15-15 黒いエリカの姿で
亜佐美にとって今日一日は厳しくも楽しかった。彩夏と一緒の撮影が出来たからだ。いま人気絶頂の女優だからだ。わずかな場面の撮影のために朝から晩までかかったが、心地よい疲労感に満足していた。
その日の宿泊先はサイバーテック東京本社内にある社員用宿舎だった。ここはセキュリティーもしっかりしているし、普通のホテルよりも充実した施設があった。その施設を使うことは時間的余裕がないので残念であったが。
亜佐美は薫と同室だった。そのため薫が先に帰っているようなのでノックした。すると中から声が少しおかしくなったような薫の声で返事した。
「亜佐美、おかえり。入ってきてもいいわよ。でも驚かないでよね。今の私の姿に」
一体何の事かが判らなかったが、亜佐美は中に入ってみると、部屋のソファーにロボットのようなものが置かれていた。良く見るとそれはガイノイドか機械娘のようだった。全身が黒ずくめで見たことのあるデザインだった。それはガーディアン・レディ・エリカのブッラクヴァージョンだった。しかもそのガイノイドが起き上がってこっちに向かってきた。
「あたしよ、薫よ! 話せば長くなるけど今あたしはこの黒いエリカのスーツに閉じ込められたのよ」
「どうしたのよ薫! まさか、あなた機械娘に改造されたの?」
「そうじゃないのよ。今日撮影で洗脳と改造手術の場面を撮影したのだけど、手違いでね脱げなくなったのよ。でも心配しないでね。明日か明後日には脱げるから」
どうも薫は撮影でガーディアン・スーツを着たようであった。しかし、亜佐美とは違い敵役なので雰囲気が恐ろしかった。それにしても自分のものよりも格好良いと思うのはどうしてだろうかと考えてしまった。
「薫。悪いけどあなた格好いいわよ。それにしても着心地はいいの? わたしもエリカのガーディアン・スーツを着たとき、何故だか心地よかったけど、あなたはどうなの?」
「気持ちいいわよ。なんでも、このまま三ヶ月ぐらい着たままでも平気だそうよ。でも大抵の人はその前に精神的に参ってしまうそうだけど。まあ、”奴ら”との戦いの時には一・二ヶ月ぐらい中から出してもらえない兵隊さんもいたようだけどね」
「そうなんだ。でも本物のガイノイドのようだね、あなた」
この言葉に一瞬、薫は嫌なものを感じた。その言葉は機械脳を持ち自我がサイバーテックの技術者に設計された彼女からすれば、逃れられない隠された秘密だからだ。この時、エリカのフェイスガードに覆われていたのは幸いだった。
「それにしても、なんでわざわざこの部屋に戻ったの? 私を驚かそうと思ってなの?」
「そうなのよ! あなたどんな反応を示すのかなと思ってね。思ったよりも驚いてくれなかったけど。そうそう、いま話している声はね、脳波に反応してスーツの発声装置が出しているのよ。なんせ私のスーツは猿轡したかのようになっているからね」
「あまり手垢がつかないようにするから、あなた触ってもいいかな? わたしもエリカのスーツを着ているけど、薫のほうが何か性能が良さそうだわ」
そういって亜佐美は薫を覆うスーツの外骨格を触り始めた。今の薫は柔らかい肢体は全て超硬質の複合素材に覆われ、機械の身体にしか見えなくなっているので、機械そのものにしかみえなかった。それはかつて”奴ら”によって改造された犠牲者達と同じようにも見えた。そして、亜佐美は女性らしさが強調された胸の膨らみや腰のキュッと引き締まったところを、物珍しく触っていると、薫がもっとおかしな声を出した。
「亜佐美ったら、そんなに私の今の身体が綺麗というわけなの? 触られると知っていると思うけど生身に全て感覚がフィードバックしているのよ、このスーツは。だから裸を直接触られているみたいなのよ。なんかイヤらしい気持ちになるからやめて頂戴!」
「ご、ごめん。そんな気は無かったのよ。許してね。私がこれを着るのは着脱の場面だけだから、ずっと着る事はないというけど、あなた、もしかして代役無で着るわけなの?」
「そうよ。わたし沖縄に行ったらずっとこの格好だそうよ。撮影が終わるまではね。でも、うちのお爺様に、代わりに亜佐美と二人で沖縄で遊んでいいといわれたから、終わったら一緒に遊びに行こうね!」
「そうなの? それはいいね! それにしても大丈夫かなスケジュールは?」
「大丈夫よ! この映画の撮影にお爺様はずっと同行するそうよ。でもサイバーテックの会長だと言う事は皆に内緒でね」
「わかった! 薫と一緒に休暇だなんて夢みたいだわ」
この時、薫は一つだけ亜佐美にウソを言っていた。機ぐるみに閉じ込められたのは手違いでなく、祖父の江藤英樹会長が故意にやらした事だったのだ。その交換条件として亜佐美とのバカンスを約束させたのであった。




