エリカと夢の中で一体化した
どうも今は夢の中にいるようだ。美由紀は眠りの中にいた。いつも夢をみているという認識があっても覚えていることはないのにこの時は夢の中なのに意識がはっきりとしていた。その中では何故か中学時代の制服を着ていた。目の前に中学時代は目立たない美由紀をよくいじめていた同級生がいた。「今井、あんたねえ、あのロボットをたたき壊しなさいよ、女なのになんで夢中になっているのよ。ウザイわね、本当、やりなさいよ!」と言い寄った。ロボットとは美由紀の大事にしているあのエリカのフィギュアである。
本当はそうのような事はできない。しかし自分の身のほうが壊されかねない状況なので、恐ろしいイジメッ子が言うことには逆らえない。仕方がない、そのまま言うことを聞かざるを得なかった。彼女の目の前で転がっていた鉄筋棒で叩き壊してしまった。「今井、本当ざまあないわね、あんたのような貧乏人がもっているものではなかったのよ、所詮。あんたなんか何も持たないのがお似合いさ。それに、その表情たまらないぐらい楽しいわ」と悪意が満ち溢れて嬉しそうな表情であった。なんてことはない、イジメッ子の目的は美由紀が悲しむ顔を見て、自分の鬱憤を晴らし、そして歪んだ自己満足を得ることだった。
その場を走り出し、悔しさと悲しさで校庭の片隅で泣いていた美由紀であったが、後ろから近づいてくる影があった。それは先ほど自分が壊したエリカのフィギュアであった。しかもバラバラの部品が大きくなって浮遊していた。その物体から「いくらなんでもバラバラにするとはひどすぎる!なんで、あんな意味のない事を聞き入れたのよ!原因が全てあるわけではないけど、壊したのはあなたよ!こうなったらあなたには償いをしてもらうよ」という声が聞こえたような気がした。
それに対し「つぐ、償いってなんですか。あたしだってあんな事をしたくなかったわ!償いてなにをすればいいの」と言った。すると声は「わたしのバラバラになった身体を再構成する核になればいいよ。そうすれば辛い目に遭うこともなくなるからいいのよ。さあ受け入れなさい」と意味のわからない、不気味なことを言った。その意味はわからなかったがただ事ではないことは確かだったので、美由紀はその場から逃げようとした。その浮遊する物体から早く遠くに逃げようと駆け出したが、それは許されなかった。間髪いれず浮遊する物体から触覚のようなものが美由紀の両足にめがけ飛んできて絡みついてきた。そして引きずり込まれた美由紀の身体は次の瞬間、宙を舞い浮遊する物体の中心にいた。
これからどうなるのか、わからない美由紀はパニックを起こし手足をジタバタして「わた、わたしをどうするのよ。一体何が始まるというの?私が壊したのが悪いというなら謝るから、何もしないで、この場から返して」と泣き叫んでいた。すると「なあに、あたしの身体の中身になってもらうだけよ。そう怖がらなくてもいいよ。いわば復活するための人身御供というものさ。憧れのエリカ様のお役にたつのだから喜びなさい」と、その声が話し終わると、美由紀の身体に目掛け浮遊していた物体が飛び掛ってきた。
浮遊していたエリカの外骨格だったものが美由紀の身体を使い組み立てられようとしていた。足の先から部品が美由紀の身体を覆い再構成していった。その課程は着衣の上から行われ、運動靴や靴下はブーツに覆われスカートもプロテクターの中に巻き込まれて消えてしまった。胴体も制服のセーラー服を同じように巻き込まれてしまっていったが、まだ成長していない膨らみかけた控えめな胸が、いつのまにか女性らしい大きな胸の盛り上がりとなってしまった。また手も先から甲羅がつけられるように部品がくっついていった。首から下が覆われた時点で、美由紀の身体に貫くような痛みが全体に走っていた。外骨格から針のような物体が突き刺し、肉体を掻き混ぜるような苦しみを味わっていた。その苦しみに歪んだ美由紀の顔を包むようにエリカのフェイスマスクが覆いかぶさった。この時点で中学生の美由紀の身体はエリカの外骨格の中に飲み込まれてしまった。エリカのフィギュアに取り込まれてしまった。一体化してしまったのだ。
すると不思議なことに今までの苦しみは全て消え去り新しく生まれ変わった爽快感のような多幸感につつまれた。しかし身体を包み込んだエリカの「この瞬間から今井美由紀という存在は、この世から消え去った。あなたはエリカの生きフィギュアとして永遠にいるのだ。もう、あんなイジメッ子にやられることもなく幸せだろ」という言葉を聞いたとたん、その多幸感は消え去った。「そんなのいやだ、いくら憧れのものと一体化したといっても、人形として生きるのはいやだよ。あたしはあたしだ!元に戻してよ」
と夢の中で叫んだところで夢から覚めた。美由紀の素肌からは汗が噴出していた。自分の身体を見て、中学生ではないし人形にもなっていないことを確認した。そこで一安心したが、今の姿は普通ではなかった。昨夜から渡された青いビキニを身に付けてカプセルに寝ているのだから。このような姿は両親にも見せられない恥ずかしいものだった。
いくらアルバイトの職に就く為とはいえ、ここまで従う必要はあるのだろうかと思ったが、何故か選考のすえ残っている。それももう終わりになってほしいと、思い出していた。朝がきたら落ちて下宿先に帰る事になって欲しいと思っていた。そう夢で見たように人形にされるのではないかとの予感があったからだ。本当に嫌な夢だった。
そう思いながら夢の中でも現実と違うことが数多くあった。あの時、フィギュアを壊したのは自分でなくイジメッ子で、その後で父親の泰蔵が相手の家に押しかけて、恐喝まがいというよりも恐喝そのもののような謝罪と弁償要求をしたおかげで、壊されたものよりも精巧で大きなエリカのフィギュアを買ってもらえた事だ。これが現在も持っているエリカのフィギュアであった。何も自分がエリカになったわけではなかった。
一体このアルバイトに採用されたら一体何をさせられるのか不安であるけど、まさか自分が人形になるわけがないのだからと思い直していた。いずれにしても、朝になれば全ての疑問がわかるのだと思い二度寝をする美由紀であった。




