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夏バイトに行て機械娘にされてしまった  作者: ジャン・幸田
第四章:機械娘達の心と身体
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パワードスーツとカンナ

 サイバーテックロイド社が最初に実用的なパワードスーツを一般に出したのは、2021年のことだった。それまで介護用のアシスト機能のついたものや、趣味の娯楽用に興じるものなど、類似のものもないことはなかったが、民需用として経済的に大きな利益を上げる期待であった。


 丁度、そのごろアメリカ陸軍が同様の趣旨の機体を導入したが、そちらが軍事機密で民需転用が遅れた分、類似の機体がまだなかったことから爆発的なヒット作になった。特に注目されたのは従来大型機械が入らなかった場所にパワードスーツの着用者が入ることで仕事のスピードが上がったことである。たとえば廃炉になった原子炉の解体や深海や深層にある資源採掘などである。


 その一方で問題になったのは軍事用への転用であった。日本の自衛隊が機兵部隊を創設、歩兵の機械化をすすめたからだ。機兵部隊は災害派遣で行方不明者の捜索や瓦礫の撤去などで大きな活躍をみせた。これを見た各国の軍隊もパワードスーツの軍事転用を進めたが、一方で歩兵の戦闘力が装甲車並みに向上したので、不安定になっていた世界各地の紛争が一挙に顕在化した。テロリストも民需用をテロ行為に使ったためだ。


 そして世界は2024年8月、破滅的な世界同時多発テロ戦争が勃発。テロリスト達は核保有国が持っていた核兵器を使用し、主要国の都市が破壊され世界秩序が瓦解寸前までいった。


 その世界同時多発テロ戦争も、新型パワードスーツが大量投入され、テロリストの殲滅作戦が各地で行われ、一応終結したのは2030年のことであったが、現在も散発的なテロが繰り返されている。これはテロ組織ネットワークを構築し「悪しき世界秩序の破壊と新たな秩序の創生」を理由に、世界同時多発テロ戦争を最初に主導したとみられる提唱者が二十年が経過しても特定も拘束もされていないからだ。一部では仮想空間のプログラムとの指摘もあるが、各国が多額な懸賞金をかけている。


 2044年の夏、サイバーテックロイド西第三研究所では、美由紀ら四人をガイノイドスーツに閉じ込める準備を行っていた。しかもタダでさえ未経験者を機械娘に使うのが難しいのに、野心的な機能を持たせたガイノイドスーツを見本市の開催まで整えろというのが難しかった。薫の研究自体はすすんでいたが、一ヶ月前まで人間装着型の見本の製作の一部が遅れていたからだ。


 被験者のうち聖美は元機兵隊員であるので経験者であるが、義体であり機械化人間といっても差し支えないので、ガイノイドスーツと融合させる技術的な難しさがあった。ほかの三人もそれぞれ問題があったが、薫の思い入れが強いガイノイド・エリカを再使用しろという指示が一番難しかった。エリカの現在のスーツをそのまま使わないといっても、コアの部分を使うため新しいエリカに移植する時間的余裕がないが、それでも間に合わせないといけないので技術陣にとっては苦労が多かった。


 この夏、研究所のバイトで機械娘に唯一ならないのは川島カンナである。彼女は試験では適正に乏しくパワードスーツの操縦も無茶苦茶だった。採用されたのは薫の独断であった。去年の見本市の時に実際に着脱するのを見てみたいという要望があったのを聞いたので、今年は外部のモデルでも使おうと思ったが、薫が直感で「カワイイ」と思ったから採用になったそうだ。彼女が美由紀らと本格的に合流するのは少し先のようだが、彼女がこの後波乱を起こすことになる。


 薫は「あの子の裏になにかがあると思ったのよ。それが友好的なものなのか敵対的なものかはわからなかったけど、いずれにしても危ない橋だと思ったのよ。それであえて外部に出さないようにするため雇ったのよ。でも結果としてそれは正解だったというわけよ」と後に語った

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