二人の召喚獣
町を出ると、舞花の名前を見つける。
普通こういうゲームではハンドルネームを使うと思うのだがあまりその辺りを気にしないのか、舞花は本名をそのまま使っているらしい。
どうやら彼女は一人ではないようで、隣にもう一人男性のプレイヤーがいる。
「来たよ舞花」
こちらのアカウント名をまだ教えていないので、僕から彼女に声をかける。
「あ、よかった、ちゃんと来てくれたんだねっ」
僕の声に気がついたのか、舞花はいつもの元気な笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。
「一応チュートリアルまでは終わらせておいたよ」
そういって僕の肩にのってる召喚獣を指差す。
「早速孵化させたんだ!ちょっと貸してっ」
そう言って舞花は、僕の召喚獣を抱きかかえて撫で始める。
にこやかな顔でまんじゅうを撫で繰り回してる彼女を尻目に、さっきから横で突っ立ってる男に声をかけた。
「で、なんで樹もここにいるの。舞花の後に一緒にやるって話じゃなかったっけ?」
彼のハンドルネームは本名とは違ったが、俺と同じく昔やったゲームの名前と同じだったのですぐにわかった。
「いや、それが元々一緒に遊ぶ約束してた奴が急用でこれなくなってな。それでマイカに合流して良いか聞いたらオーケーが出たんで来たってわけよ。あとこっちではシトロンって名前だからそう呼んでくれ!」
そういってガッツポーズをする。どうもゲームの中だと普段よりテンションが高いようだ。
「わかったよシトロン。それでこれからどうするの?まだ全然何もやってないんだけど」
「あぁそうだな。召喚獣はもう喚びだしてるみたいだしまずはレベルあげかな。育成の方針とかは決めてあるか?」
僕は静かに首を振った。
「いや、まだだよ。結構偏ったステータスだから舞花の意見を聞いとこうと思って。シトロンもちょっと見てくれる?」
そう言ってステータス画面を開き、シトロンに見せる。
「こりゃまた偉く俊敏が高いな。そして防御は紙、と。まぁでもこれは都合が良いかもしれないな」
シトロンが自分の召喚獣のステータス画面を開いて僕に見せてくる。
そのステータスはどれもそれなりに高かったが、特に耐久と体力の値が郡を抜いていた。
「これ見ればわかると思うんだが、俺の召喚獣は防御に特化してるんだ。最初に行動していたパーティの時に壁役をやってたんでな。んでマイカの召喚獣は魔法能力に特化してるって聞いてる。パーティ戦では必須の回復ステータスも持ってるらしい。なんで俺たちと組むなら俊敏と攻撃に振っていくと丁度良いかもしれん」
それに、とシトロンが付け加える。
「最近わかってきたんだが、レベルが高くなると才能ポイントが高かったステータスは他のステータスに比べて能力値の上昇が大きいらしい。だから下手に短所を潰すより長所を伸ばしていった方が良いと思うぞ」
なるほど、それならば偏ったこのステータスも生かしようがあるだろう。
「わかった、そう言う事なら俊敏と攻撃をあげていこうかな。当分は僕も二人としか組むつもりは無いし」
ソロプレイの時には困りそうだが、まぁそうなったらその時考えれば良いだろう。
「後魔法力は気が向いたときで良いからあげておいた方が良い。何かと便利なスキルが着きやすいからな」
進化するときに魔法力が高いと特殊なスキルを覚える確率が高くなるらしい。
マイカの召喚獣がもってるという回復スキルも進化で手に入れた特殊スキルだとか。
シトロンの助言をうけ育成の方針が固まった所で、僕たちはモンスターを狩りに町近くの草原に出向く。
ここは初心者が一番最初に来る最も初歩のフィールドだ。
幸い、近くに誰もいないため自由にモンスターを狩る事が出来る。
当たりを見回すと、RPGでおなじみの透明なスライムが地面を這っている。
「さて、まずはここでレベル上げだな。スライムなら安全に倒せるだろうから少しやってこいよ」
シトロンにそう言われ、僕は肩にのってるまんじゅうに声をかける。
「よし、まずはあそこにいるスライムを倒してくるんだ」
