聖美の義体の秘密
最も機械娘になるのを躊躇していた者がいた。四人の中で最も背が高く年長の赤松聖美だ。彼女の身体は既に半分以上が義体に置き換わっており、既に「機械娘」という状態だった。そのうえ機械の外骨格の中に入ったら、他の三人以上に機械に近づいてしまうからだ。
聖美の自宅はO市の南のはずれと最も研究所から遠かった。研究員の小野明美は運転を自動モードにして彼女に用意された黒い外骨格と融合するように説得していたところだ。聖美は「あたしが、23歳なのに大学二回生だがら別のところに就職していたと推測は出来ても、履歴書に書いていなかった機兵部隊の練習生だったなんて、どうやって調べたのよ。一般人には防衛省の人事データなどアクセスできないのに、もしかしてハッキングしたの?」と言った。
しかし明美は「そんなことはしないわ。そうしなくても弊社は防衛装備品を供給しているので、自衛隊は身元調査には協力してもらえるわ。なんだって、あの機体は機兵部隊に納入しているパワードスーツに一部を移植する予定だから、スパイに渡らぬようにするため、除隊した経緯を確認するため念のため照会したのよ。そしたらあなたは機兵部隊に所属していたとは驚いたよ。しかも将来を嘱望された隊員で次期主力機兵装備品のパイロットに内定していたとは」と言った。
すると聖美は「そしたら、あたしが何故、除隊したかの理由もわかるのよね。あのような事件に巻き込まれてしまい、あの操り人形を操縦するのがトラウマになったことも」と触れたくない過去を蒸し返されてイライラしている表情だった。
「ええ、あなたはあの首都機兵第三小隊事件の数少ない生存者なのね。事件に加担したのではなく上官の虚偽の命令で動いていて誤って攻撃をうけたようだね。まあ国家機密保護法の機密に指定されているので詳細はわからないし、あなたの口から聞くことも許されないけど、それで義体化したそうね。そのうえ特殊部隊への転出を断って出身地に帰ったというけど、まさか弊社に応募するとはなんかの因縁ではないのですか」といった。明美は薫から聖美の過去を詮索するなと言われたが、義体になるほどの負傷なんて想像もつかない事態に巻き込まれた事は容易に想像できた。
明美は嫌なら今ならバイトを辞退するのは可能だといったが、「本当は今以上に機械の体になるのも嫌だし出来れば辞めたいのよ。でも、うちの弟が心臓を患っていて、治療のために複製臓器を移植する必要があって、その高額な治療費を工面するためよ。まさか嫌になって逃げ出した機械化部隊とにたようなものに再び入るとは思わなかった」と夕日が沈む川面の風景をみながら話していた。
副所長は聖美の身体を「半分ガイノイド」と表現したが、ただしくは「半分サイボーグ」で誤りであったが、その指摘は聖美が聞くと正しいと思うかもしれなかった。聖美は現在の自分はあの時爆発で粉々になった赤松聖美という人間の死体を使った人造人間と思っていたからだ。あの事件のときに本当の聖美は死んで魂は天国に帰っていたけど、残った身体を再利用し聖美のまがい物として作られたのが今の自分だと思っていた。
聖美が担当技官から見せられた負傷直後の自分の写真はショッキングなものであった。まるで焼死体じゃないかという状態で、とても生きている人間のものではなかったからだ。四肢は焼け落ち身体の表面は焼け爛れ内臓が露出し、顔面も左の眼球を除いてつぶれていたからだ。これは爆発の衝撃を右側から受け、強化服が圧壊したためだ。
このような状態でも生き残ったのは、自衛隊が死体を使った実験に使うため残骸から回収した聖美の身体を培養液につけたため、組織の壊死が止まりかろうじて自発呼吸し脳と脊髄と心臓が無事だったため、生存者として助命措置がとられたためだ。もし、あの場で培養液につけられていなかったら、すぐ荼毘に付されていたところだった。
聖美の体で生身の組織が残っているのは頭部と胴体と右腕の膝から上である。しかしこれも義体になった他の組織を維持するための装置が埋め込まれているので、生身のところで手が入っていないのはほぼなかった。また身体の表面こそ普通の女性と変わらないようであるが、全て人間型ガイノイドの擬似皮膚組織で構成された人工物である。また胸の膨らみもマガイ物で胸部の体組織が消失したため人工物に置き換わっていた。顔面も入隊直後の顔写真を元に顔部分の頭蓋骨を再現し、残った頭蓋骨につないで、人工義眼もつけており、眼球もよく見ると機械だということがわかるものだった。
今日は特別に自宅で一泊することになったが、これは聖美の母が帰宅するのが遅いからであった。小一時間聖美と明美が待っていたら、聖美の母が帰ってきた。明美は今回のバイトの事を説明したが、機械娘の件を隠して企業の社会活動の一環として海外に研修に行きますし、奨学金も支払いますとだけ説明した。それを聞いて聖美の母は「それはいい話じゃないかい。義彦の病気の事もこちらの事は任せときなさい。でも父さんのように二度と戻ってこない様な事にはならないよう、気をつけて」と聖美の父の遺影を見ながらいった。
聖美の父は航空自衛隊の輸送機のパイロットだったが、二十年前の世界同時多発テロ戦争のときに海外派遣され、邦人脱出作戦に従事していた際に、その国の中央政府要人の抹殺を意図した反乱軍が発射した核弾頭巡航ミサイルの爆発に巻き込まれ輸送機が墜落し殉職していた。「私は、お前の写真をお父さんの隣に置くことだけはしたくないから、気をつけてね」といった。聖美は昔の自分はもう死んでいてここにいるのは聖美のコピーだといいたかったが、それは国から口止めされたことでありいえるはずはなかった。
明美は帰り、聖美は自分の部屋でパジャマに着替えようとしたが、改めて自分がガイノイドと変わらないと思った。母には自衛隊のバイク事故で両足を義足になって除隊したと言っており、サイボーグになったことを隠していた。そのため、事故後にはじめてあった母に「あんた、しばらく見ないうちに背が伸び顔が綺麗になったね」といわれた。軍事用サイボーグされたため手足が長く立派になり顔にあったニキビ跡などの傷が無くなっていたためだ。
下着を脱いで姿見の前に立った聖美は自分の裸身を見ていたが、事故の前と比べ身体にシミや傷跡などが無くなっており、不自然な身体になっているからだ。また下腹部の女性自身も普通の女の子のように整形はされているが、負傷した際に表面が完全に抉り取られていたので、やもうを得ずあの手のセクサロイドのものと同じものを流用したため、かえって不自然な身体になっているのが判る。セクサロイドと違う点といえば本物の排尿をすることと生殖器が残っているので生理が来ることである。事件に巻き込まれるまでは生理がくると痛いので憂鬱になったものだが、今は自分がまだ人間であると認識できるからだ。
しかし、中身が軍事用サイボーグで表面がガイノイドないしセクサロイドのような自分が将来結婚するにしてもパートナーにこの身体をどう説明すればいいのか?また赤ちゃんが出来ても授乳する行為が不可能という事実は避けられない現実だった。とにかく来週にはあの機兵部隊のようになる事が不安で仕方がなかった。




