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最初の夜

少し短めです。


 フェリルの攻撃を受け、地に伏した大熊が粒子となってその姿を消す。

 どうやらなんとかここのエリアボスを倒せたらしい。

 

 「ふー、なんとかなったな。お疲れ二人とも」

 

 シトロンがシェルにもたれかかりながらガッツポーズをする。

 その表情は緊張が抜けたのか少し疲れているように見えた。

 

 「シトロンがしっかり指示してくれたおかげだよ。舞花のサポートも上手かったしね」

 

 僕の言葉に舞花が嬉しそうに微笑む。

 

 「ありがとっ!でもルート達の最後の攻撃もすごかったね。そのレベルであの攻撃力はなかなかだせないとおもうよ」

 

 フェリルの攻撃は、銀狼の加護に加え急所に当てた事で相当な火力を発揮していた。

 最も、その代償は大きくステータス半減のせいで狩りが続けられるような状況ではなくなってしまったが。

 

 「やっぱりルートとフェリルはここぞというときに役立ちそうだな。これは楽しくなってきたぞ」

 

 にしし、とシトロンが笑う。

 

 「さて、それじゃあ一端町に戻ろうか。僕とフェリルは少しの間戦えないし」

 

 二人とも僕の提案に賛成し、一度町に引き返す事にした。

 歩いて帰るのかと思ったがどうやら舞花に良い案があるらしい。

 

 「3人までなら何とかなるかなっ。フィオーレ頼んだよ!」

 

 舞花の肩にフィオーレが座り、僕たち全員にとあるスキルをかける。

 それと同時に、僕たちの身体が空に浮かび上がる。


 「これはすごいな!」

 

 作られた世界とは思えない、いや作られた世界だからこそ実現できた眼下に広がる綺麗な世界の景色に、思わず感嘆の声が漏れた。

 

 「ね、綺麗でしょ?これで町まで帰ろう!」

 

 舞花の声に従って、ゆっくりと移動を始める。まるで空を散歩しているような感覚だ。

 

 「このゲームはさ、俺たちプレイヤーのアクション性が低いから最初はあんまり注目されてなかったんだ。わざわざVRMMOでやる必要はないんじゃないかってな。でも実際はその逆で、召喚獣の力を使えばこの世界では本当に色んな事が出来る。こんな風にさ」

 

 確かに、空を歩くなんていう体験はVRならではの物だろう。

 このゲームは人気に違わず、しっかりとVRMMOとして大成しているようだ。

 

 「まだまだルートが知らない魅力もたくさんあるから、一緒に楽しもうねっ!」

 

 舞花の言葉に年甲斐も無く好奇心がうずき始める。

 どうやら僕も見事にこのゲームの世界観にはまりこんでしまったらしい。

 

 「それに明日からはこのゲーム初の大規模クエストだ!今なら攻略組に躍り出る事もできるし、これからもっと楽しくなるぞ」

 

 そう、学校で舞花もいっていたが明日には開始一ヶ月記念としてこの世界全体に影響する物語がついに実装される。

 このゲームをやっていた二人はもちろんの事、僕も楽しみで仕方が無い。

 

 

 その後、5分ほどで町までたどり着く。

 学校で出た課題が終わってない事を思い出した舞花が慌ててログアウトしたため、今日の狩りはこれで終わりにして、シトロンが町でおすすめの商人をおしえてくれることになった。

 

 「さて、まぁNPCの店はマップみりゃわかるだろうから腕利きの商人を教えてやるよ」

 

 そう言う彼の後について、露店を開いている商人に挨拶をしにいく。

 

 「ええとあの人はっと、いたいた。ご無沙汰してますシュリ姉さん」

 

 町の中央にある露店スペースの端で、ひっそりと店を構えている赤髪の女性にシトロンが声をかけた。

 

 「おぉシトロンじゃないか。珍しいなお前が私を尋ねてくるなんて」

 

 シュリと呼ばれた女性がシトロンの顔を確認すると驚いたような声をあげる。

 

 「シュリさんの作る装備はうちのシェル向きじゃないですからね。今日は紹介したい奴がいてきたんです」

 

 そう言ってシトロンが僕の事を指差す。

 

 「こいつはルートって言って俺の友達です。狼系の召喚獣を手に入れたんでシュリさんのいい商売相手になるかと思って」

 

 僕の事を見てシュリがほう、といった声をだす。

 

 「初めましてルート君。私はシュリといって主に獣系の召喚獣の装備を作っている。珍しい素材を手に入れたら持ってきてくれれば買い取ったりもしているから是非利用して欲しい」

 

 シュリに頭を下げられ、慌てて僕も挨拶を仕返す。

 

 「こちらこそよろしくお願いします。獣系と言う事は狼の装備も?」

 

 「あぁ、もちろん作れるぞ。そうだな、近づきの印ということで何か明日までに作っておいてやろう。少し召喚獣をみせてくれないか?」

 

 初対面でいきなり悪いと思ったが、シトロンの知り合いと言う事なのでありがたくその言葉に甘える事にした。

 

 「おいでフェリル」

 

 フェリルを喚びだし、シュリに預ける。

 

 「おぉ、これはまた愛くるしい召喚獣だな。よしよし、これなら今余ってる素材で作れそうだ。明日の夕方頃には準備ができるだろうから取りにきてくれ」

 

 シュリがフェリルを抱きかかえて身体のサイズ等をはかったりしている。

 一通り採寸が終わるとフェリルを返してきた。

 

 「会ったばかりなのにありがとうございます。これからこのお店利用させてもらいますね」

 

 気にするな、と豪快にシュリが笑う。

 

 「私もお得意様が一人増えると助かるしな。明日からの大規模クエスト実装で新しい素材も追加されるそうだから期待しているぞ」


 わりと強かなシュリのその発言は、さすが商人プレイをしているだけの事はあると言う事か。

 

 その後シトロンとシュリが久しぶりにあったと言う事で少しのあいだ世間話をし、良い時間になったので僕たちは解散する事になった。

 

 「それじゃあシュリ姉さんまたな!ルートもまた明日学校で」

 

 そういって一足先にシトロンがゲームからログアウトする。


 「さて、僕もお先に失礼しますね。明日またよろしくお願いします」

 

 お疲れさん、と手を振るシュリに僕は頭をぺこりと下げると、ゲームから接続を断つ。

 

 

 「ふー、思ったより楽しかったな。明日も楽しみだ」

 

 VR機器を片付け、就寝の準備に入る。

 予想以上のゲームの完成度の高さに、未だにワクワクとした感覚が抜けない。

 新しい世界を開拓していくような体験に心が躍りっぱなしだ。

 明日の大規模クエストに大きな期待を寄せつつ、僕は眠りにつく。

 

 こうして僕がサモンクロニクルの世界に足を踏み入れた最初の一日が終わりを告げた。

 

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