召喚獣との出会い
ゲームに入ると目の前に華やかな都が映し出された。
ファンタジー調を全面に押し出した石造りの建物は、西洋の古都を思い起こさせる。
あたりにはプレイヤーと思われる人達が楽しそうに雑談していたり、売店で値切りをしていたりとオンラインゲームらしい景色が繰り広げられていた。
やはり人気タイトルというだけあってプレイヤーの人数は相当なもので、至る所に人がいる。
だがその中でもやはり一番目を引くのはこのゲームの核とも言える召喚獣だろう。
町行く人は皆、ありふれた動物から現実では絶対に見る事がないと言い切れる不思議な生物まで様々な召喚獣を連れている。
ちなみに、町の中は非戦闘空間に設定されているため召喚獣もその力を制限され、身体大きさ等も小さくなっている。
そのため本来なら獰猛な獣等もデフォルメされた可愛い姿になっていた。
この風景を見て女性にも人気が高いという理由が何となくわかった気がする。
それにしても昔別のVRMMOをやったときはもっとゲームらしい風景だったきがするが、ここ数年の間に随分と技術力があがったようで現実世界と見た目がほとんど変わらない。
思わず町並みを見て回りたくなるが、のんびりしていると約束の時間がすぐ来てしまう。
舞花と合流する前にせめてチュートリアルだけは終わらせておきたい。
「さて、まずはインベントリの中を確認っと」
僕の思考に伴って、仮想インターフェースが表示される。
いま表示されているのはゲーム内のアイテムを収納するインベントリだ。
その中にチュートリアルアイテムであるガイドブックとこれから自分の相棒となる召喚獣の卵が入っているのを見つける。
ガイドブックを選択すると、召喚獣について書いてあるページを見つける。
その中に書いてある事を簡単に要約するとこうだ。
まず、召喚獣には生まれた時点で能力値のパラメーターがランダムに割り振られる。
これを才能ポイントと言うらしい。
ちなみにステータスには体力、耐久力、攻撃力、魔法力、俊敏力、器用さ、そして幸運値の7つのパラメーターがある。
他にもゲームを進めていくうちに各紙パラメーターが出現したりするらしいがとりあえず序盤は関係ないだろう。
基本的には、この才能ポイントが高い能力値を優先的に育てていく。
最もあくまで育成の目安であり基本的にどんな素質を伸ばしていくかはプレイヤーの自由だ。
ただ、このゲームには進化システムと言う物があり進化するたびに召喚獣の見た目や能力が変わっていく。
その進化の際にステータスを参照し、それに沿った変化をするのでステータス振りが与える影響は大きい。
とはいえまだ開始から一ヶ月ほどであまり情報が出回っていない事に加え、進化による変化は数千種類にも及ぶと言われているため、適当にステータスを振ってたら誰も見た事の無い強力な進化を遂げました、なんて話もある。
用は深く考えずに自分の好きなようにやって行くのが一番良いのだろう。
今の所ガイドブックに書いてあるのはこれだけのようだ。
これから召喚獣のレベルが上がるに連れて情報が増えていくらしい。
僕はガイドブックを閉じ、ついにこのゲームの要たる召喚獣の卵に手を伸ばす。
卵を選択すると同時に、眼前に『卵を孵化させますか?y/n』という表示が出る。
yesを選択するとシステム音の後に続いて目の前に卵が具現化する。
その中央あたりからひびが入り、徐々にそれが大きくなっていって遂に卵が割れる。
そして割れた卵の中から白いまんじゅうのような生物がこちらに向かって飛び出してきた。
「うわっ!」
驚きつつも僕はその生物を抱きとめる。
目と口だけがついたそのまんじゅうそっくりの生物が、どうやら僕の召喚獣らしい。
もっとも、生まれたての召喚獣は多少の差異はあれどこんな感じになるそうだが。
抱きかかえたまんじゅうがそのつぶらな瞳で僕の事をじっと見つめてくる。
どうやら僕を自分の主として認識しているようだ。
なでると気持ち良さそうに目を細める。
あまりの可愛さにこれだけで時間を過ごせそうだ。
だが約束の事もあるのであまりゆっくりはしていられない。
僕は召喚獣のステータスを表示し、才能ポイントを確認する。
「体力が2で運が3。魔法力と攻撃力が4と。って俊敏さが6!?器用さと耐久は1か……」
最初のステータスポイントは21割り振られる。
つまり3ポイントと言うのが平均的な初期能力値だ。
それをふまえてもう一度ステータスを見るとずいぶんと偏っている。
というか耐久と体力が低いって結構まずいのではないだろうか。
モンスターとの戦闘をするときは基本はヒットアンドアウェイの戦法になりそうだ。
ちなみにこの世界にも他のMMORPGと同じようにモンスターが存在する。
プレイヤーたる召喚士はこのモンスターと唯一戦う事の出来る存在という設定だ。
もっとも、まだその設定が生かされる大規模なストーリークエストが配信されていないため、あくまで設定だけとなっているが。
「とりあえず舞花の意見を聞きつつ育成の方向を考えよう。まだ約束まで少し時間があるし町を見て歩いてようかな」
まんじゅうを肩にのせ、僕は仮想世界を観光する事にした。
といっても町の外から出るつもりもなかったのですぐに終わってしまい、途中からは他のプレイター達が連れている召喚獣の観察に変わっていった。
「それにしても本当に色んな召喚獣がいるんだな……」
それが売りなのはわかっていたが実際に目にすると驚きをかくせない。
ある人は可愛らしいウサギを連れていたかと思うとその後ろからは足が何本もあるタコみたいな生物が宙を浮いていたり、スライムのようなゼリー状の何かを引き連れてる人までいる。
相当混沌としたその光景に思わず苦笑がこぼれるが、皆に共通している事はとても楽しそうにこのゲームに参加していると言う事だ。
プレイヤー達の雰囲気もいいため、改めてこのサモンクロニクルが良ゲーだと言う事を実感する。
しばらく他の召喚獣を眺めていると、事前に設定しておいた時計のアラームがなる。
どうやら約束の時間になったようだ。
舞花とは町の出口で合流する約束をしていたため、僕は遅れないように急いでその場所へ向かった。