15-21 準備作業
エリカとブラック・エリカが対決する場面は映画前半の重要な場面であった。予定では取り壊し予定の工場を暴れ回った挙句、ブラック・エリカが大空に逃亡するはずであった。ブラック・エリカの飛行ユニットはエリカのものよりもパワーが上という設定だったので、撮影に際しては慎重な準備作業が行われていた。
この場面では、戦闘シーンの後にエリカがフェイスガードを外す場面があるので、亜佐美もエリカのスーツを着用し始めた。彼女にとって二度目の着用なのですんなりと着れたが不思議な感じという様子だった。
「薫! 外はこんなに暑いのにスーツを着るとなんかプールに浮かんでいるようだね。でも顔が暑いよ。薫はそれをずっと着ているけど、暑くないの?」
「大丈夫よ! 私の場合は裸で入っているような感じだけどね、なんかスーツと一体化したかのような感覚だよ。そうねえ、機械娘の内臓になっているような気分よ! でも、これからしばらくおしゃべりはなしよ! だって私はエリカと対決するサトミだもの。今日は撮影が終わるまでは敵同士だから」
そういうと、ブラック・エリカの姿をした薫は、サイバーテックの技術者の待つブースに移動していった。改造された悲運の少女・高橋サトミになりきろうとしていた。そのブースでは飛行ユニットを装着しようとしていた。
飛行ユニットは従来の軍事用パワードスーツにも装備されていたが多くは非常用であり、固形燃料のロケット式なので、一度きりしか使えなかった。そこでサイバーテックでは核融合炉のエネルギーで推進剤を噴出する飛行装置を開発したが、今回のガーディアン・レディで一般に披露することになっていた。
今まで、機械化人やアンドロイドなどによる試験飛行には成功していたが、薫のように頭脳が人工知能とはいえ生身の人間が扱うのははじめてであった。一応スーツには加速度から身を守る衝撃吸収機能が備えられていたが、本格的に使うのは、今日の撮影が初めてだった。
そのためサイバーテック社内から技術陣に対し会長の孫娘を人体実験の被験者にするのかという批判が集まっていた。たがら、この飛行ユニットプロジェクトの責任者の石橋は薄氷の思いをしていた。万が一、失敗したらプロジェクトの挫折だけではすまないからだ。
「とにかく、早く飛行ユニットが稼動して東京湾上空に行ってもらえないかな? そうしたら一応成功だけど、無事に全て終わって欲しいな」と思いながら最終チャックをしていた。
このシーンの出演者が揃った。エリカのアクションシーンを担当するナンシー・チャン、エリカのフェイスオフのドラマパートを担当する亜佐美、そしてブラック・エリカの薫だ。あとはブラック・エリカと一緒に行動する”赤い輪廻環”の戦闘員で、これらのうちエリカによって破壊されるのはガイノイドであった。
そして大物俳優がやって来た。彼は”赤い輪廻環”の幹部ブロッケン役の薮田功であった。彼が到着し衣装に着替えたところで、今日の撮影が開始された。




