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夏バイトに行て機械娘にされてしまった  作者: ジャン・幸田
第一章:適正とは一体なんのことなのよ!
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バイト選考というのはこんなものなの?(改訂・増補版)

 二度寝してしまった美由紀が目覚めたのは午前7時半だった。いけないと焦ったが前日、脱落させる場合は7時ごろに知らせるということなので、この時点での脱落はないということが確定したことに対し、美由紀は安心したのやら不安なのかわからないような複雑な感情だった。


 彼女は既に合格しており、既に江藤薫の指示で機械娘にする準備が始まっていたが、そのようなことは知る由もなかった。また研究所では本人達が拒否しないという確信のもと既に美由紀のほか二人も採用することにしていたが、それも知らない事だった。最終的に合格者を3人とするか、それ以上にするかを決定する段取りであったが、これから臨む彼女らの知らないことであった。


 カプセルから出ると、誰もいなくて指示書が貼っていた。そこには「最終選考をこれから行います。あなたはこれを着て午前8時半に食堂に集まってください。そこで試験内容についてお知らせします。なお最終選考は実技と面接をします。昼食後に結果をお知らせします」という事が書かれていた。


 用意されていた衣装は、昨日のように全身タイツのような黒いボディスーツではなくごく普通の作業着のようなもので、下着も普通のものかと思っていた。しかし着替えるため袋から取り出そうとすると「女性用装備品」というプリントがある地味だけど丈夫な生地の下着であった。次に作業着であるが、ツナギになっており軍隊で使用するような色彩が施されていた。そして最後にゴーグルつきのヘルメットを被るようにという指示があった。部屋から出るとき彼女の姿は女性自衛官のようになっていた。これから体験入隊にでも行くのかというような姿だった。


 食堂に行くと次々とアルバイト希望者が集まってきたが、全員で五人であった。二人脱落したのだなということに気づかされた。最終的には全員脱落ということもありえるという話を副所長が思い出して、そうなるのかもと思う美由紀だった。昨日よりかは「人間」らしい姿なので、食事の雰囲気は昨日よりも幾分ましであったが、初対面で互いに競争している者が親しく話すわけもなく、淡々と朝食を食べていた。



 食事が終わり、お腹がビア樽のように膨れ顔が日焼けした定年をもうすぐ迎えそうな男が入ってきた。その男は昨日はいなかった。「みなさんおはようございます。私が当研究所の所長の横山太といいます。本日は当研究所のアルバイト採用試験のうち実技と面接を行います。食事が終わりましたら格納庫に案内しますので、宜しくお願いします」と話した。


 今日もアルバイト採用責任者のはずの江藤という女の人の姿はなかった。一同はアルバイトの内容も教えられていないことに不信感があったが、所長の次の言葉にヒントがあった。「皆さんが明日からのアルバイトですが、当研究所が開発中の汎用二足歩行システムの研究開発とその製品の発表会のあらゆる手伝いをやってもらいます。これから行う実技ですが、昨日やっていただいたゲームではわからなかった、その二足歩行システムを使いこなせるかどうかを判断させていただきます。その結果を考慮したうえで面接をするまでに、みなさん五人とも採用するのか誰も採用しないのかを大体決定します。次の実技は頑張ってください」というものだった。どうやらアルバイトは汎用二足歩行システムに関するもので、面接より前に合否は決まっているということのようだった。


 一同は、かつて校庭だった広場にある格納庫の中に集合した。そこには相当古いパワードスーツが一体おかれていた。日本で最初に自衛隊で制式採用された二七式機動重装備強化服、通称”ゴリラ”の練習型だった。所長が言うには「これから皆さんにパワードスーツをどこまで使いこなせるかで確認します。操縦方法ですが昨日やっていただいたゲームのなかのものと基本的に同じです。このパワードスーツの”ゴリラ”ですが弊社が自衛隊に納入したものと同じですが、初心者でもある程度使いこなせるモードに設定しています。そのため未経験者でも使いこなせるはずです。では順番に着て頂きます」という。


 一同はどうして自衛隊の体験入隊でもするかのような衣装を着なければならないかに気が付いた。そう”ゴリラ”は軍事用だからだ。自衛隊の装備品を身につけた人間でなければ起動できない設定であるからだ。しかし10年以上も前の陳腐化したパワードスーツとはいえ田舎にある研究所がなぜ所有しているのかという謎があるけど。


 試験はパワードスーツの中に入り、操縦して障害物を乗り越えていくというものだった。その時残っていたのは、03、04、07、08、09の五人であり、順番に搭乗した。最初の03番はなんとか使いこなして歩くことが出来た。次の美由紀は昨日のゲームと同じくなかなかのものであったが、実機を操縦したのは初めてだったので障害物をクリアする際に時間的なロスがあった。最も傑出していたのが08で経験者以上の腕前があった。最後の09はなんとなく動いているような感じであった。


