サイバーテックロイド社の目的とは
パワードスーツはアメリカ合衆国の作家ロバート・A・ハインラインによる「宇宙の戦士」に登場する「機動歩兵」が最初期のものであるが、それ以前にも似たようなものは空想作品の中で存在していたのかもしれない。またサイボーグの話もかなり古くからあった。
冷戦末期の1980年代前半、アメリカ合衆国の軍部が出した報告書に兵士を機械化するサイボーグ戦士のアイデアがあった。それによると二十一世紀はじめになると電磁誘導によるレールガンが実用化され兵士の死傷率が上昇するので、それに対抗するため熱や衝撃から身体を守る人工皮膚をスプレーで肌に付着させたり、出血しても大丈夫なように取替えがいくらでも利く人工体液にあらかじめ交換しておいたり、内蔵が損傷しても生存できるように新陳代謝を遅くしたり自己診断装置を内蔵させるというものであった。当時はあまりにも空想的であったため、相手にされなかった。
しかし二十一世紀も中盤になろうという現在。レールガンは人の手で扱える兵器としては実用化されなかったが、パワードスーツやサイボーグは空想ではなく実用化されていた。前者としては自衛隊の機兵部隊と呼ばれる機動重装備強化服を着用した歩兵部隊、後者はなんらかの事故や病気で身体の一部を失った人間につけられる機械式の義手や義足などで、これは義体とも呼ばれている。
現在ではサイバーテックロイド社は、世界的なパワードスーツおよび義体の製造メーカーであり、また防衛用ロボットの生産も行っている。この会社が急成長したのは技術の革新もあったが、二十年前に発生した世界同時多発テロ戦争の影響で、戦争の形態が大きく変わってしまったことにある。
世界同時多発テロ戦争では、各地で反体制派による武装闘争が激化し、二十世紀から戦争への抑止力として有効とされていた核兵器が反体制派に強奪され、中央政府の幹部を住民ごと核爆発により虐殺する野蛮な行動に出る戦役が多発していた。国家を守るための抑止力として多額の予算を使い国際的な批判を無視し温存してきた兵器が国家を滅ぼす手段として使われた。そのため従来の国家主権同士の衝突がエスカレートした結果の戦争ではなく、政治体制の変革ではなく抹殺を目的とした戦争が多くなった。そのため従来の国と国とのパワーバランスの取り方で回避できた戦争が、平和を勝ち取るためではなく他者を排除することを目的とした野蛮な手段をとるテロリストが引き起こす無慈悲な戦争が多くなった。
このようなテロリストは一般市民の間に潜入しているため、政府側が掃討するため都市を攻撃すると一般市民が巻き添えになるので、警察力による制圧が使われるようになった。この警察組織に使われたのがパワードスーツで身を固めた特殊部隊だった。このパワードスーツ部隊による活躍でようやく世界秩序が正常になりつつあった。
この種のパワードスーツは2020年代に実用化され現在では主に軍事用として世界各国で普及している。軍事用以外には核融合炉の実用化で経済的優位を失った老朽核分裂炉の解体作業や深海での資源採掘などに用いられている。そのためパワードスーツは珍しいものではなくなっていた。
一方、アンドロイドやガイノイドは世界同時多発テロ戦争で数多くの人命を失った世界各国が、復興のために必要な人材を補う手段として一気に実用化されたものである。この技術の発展により多くの職種と雇用口が喪失したが、その分新しい産業も創生された。そのひとつはロボット製造業であり類人機械の研究と学習する学部である。前者はサイバーテックロイド社のような企業で後者は美由紀達が通っている学部である。