そういって一番近くにいるスライムを指差す。
目標を確認するとまんじゅうは一直線にスライムに突進していった。
「それにしてもあれ、どうやって移動してるんだ」
足も無いのにぴょんぴょん跳ねながらスライムに体当たりしている姿はとてもシュールだ。
というかあれで攻撃が通ってるのだろうか。
「最初はすごく攻撃とか地味なんだよねー。でも見てるとすごく可愛いよねっ」
舞花がスライムとまんじゅうのじゃれ合いとしか見えない戦いを眺めながら笑う。
しばらくすると、スライムの体力がなくなったのか地面にとけて消えていく。
それと同時にシステム音がレベルが上がった事を伝える。
「お、レベルが上がったみたいだな」
ステータス画面を開くとポイントが5つ増えている。
これを割り振って召喚獣を成長させていくわけだ。
事前に決めておいた育成方針に従ってポイントを割り振っていく。
「俊敏に3、攻撃に2っと」
結局、俊敏と攻撃を生かす事にし少しずつ魔法力をあげていく事にした。
「よし、まずは一匹目狩れたみたいだな。さてこのままちまちまレベルをあげてもいいんだが、俺たちも早くお前と遊びたいんでここで一気にレベルをあげようと思う」
「一気にレベルが上がるならそりゃ助かるんだけどそんなことできるの?」
「おう、俺たちに任せとけって。いくぞ、シェル!」
そう声を発すると、シトロンの召喚獣が喚びだされる。
「……亀?」
僕の身の丈ほどもある甲羅を背負ったそれは、どう見ても亀だ。
だが、その足には鋭い爪を携えており、頭は亀と言うよりもまるで竜のようだ。
「こいつが俺の相棒のシェルだ。一応竜亀ってとこだな。足は遅いが防御面ではぴかいちだし攻撃力もそこそこある頼もしい奴だ」
シトロンが自慢げにシェルを紹介する。
「シトロンの次は私だよっ。おいでフィオーレ!」
舞花のかけ声と共に出てきたのは、手のひらサイズの妖精だった。
「小さいからと侮るなかれ!この子は強力な魔法と回復が使える優秀な子なんだよ!まぁ他はからっきしだけど……」
舞花の召喚獣は聞いていた通り魔法特化のようだ。
全員ものの見事に能力が偏っているが、確かにこれならいいパーティが組めそうだ。
「さて、それで何をするかというとこれから俺がここいら一帯のスライムをかき集めるから、舞花にそいつらの体力をぎりぎりまで削ってもらう。んでルートがとどめを刺す、という流れでいく。まぁ実際にやってみたほうがはやいだろ、準備はいいなマイカ」
舞花が頷いたのを確認すると、シトロンがシェルに命令を下す。
「シェル、ハウリングボイスだ!」
シトロンの命令を聞くと、シェルが大きく口を開く。そして腹の底が震えるような重低音の鳴き声をあげた。
すると、その音を聞いたスライム達が一斉に身体を震わせてシェルに襲いかかる。
だがスライム達の体当たり程度ではシェルはびくともしない。
「今度は私の番だね。フィオーレ!カーズソング!」
舞花のかけ声と共にフィオーレが綺麗な声で歌い始める。
その歌声はモンスター達に呪いとなって襲いかかった。
「カーズソングは相手の体力を徐々に減らしてくの。スライムはそんなに体力が無いからすぐに瀕死になると思うよ」
舞花から説明を受けているうちにスライムの動きが鈍くなる。
もうほとんど体力がないようだ。
「よし、いってこいまんじゅう。体当たりだ」
まんじゅうではあまりにも格好がつかないので二人みたいに名前を付けてやろうかと思ったがまぁ進化してからでいいだろう。
いまはまだどんな召喚獣になっていくか全くわからないし。
そんなことを考えてるうちに集まっていたスライムが、まんじゅうにとどめをさされ全て溶けて消える。
それと同時に連続してシステム音が響いた。
「おぉ!一気にレベルが5も上がった!」
さすが大量に集めて倒しただけの事はあり、レベルの上がる速度が尋常ではない。
「よし、いい感じだな。それじゃあこの調子で一気にレベルあげちまおう」
そういうとシトロンが再び近くのスライムを集め始める。
そうして、僕たちはまんじゅうが進化できるレベルまで一気に育てる事にした。