 こうして最後の試験は終わったが、一体研究所はアルバイトに何をやらそうとしているのかイマイチわからない状況では採否の見当など付かなかった。いよいよ合否がわかる面接の時間となった。


 実技試験の際、美由紀ら希望者が見た光景は異様なものだった。所長ら主だった研究所員が集合しているようであったが、その中心にいたのはエリカであった。しかも研究員らは皆エリカが指図している様に見えた。しかも所長までも何か指示されているようである。


 無論、エリカこと江藤薫がこの研究所の実権を掌握しているわけであるが、彼女らアルバイト希望者からすればガイノイドが威張っているように見えた。この研究所は一体どうなっているのか心配になる光景であった。機械が人間よりも偉いというのだろうか?江藤薫は既に重要な決定をしていた。自分が今着用しているような外骨格型ガイノイドの中身にする機械娘にすることであったが、当然このときアルバイトを機械娘に改造しようとしていることなど知る由もなかった。


 それはともかく、彼女らは面接を受けることになっていた。企業の就職試験でもアルバイトの採用でも一番重要なものであった、はずであった。しかし次の面接の目的は合否ではなく誰をどの機械娘にしてしまうのを決定することだった。この時点で残った五人の採用が決まっていたからだ。今回の選考の目的は被験者としての肉体的適正が重要であり、性格などはあまり重要視されていなかったようだ。


 そうとは知らない彼女らは緊張していたが、美由紀はこれでアルバイトの謎がとけるのかもしれないという方に関心があった。特にエリカの正体が知りたかった。また少し気持ちに余裕が出てきたことと、昨日のように記号化されたようなボディスーツ姿ではなかったことから、他のアルバイト希望者達を観察する余裕が出てきた。03とされた子は身長が低く、07は美由紀と同じぐらいの背格好、08は運動選手をしていたような洗練された体格、09はかわいらしい童顔であるが、モデルのように手足が長く均等がとれたプロモーションであった。いわば五人はバラバラな個性をあるようであった。しかし、面接前に他の希望者と世間話をするような者はいなかったので、それ以上の情報は得られなかった。


 別室で「ガイノイド・エリカ」こと薫は既に全員の採用を決定していたが、どうも誰をどの機械娘にするかを決めているようだ。しかもデモンストレーションをやらす09以外は4体の機械娘にするつもりのようだ。最初は二人を採用し一人をバックアップにしようとしたが、最初はガイノイドにしようとしたものまで人体操縦型にしたようだ。


 「そうね、私が思っていたよりも被験者として適合性の高い女の子が集まったということよ。自分らが機械娘達の生贄にされるなんて教えられていないことは気の毒だけど、すでに家庭環境なども調べ上げているから断れないぐらいの好条件を用意しているし、四人とも変身願望が強いという心理検査結果がでているわ。全員採用しても問題ないわ」と薫はいった。


 「しかし、こんな条件を提示するなんてアルバイトではありえないぞ。いくら祖父殿が金に糸目をつけず経済的援助がうけられるとはいっても、少々度がすぎるのではないでしょうか?彼女らに説明する私の身にもなってください」と決定権がない所長はぼやいていたが、なんとか面接では一通りの当たり障りのない質問をして、場を取り繕って、他の研究員が「職場説明」する際にでも説得してもらおうと考えていた。所長による面接と入っても「合否」を決めるのではなく「辞退」させないためのものであり、うまくやらないということだった。所長からすればセクハラ質問をして失敗するようなことを避けたかった、そのため五人の面接は形式的というよりもなんかおっかなびっくりであった。


 美由紀は面接に臨んだが、今まで受けた面接のように志望動機や自己アピールをしたが、どうも目立たない自分が顔を出したようで、失敗だったと思った。他の面接と同じく不採用が決定的でも終わりのほうでアルバイトの業務や待遇などについて説明があるものと思っていたが、所長は意外なことを言い出した。「これから、あなたを研究所員が職場に案内します。そこで雇用条件などの条件が合えば採用決定となりますので宜しくお願いします。その時、アルバイトで何をあなたがするのかについても説明があります。たぶんあなたの望みがかなうものだと思いますので承諾を是非してください。そのあとで雇用契約書に署名していたら、あなたもこの研究所の一員ですので頑張ってください」と言った。


 いきなりの採用決定であったが、この期にきてもアルバイトで何をするのか教えてもらえない事が不安であったが、「あなたの望み」という意味がわからないのが不安に拍車をかけた。あまり経験もないが、アルバイトの面接でいきなり採用されるのは、仕事が「ブラック企業」並に辛くキツイので、すぐにバイトがやめてしまい常に人不足の職場だという話は聞いたことがあったが、ここもそうじゃないかと不安になった。本当に面接というのはこんなものだったのかなと疑問に思った。しかし美由紀は「あなたの望み」という意味を確かめたくなり、次のステージに進むことにした。それが戻れない所にいくものになるとは知らずに。



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