00-02 美由紀は帰りません!
研究所がある北吉備市は中国山地に所在し、中国州岡山県のほぼ中央にあった。この年はこれから猛暑になろうとしていた。限定的な核の冬の後、猛烈な地球温暖化が進行してしまったからだ。梅雨が明けて間もない七月のある日、十八歳の女子大生今井美由紀は実家に携帯電話をかけていた。
「いくら夏休みといったて、お母さんたらどうしても帰れないのよ」と、美由紀は電話で言い返していた。その後、母の真由美とは大喧嘩してしまった。あんたの誕生日も近いし、お盆には帰っておじいさんやおばあさん、叔父さん一家や父さんの知り合いの仏前で祈りなさいなどといわれ、美由紀は反発したり言い訳をしたりで、大変な事になってしまった。
美由紀は春からとある北吉備にある備州工業大学に通っていた。実家を出る以上、本当は東京の大学に進学したかった。しかし志望学部と成績、そしてなによりも両親の経済力の問題により、無名の今の大学に進学していた。
入学したのはロボット開発の学部、類人機械工学部のあるところだった。だがこの大学は有名な教員がいるわけでもなく、ましては著しい実績がある研究成果をあげた事もない大学だった。唯一いいところといえば校舎が新しいことぐらいだった。
しかし入学したばかりの学生がいきなりロボット研究をやらせてくれるわけもなく、また美由紀はそこまで優秀な学生でもなかった。そのため教養課程の学科の単位を先にとらなければ、専門科目の履修に進めないにもかかわらず、成績のよくない美由紀は追試、追々試に引っかかる科目が続出する事態であった。
夏休みが始まるころになって、ようやく片付けたころは多くの学生は帰郷するなりバイトに行ってしまうなどで大学のある町からいなくなっていた。おまけに目立たない美由紀に友達が多いわけでもなく、数少ない友人も帰郷していたため、一人知らない町に置いてきぼりにされたと同じだった。
おまけに両親とは大学入学を巡り対立しており、特に父とは口も利かないまでに関係が悪化していた。特に父の泰三はパワードスーツやパワーローターを目の敵にしていた。そこで美由紀は長距離を理由に帰郷するのはやめにしようと思っていた。これは実家に帰るに早く帰ろうとすれば運賃は高いし、ゆっくり帰郷するのは安いけど面倒なので、そこまでして帰郷する気が起きなかったためである。
「若い者がこんな山奥に一人いるのも嫌だね。いっそのこと岡山にいる同級生か先輩の家にでも泊めてもらって、なにかアルバイトしなきゃいけないよね。とりあえず大学の教務課に行こう」