の体内からノズルが排泄物を吸引していたのだ。いわば機械内部にたまった排水や廃棄物を強制的に除去しているのと同じだった。そのため美由紀は既に身体の機械化がはじまっているのだと認識せざるを得なかった。


 起床してから朝食まで時間があったので、「ガーディアン・レディ」を見ていた。そういえば高校の時に同級生から美由紀はエリカと少し似ているのかもしれないと言われたことがあったのを思い出した。ただこの時は他の同級生に「エリカはドジッ娘でメガネッ娘だけど頭がよく愛嬌があるけど、アンタは目立たない暗い娘でマスク娘、そして成績も芳しくなく無愛想」と逆のことを言われたことを思い出した。たしかに性質は大きく違っていたが、顔のつくりはよく似ているところもあったとはと思う。実際エリカの顔の雰囲気が私と近かったので感情移入をしやすかったのではないかと思ったこともあった。


 今日は午前10時からガイノイド・エリカの内部から江藤薫の身体を取り出す作業の日だ。機械娘にされる処置を受ける予定の四人が作業に立ち会うように指示されていた。そういえば、ここに来てからバイトとはいっても仕事らしいことはまだしていなかったが、やはり外骨格を付けてからは様々な実験に協力させられるのは確かだと思っていた。


 そのように思っているのは真実と美咲、聖美の三人も一緒だったが、また一緒に雑談をするほど打ち解けていなかった。だが、三人は聖美は何故Gスーツインナーを着用しない理由は知らなかった。この時バイトの誰一人聖美の義体のことを知らなかった。


 しかし、機械娘にする詳しいプロセスを教えてもらっていないのに、反対に人間に戻す作業を見学させる意図が判らなかったが、どうも機械娘になっても元に戻ることが出来るのを見せたかったかもしれない。しかし研究主任とはいえ自ら十ヶ月も機械の身体にする人体実験をする技術者としての江藤薫の素顔とはどんなものかを一同早く見たかった。


 真美は「きっと、たいした顔の人じゃないと思うよ。もしかすると老け顔だったりして」といったり、美咲は「技術者としては一流でも、女性としては人並みなのかもしれないですね。もしかすると頭はよくても顔に自信がないのかもしれません」といった。この時美由紀は美咲に「津田さんって、類人機械学生選手権の中四国代表ではなかったですか?確か史上最高ポイントで全国大会に優勝してドイツに行ったはずでは?」と尋ねた。美咲はその選手権史上最高に優秀な学生として全国紙のサイトや紙面に紹介されていた。その美由紀の言葉に美咲は戸惑っている様子であったが「あれねえ、残念だけど断ったのよ。実は飛行機に半日近く乗るのが怖くて、どうしても乗る勇気がなかったのよ。東京に行く時は新幹線だったからよかったけど、あの金属の塊というか炭素繊維で出来た筒に乗って空を飛んでいる自分が想像できなかったんだよ。もし今度チャンスがあったら飛行機嫌いを克服しないといけないと思っているところなの」と、気恥ずかしそうな表情を浮けべていた。


 美由紀は、科学技術の分野で優秀な学生でも、同じく技術の粋を集めた飛行機が嫌いな人もいるのだと思ったが、実際は美咲が有名になってフリーライターを名乗る男から自分が半島出身の孤児という出自を聞かされ、このまま日本代表としてドイツに行くのを一時の迷いで躊躇ったためとはいえなかった。


 四人が連れてこられた手術室のようなところの台の上には一体のガイノイドがあった。そうエリカこと薫であった。その姿は活動停止したガイノイドそのものであった。研究員たちはまず外骨格を外して絡み合った機械類を解体し始めていた。一部の装置は美由紀に再利用するため破損しないように慎重に作業していた。そして全身や顔面にはあらゆる機械が張り付いており、美由紀は自分もあのような姿にされると思うとぞっとした。


 全身Gスーツインナーに覆われた薫の身体が出てくると、特殊な液体に満たされたバスタブのようなものに浸からされた。すると全身を覆っていたパネルが剥がれ、生まれたままのような一糸纏わぬ女性が出てきた。その肌は十ヶ月も日光に晒されていなかったため、限りなく白く。髪の毛もまた解放されたことから液体の中でゆれていた。薫は意識がなく眠っていたようだ。


「あれ、江藤主任て二木恵理華さんではないですか」と美由紀が思わず口にだしてしまった。その名前は特撮番組「ガーディアン・レディ」でエリカ役をしていた女優兼スーツアクターの芸名であった。二木恵理華は番組が終了後程なく引退しており最近の消息がマスコミに取り上げられる事は全くない忘れ去られた名前だった。そう江藤薫は昔からエリカであった。

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