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プロローグ (改訂・増補版)

 2023年以降、世界各国で大混乱が起きていた。二十一世紀に入り環境問題に加え民族問題や富の偏在といった社会問題は深刻になっていたが、その解決法として国家主権の絶対的尊重という政策が取られていた。すなわち他国の事などどうでもいいというものだった。


 そのため国内体制の引き締めと対外膨張主義による強攻策を取る国家が多くなった。だが前者は抑圧による反発による社会混乱を、後者は国際紛争の頻発を招いた。これらの措置を取った国々に対する経済制裁がさらなる強攻策の実施という悪循環を招き急速に情勢の悪化を招いた。


 そしてついに、世界各国で化学兵器や生物兵器だけでなく核兵器すら使われる世界同時多発テロが発生した。時は2024年9月29日のことだった。この日、中国の北京、ロシアのモスクワなど複数の核保有国の主要都市が壊滅した。さらには主要国の多くも巻き添えになった。


 この核兵器使用は反政府武装勢力やテロ組織と政権側の抗争中に発生したため、テロリストによるものと判断され、核保有国による核の報復合戦による全面核戦争の勃発だけはかろうじて免れたが、多くの主要国が機能不全に陥ったため、世界は大混乱に陥り収拾の目処もたたない事態になった。


 それから数年間は比較的軽度であったが核の冬による農産物の不作による食糧難や、各地で誕生した武装勢力による内乱や、それに乗じたテロ組織によるテロ攻撃により従来の国家秩序は崩壊寸前となった。後にこれらの混乱の多くは”奴ら”と呼ばれる国際的犯罪ネットワークが引き起こしたものだとされている。


 ”奴ら”の正体は二十年が経てもなお判明しなかったが、一説にはノストラダムスの予言集を二十一世紀に実現しようとしたとも、新約聖書にあるヨハネの黙示録がいうところの千年王国を実現するために世界の秩序を破壊するのが目的であるといわれている。


 実際、国家秩序の崩壊した国の中には、近代の民主主義国家でも中世の専制君主制国家でもない異形の政治体制を持つ独立勢力が支配する地域が続出しており、これらは”奴ら”の指導下にあるといわれていた。また2024年以前の混乱も一部の有力国家の政治家が陰謀に加担したことも後に明らかになっている。


 これら独立勢力の対処に当初は国家主権の尊重、内政不干渉を盾に国際社会の介入を拒否していたが、いくつもの国が飲み込まれるに従い、残された国が新たに結成した国際連邦機構による国連軍が”奴ら”に支配された地域を解放する戦いを始めた。


 この国連軍は兵員不足を解消するため、初期にはAIを搭載した機械化兵士が多用されたが、比較的容易に”奴ら”側が乗っ取ることが出来たり、無辜の市民を殺傷する事故が発生する問題があった。


 その後、国連軍による解放地域の拡大により必要な資源や人員が確保できるようになるにつれて、人間兵士が着用するパワードスーツ部隊が投入されるようになると、”奴ら”側の勢力は急速に衰え、2034年ごろにはほぼ平定できた。


 平定できた理由といえば国連軍側諸国の部隊が高性能のパワードスーツで武装したのが大きかった。これら高性能なパワードスーツはテロリストが扱いきれるものではなく、仮に奪われても適切なメンテナンスができないため、すぐにスクラップになっていた。


 ”奴ら”を平定後は世界の国家の再編が行なわれ、被害の大きかったアジアや中東、アフリカや欧州では緩やかな国家連合が国連主導によって結成された。そのうちの一つが、中央アジアから東アジアにかけて東亜州民主共和国連邦(略称”東国”もしくはState of East Asia Republic Federationを略して”SEAF”)が結成された。これらは戦乱で荒廃した中央アジアから沿海州までの地域で構成されており、経済規模こそ大きいものの政治的には弱い体制であった。


 もっとも世界各国の軍隊の多くは国連軍の下部組織に編入されていた上、経済政策も国際連邦機構の指導下に置かれていたので、事実上国連の下部組織に属する地方自治体でしかなくなっていた。


 日本は、戦争初期に核兵器テロなどを受けたが、政治機構の崩壊までは至らなかったものの、大量の戦争難民を受け入れざるを得なくなり、劇的な社会変化を余儀なくされた。また初期には難民キャンプの虐殺や政府首脳に対する暗殺などテロが相次いだが、これらも”奴ら”によるものであった。


 一方で日本も国連軍に参加することになった。大戦勃発直前に中国と領土問題悪化による武力紛争を経験したものの、中国や朝鮮半島の崩壊を阻止する活動には全く消極的であったが、”奴ら”による国際秩序の破壊行為に対し”武力制裁”ではなく”治安活動の一環”という事で介入するようになった。特に国連軍のパワードスーツ部隊への貢献は著しいものであった。


 勃発から二十年が経過した2044年。ようやく国際連邦機構による新たな世界秩序がうまれようとしていたが、依然として戦争をもたらした原因はなにかということは判らなかった。”奴ら”の黒幕の正体がわからなかったからだ。それに大きな混乱はないとはいえ、依然として勢力は健在だったからだ。


 いつの時代にも社会に不満を持つものが社会を変えようとする試みがなされることはある。これが平和的なもの、秩序を重んじるものなら緩やかにできるが、全てを破壊するテロ行為に走ると者が必ず出てくる。このような破壊的な思想に漬け込むのが”奴ら”の常套手段であった。


 そのため、切っ掛けと手段を与えるのが奴ら”の存在であるといえ、操られたほうも正体を知ることは少なかった。僅かな情報といえば、機械の類ではなく二十世紀後半に青年期を過ごした複数の人物で、2022年に人類の大量殺害を決断した集団であることぐらいだった。


 2044年夏、日本のパワードスーツメーカーのオーナー一族が”奴ら”を葬ることを計画していた。その計画のひとつが、機械娘の選抜だった。そして自身を囮にして中枢に乗り込もうとしていた。 

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