14-05 見学に連れて行って
薫が高校二年生のとき、周囲にはドジで駄目な眼鏡っ娘と思われていた。これは機械のようにクールだと思われなかったので、薫自身がそのように性格を”演じて”いたのだ。なんてことはない、時々基礎行動パターンをわざと失敗するようにしていたうえ眼鏡をかけていたのだ。
もちろん、失敗も”致命的”ではなく周囲が和む程度のものにし、眼鏡が”伊達”だった。元々薫は超高性能の義眼で、様々な情報が映し出されていた。これは機械娘と呼ばれる”奴ら”によって機械化人にされた女性と同じ仕様であったが、そのことは内緒だった。
そのようなキャラクターだったので、薫たら17年も生きているのにどうしてと言われていたが、実際に薫の機械脳の自我は四年分しか存在していなかったので、違和感があった。
「薫、今度あんたの親父さんの会社が製作協力する特撮番組があるんだってね。よかったらイベント見学できないかな」と、薫の同級生の永川亜佐美が帰ろうとする薫に言い寄ってきた。
「あの番組ね、私の義父の会社じゃないわ。叔父さんの会社なのよ協力するのは。でもいいわ、見学ぐらいはさせてくれるかもしれないから聞いてみる」
当時、薫の義父はサイバーテック・グループの金融部門担当のグローヴァル・ファイナンスCEOで、ロボット兵器等を製造するサイバーテック・ロイドの社長職は江藤英樹の長男・琢哉が勤めていた。この時、サイバーテック・グループの技術協力で特撮番組が製作されることが発表されていた。ほぼ半世紀前に製作されたパワードスーツが登場するアニメ作品のリメイク企画だった。
そのアニメ作品が「ガーディアン・レディ」で、1985年から1990年にかけて製作されたOAVをリメイクして、2034年に劇場版新作として放映予定だった。この作品をリメイクすることになったのは江藤英樹会長が若い頃に夢中になった作品で、サイバーテック・ロイドの前身・江藤鉄工所が最初に開発したパワードスーツも、この「ガーディアン・レディ」の登場人物が着用していたスーツのデザインを参考にしていた。
亜佐美が薫にねだったのは、この作品で使用する機ぐるみを動かすPRイベントだった。このイベントに主役として内定している人気若手女優の一岡彩夏が参加する予定で、どうしても見たい男女が大勢いた。そのため、企画協力している薫の義父の会社なら何とかなるだろうと押し寄せていた。
薫にしてみれば迷惑な話だった。それに一岡彩夏は個人的に嫌いだった。美人であったが少し傲慢そうに見えたからだ。それに女優なんてものに憧れてもいなかった。薫からしてみれば今のドジで駄目な眼鏡っ娘の高校生も演じたものであるから。もっとも、本当の薫というのも演じたことはなかったが。
それは、そもそも薫の人格が機械脳に刻まれたアーカイブを元に自己構築したので、ある程度まで出来上がってたが、もう少し平凡な女の子として過ごさなければ完成しないからだ。
当時、一番の親友だった亜佐美の頼みだったので、とりあえず叔父に頼んだところ、後ろの立ち見でよかったら来てもいいといわれたので誘うことにした。これが大きな転機になるとは思ってもいなかった。




