15-10 亜佐美の夢
薫と亜佐美らは宿舎に戻っていた。本当は自宅に帰れなくはなかったが、夜遅くなったので工場内の施設にとどまっていた。この宿舎は女性用は全室個室だったので、それぞれバラバラに泊まっていた。
薫が自分の機械脳の調整をしている時、亜佐美は不思議な感覚に襲われていた。いまもパワードスーツの中にいるような感じだった。
「今日六時間も機械娘になったみたいだったわね。機械娘に調整された人の話だと、いつも何かを着せられているような気がするといっていたけど。ほんとうに生身の肉体と違った感覚気持ちよかったわ。アレを着れるというのはいいわね。そういえば会澤という子がいっていたけど、機械娘に調整された事のない子がパワードスーツを着ると虜になる場合もあるといっていたけど、わたしもそうなのかしら」
この時、エリカのパワードスーツをまとった時の感覚が甦っていた。エリカのスーツを纏うことで、自分は女優だという自覚が出ていた事を。いくら彩夏が主役で自分が助演で、出番が多くないとしても、エリカとして演技すればそれが自分の舞台だと思っていた。
むかしから、演劇部に入ったりオーディションに出たりしていたが、ひょんな事で映画に出れる事になったのは、本当にラッキーだったといえる。しかしクランクインまで映画会社の教習所での指導は本当に辛く厳しいものだった。それを生かすのも殺すのもこれからの一ヶ月の撮影で決まる事であった。
翌朝、食堂に集合した一行は薫から次の予定について伝達を受けた。今日は記者発表会が都内の撮影所であり、そのあとメンバー四人が首から下だけスーツを着た姿を披露するものだった。また、記者会見でしゃべってはいけないNGワードを書いたものや、今後の予定などを記載した日程表も配布した。
その薫の姿を見て亜佐美は本当に不思議に思っていた。あの仲良しの薫のドッジぶりはどこにいったのだろうかと。あとで、その理由を知る事になったが彼女も本当はいやだったという事も同時に知った。
それはさておき、亜佐美はミーティングが終わって薫に話しかけた。
「ところで、あなたの役って私の同級生役だったよね、どんな演技をするの? 」
「わたし? 台詞らしい台詞じゃないけど、『エリカ、夏休み沖縄にいくんだって? いいなあ、本当にうらやましいな、あたしも連れてってほしいな』よ。役の女の子は沖縄に行かないけど、本当にあなたと夏休みに沖縄に行けて嬉しいわ。仕事といっても一緒だからいいよ」
「そうなんだ、本当に沖縄に行けてわたしも嬉しいよ。もし仕事が終わってどこかに遊びに行けたらいいよね。ところで沖縄に行ったことはないの? 」
「まあ、四国はおじいさまの会社があるので行った事あるけど沖縄はないね。だから楽しみなの」
この間も二人が楽しく過ごせる時間の残りは、着々と少なくなっていった。




