機械娘への第一歩
7月30日の土曜日、機械娘になる予定の四人と川島カンナが研究所に集合した。会議室に集合した後に今後の予定が発表された。まず真実と美咲が火曜日に機械娘になり、水曜日には美由紀、金曜日に聖美がそれぞれ機械娘になるというものだった。なぜその順番になったのかについての説明はなかったが、今日は座学を行った後で排出器官の機械化処置を行う予定だという。
座学であるが、人体の機械化についてであった。講師は斉藤芳実だった。彼女も機械娘になった経験があるそうだが、専門は人体の機械化だという。「よくSFでは生身の人間を改造しサイボーグにするということがありますが、実際にそうするのは事故などで人体が欠損した場合に限られます。現在では機械式の生身のものと変わらぬ機能を持つ義手や義足、義眼などがあります。しかしわざわざ健康な人間の身体を切り刻んで機械化することはありません。簡単に言うと義歯を入れた人間も”人工物”を入れるので、サイボーグの一種といえます。しかし健康な歯をわざわざ抜いて差し歯をする事はないように、健康な人間の臓器や手足を人工物に置き換えることはありません。しかし、人体を機械と融合させることで更なる能力を発揮させようとするのが、これからあなた達が着ていただくガイノイドスーツの外骨格です。この外骨格と生身をシンクロできるようにしたのが、機械娘です。これから9月2日から14日まで開催される見本市に参加していただきます。帰国後の9月17日ごろに元の身体に戻します。あなた達が通っている大学の新学期はたぶん9月25日前後だと思いますので、問題ないとおもいます」といった。
芳実の発言で聖美は自分がすでにサイボーグウーマンということを言いたかったが、まだ出会って数日しかたっていないバイト仲間に言う気にはなれなかった。また美咲も心の闇を抱えていたが、この時にはまだ言い出すことはなかった。そのため美由紀は二人の苦悩を知ったのは、ずいぶん後のことだった。
カンナはここで、チケットと案内書を持たされ、サイバーテックロイド西第三研究所を後にした。彼女は東京本社の研修施設がある筑波に向かったが、なぜ、同じようにバイトを希望したのに彼女だけが待遇が違うのかが不思議だった。それに四人にとって彼女がどのような人間なのかを知るのも、ずっと先のことだった。
その後の座学では機械娘の構造についての講義だった。「当社でガイノイドスーツの長期被験者のことを便宜的に”機械娘”といっていますが、サイボーグにするわけではありません。サイボーグのように一度身体に埋め込むと最新の装置に更新するのが難しくなりますし、健康な身体をわざわざ傷つける行為は人道上問題があります。そこで生身の人間をサイボーグに改造した時のような能力を発揮させるため、強化服、たとえばパワードスーツを着用すればいいですが、この場合、体温の調整の難しさや長時間の疲労が問題になります。そのほかの問題として生体からの体温の排熱や老廃物の排出、そして身体の拘束による体質の劣化などいろいろあります。そこで長期間着用するために強化服の外骨格と融合すること、すなわちガイノイドの部品の一部になるべく、体質を強制的に変化させるのが機械娘にすることです。今日はみなさんの排泄器官を改造いたします」といって別室に案内されたが、何故か聖美だけが来なかった。
真実、美咲、美由紀の三人は、入り口に「男子禁制」と張り紙がある部屋に通された。そこには部屋の真ん中にバスタブのような物に変な機器に囲まれた一角があった。すると芳実はいきなり、白衣の下をめくり下着をずり下ろし始めたではないか。気がおかしくなったと心配する三人に対し、芳実が見せた下腹部は、金属のようなものに覆われていた。そこだけ機械化されたような状態だった。
「三人にはこれから私のように下腹部を調整していただきます。これは体内から外に排泄される尿や便が機械の外骨格の外にスムーズに出るようにするものです。病院で寝たきりの患者や長期間宇宙服を脱げない飛行士が受ける処置と一緒です。まず、この装置に入るとアームが伸びてきて肛門と尿管にチューブが挿入されます。そして体内の深くまで器具が挿入されます。これでガイノイドスーツの中に入っていてもトイレに行くたびに脱ぐ必要がありませんし、かゆくなることがありません。ちなみにこれはGスーツインナーといいます」と、自分と同じ下腹部になれといった。
真美は「あのう、これって研究所の女性研究員は全員しているのですか?」と聞いたところ、「ええ、みんなしているわ。こんなものを着せられているので貞操帯なんていっているのよ。まあ、男と浮世をすることがなくていいけど」といった。美由紀は「貞操帯」の意味がわからなかったので真実に聞くと、結構恥ずかしいことを言われ赤面してしまった。
三人は順番に処置を受けることになったが、まず三人は着ているものを脱がされシャワーを浴びるようにといわれた。身体を拭いた後、上半身だけTシャツを着て問題の機械へ順番に下半身を入れた。この機械は同時に二人を処置できる構造なので、真実と美咲の二人が入った。すると身体の下半分が機械に覆われ変な作動音がし、十分後に再び現れた二人の下腹部は金属で出来たブルマのようなもので覆われていた。
真美は「なんなのこれ?腰だけ機械のボディみたいになっているじゃないの?これじゃカワイイ下着が着れないじゃないの」といい、美咲は「まるで腰だけ機械にされたようだよ。でもなんだか気持ちいい」といっていた。確かにそこの部分だけ見るとガイノイドの腰の外骨格を取り除いた時のような姿になっていた。
いよいよ美由紀の番である。自分も機械にされるという不安もあったが、エリカさんになる望みの方が打ち勝っていた。そして下半身を機械に差し込んだ。ここまではパワードスーツに身体を預けるようなものであったが、何も身につけてない点がいやらしかった。装置の中で美由紀は大股にされたが、なにやら変な液体がシャワーのようにそこに入ってきた。「これって、消毒しているの?これから何が始まるというのよ」という心配を他所に下腹部の穴に何かがはいってきた。それもすごく痛かった。
目立たない美由紀には男性経験はなかったが、もし将来初体験をした時にはこんな痛みなのかなと、エッチな妄想を思ってしまってたが、その間に美由紀の体内から排出する器具が挿入されていった。そして挿入された管には弁のようなものが付けられ、その周りの皮膚に汗や皮膚の垢を受け止める人工皮下組織が吹き付けられ、特殊な樹脂で作られたインナーが被せられた。
三人は機械娘の証明であるGスーツインナー姿になった。その後芳実にガイノイドスーツと接続する際の注意点と、今日からガイノイドスーツには入るまでのトイレの行き方を教えてもらった。
一方、聖美は薫のところに呼び出されていた。薫はまだエリカの姿であった。「聖美、あなたの身体のことは知っているよ。とりあえずあなたの改造は一週間先と遅いけど、それはあなたの義体を作った技官と執刀医を招くためです。それまで時間をいただきます。それにしても、あなた本当にいいの?」と再度の意思確認をした。
聖美は戦場に行くわけでもないから大丈夫。やりますといったが、薫は心の奥でつぶやいていた「そうじゃないのよ聖美。場合によっては本当の戦いの場にいってもらうかもしれないよ。でもその時は勘弁してね、お願い」であった。どうやら薫には見本市への出品だけではない目的もあるようだった。




