エリカになるのが嬉しくてたまらない美由紀
美由紀は興奮気味だった。明美からエリカをしてもらうといわれたからだ。子供の時にテレビで見て、いままでフィギュアを部屋に置いて憧れていた、エリカの実物を昨日初めて見て感動したのに、そのエリカを私が着る事になったことが嬉しかったからだ。それも一人ではなく子供のときに見た「ガーディアン・レディ」のチームみたいに四人でだ。なんだか楽しみになってきたからだ。
美由紀は下宿に戻ると大家のおばあさんにバイトが決まったので、九月の新学期直前まで戻らないといった。この時の彼女の態度が行く前と大きく違っていたのでびっくりしていた。無理もない、明らかにテンションが高かったからだ。美由紀は部屋から身分証明書などの重要書類と通信機器と学習用タブレットなどを持ち出した。ただ着替えは”機械娘”になるので一切持っていく必要がなかった。また部屋の冷蔵庫にある僅かな食料を取り出し、配電盤のブレーカーを落として鍵を閉めた。
荷物を旅行カバンに入れたが、その中に特撮番組「ガーディアン・レディ」シリーズを録画したHDがあった。その作品では普通のどこにでもいるような女子大生や女子高生、居酒屋アルバイトの娘、女優を目指す娘が、いざとなったらパワードスーツでその身を固め、事故や犯罪に立ち向かうというもので、効果音や光学合成を除けば女優が実際にパワードスーツを着て戦っているのが人気の秘密であった。その作品は三シーズン、全39話まで製作されたが、第四シーズンは製作発表が行われたにもかかわらず「諸般の事情」で打ち切りになっていた。そのため「ガーディアン・レディ」の明確な最終回は製作されていない。
事実上の第三シリーズ最終回では、四谷みなよが装着するガーディアン・ミナヨが、国際的犯罪ネットワークの罠にはまり、巨大な破壊マシーンのコアにされたため、救出しようと他のメンバーが攻撃したが苦戦し、なんとか二木えりかのガーディアン・エリカが内部に侵入したところ彼女も罠にはまり、二人ともコアにされてしまった。しかし、エリカは技術を駆使しミナヨをコアから外に追い出し自分はコアに残り、破壊マシーンを遠い洋上まで飛行させ大爆発させたあと、他のメンバーがエリカの名前を叫んでいたところで幕となっていた。
これではエリカは生きてないのは確実であるようだが、その最期の場面は明確に描かれていなかった。そのため「そのまま散華した」という意見のほか「コアに取り込まれたパワードスーツを脱ぎ捨て途中で脱出した」や「そもそもあの時のエリカのパワードスーツにはダミープラグが挿入されており、本人は別の場所で無事」といった噂がネットに書かれていた。このようにエリカ生存説が語られたのは、最後のワンカットシーンでエリカが飼っていたネコ、それもエリカにしか甘えないネコが誰かの手でなでられて喉を鳴らしていたため、エリカが家に無事に帰ってきたことを示唆するようなものだったためだ。
そのため第四シリーズでエリカの消息が判るかも知れないと期待していた美由紀であったが、製作中止のためわからずじまいだった。しかも製作元も監督もそのことについては、スポンサーから緘口令が敷かれているらしく、どうする予定だったか一切明らかにされなかった。
ただ、確実なのはエリカ役としてパワードスーツを着て演じていた女優の二木恵理華が直後に芸能活動を引退したため、今後も続編はないということだ。あれから八年たっており彼女は現在28歳だと思うので、もう女子大生の役でも出来ないだろうけど。
それにしても、美由紀がなぜあの研究所は現在もエリカのパワードスーツを進化させたガイノイドスーツを開発しているのか気になっていた。いくらサイバーテックロイド社がパワードスーツを番組用に製作し現在も発展型が販売されているとはいっても、不思議だった。しかも他のリーダーのサヤカなどの「ガーディアン・レディ」のメンバーのパワードスーツを模したものは研究所にない点もおかしなことだった。いくらメンバーの中でエリカの人気が高かったとはいえどもだ。
研究所に戻り、美由紀は昨日のスリープカプセルに昨日と同じように水着で就寝した。今日はいい夢が見れますようにと願いながら、夢に落ちていった。




