15-23 満天の星空
”奴ら”との戦争が長引いた要因に国連機構側の制空権が脅かし続けた ”航空機械化兵” の存在があった。テクノロジーの詳細は現在も不明な点が多いが、人間を機械化したうえに強化筋肉によって飛行能力を与えられた兵士とされている。彼らもしくは彼女らによって次々と戦闘機や爆撃機が撃墜されたためであった。原因として突如出現する極小の飛行兵器に気がづくのが遅れたためであった。そのため、”奴ら” 側を掃討するために被害の多い地上戦を余儀なくされていた。
その”航空機械化兵”に対抗するため、機械娘などに飛行能力を与える飛行ユニットの開発が進められていたが、実用に耐えられる試作品の製作は遅々として進まず、戦争が終結した事で開発ペースは大幅に落とされていた。ようやく完成した飛行ユニットを装着したのがブラック・エリカだった。
映画の撮影の前に試験飛行は入念に行われていたが、飛行ユニットのシステムに瑕疵があることが発見されていなかった。最高速度近くになると搭載されている核融合炉への推進剤供給が止まらなくなるシステム上のエラーだった。薫の機械脳が誤って最高速度近くまで加速させたことで、このエラーを出現させてしまった。
薫が着用しているブラック・エリカは暴走し、予定されていた地点よりもはるかに遠い海域に着水してしまった。当然ここにはスタッフが待っていなかった。着水時の衝撃で薫は気絶してしまったが、気が付いたときは膨らんだエアバックによって海の上を漂流していた。
「どうしたんかな私? そうだ、飛行システムが暴走したんだ。えーとここはどこなんだろう?」
薫はGPSで現在位置を確認すると東京から東に1750Km離れた海域だった。大海原をブラック・エリカは漂流していた。この時薫は裸でスーツを装着していたので脱出する事が出来ないので、おとなしくしておくしかなかった。
「このスーツを浮かべているエアバックが、もししぼんだりしたら私は海の底よね。そうなる前に救助に着て欲しいわね」
そう思っているとメッセージが外部から送信されてきた。そこには位置を確認したので救助に向かっているので安心して欲しいというサイバーテック技術部からのものだった。それまで体力を消耗しないように、動かず動かないでという指示もあった。
「ようやく家に帰れるんだ。この撮影が終わったら義父さんに久しぶりに会えたのにね。あの人忙しいからなかなか家に帰ってくれないのにねえ。それに亜佐美もみんなも心配しているよね。こんなことになるんだったら・・・」
そう思って空の上を見上げるような姿勢になると、いつの間にか降りていた夜の帳には満天の星空が浮かんでいた。知識としての星々のことは知っていても特別な思い入れなどなかった薫も、この光景に心を奪われていた。
「よく人という存在はちっぽけな存在だというけど、この星空を見ていると、そう認識せざるを得ないよね。それにしても本当に綺麗よね。そういえば亜佐美が小学校の六年の時に天体観測会に出た事あるといっていたけど、私はしてないわね。その時”私”存在していなかったからね。この身体の主の少女に自我がなかったんだし・・・」
その時、機械脳の中に八歳から十三歳までの記憶が無い事を思い出していた。このときにはまだ機械脳が稼動していなかったためで、当然この間の思い出はなかった。
「でも、この星空を前にしたらそんな事はどうでもいいと思うよね。本当にきれいだなあ」




