表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/14

幼馴染み

 薄暗い道を舞花と僕は慎重に先へ進む。

 さきほどのスケルトンラッシュが終わってからは大した脅威もなくすすめていたが、油断する事は出来ない。

 遠距離から確実にモンスターを仕留められるシュリと、攻撃を一身に引き受けてくれるシトロンが抜けた事で、戦力としては大分不安がある。

 なるべくはやくシトロン達と合流したい所だが、広間以降相変わらず一本道が続いているだけで、この先二つの道がつながるのかどうかもわからない。

 とはいえ引き返す事もできないので、最悪二人でこのダンジョンをクリアする必要があるだろう。

 

 「ゲームの中だってことはわかってるんだけどやっぱりこの雰囲気は怖いね……」

 

 隣にいる舞花は珍しくいつもの元気がなりをひそめている。

 どうやらダンジョンの不気味な雰囲気とパーティが分断されてしまった事で結構ダメージをうけているようだ。

 

 「大丈夫だよ、僕がついてるから。……といっても僕の方が初心者だしあんまり頼りにならないか」

 

 元気づけようとしたが言ってる最中に僕の方が弱い事を思い出す。

 むしろこの状況だと自分は守られる側だろう。


 だが舞花は少し気が紛れたようで、クスクスと僕の方を見て笑う。

 

 「相変わらず涼太はしまらないなぁ。でもありがと、少し元気がでてきたよ」

 

 すこし気が抜けたためか、ハンドルネームではなく本名で呼んでくる。

 舞花自身が言う通り元気になったようで、表情から先ほどの少し怯えた様子がなくなっていた。

 

 「さてと!さっさと抜けちゃおうこんな所!」

 

 そう言って舞花が僕の手を引いて駆け出す。

 先ほどのような罠があるかも知れないので慎重に行くべきなのだが、舞花に余裕があるうちに抜けてしまった方が良い気もするので、そのまま先へ進む事にした。

 

 時折現れるスケルトンを蹴散らしつつ、まっすぐ進み続けると薄暗い通路の先にかなり広い空間があるのを見つける。

 

 「やっと広い所にでてきたね。あれはなんだろう……?」

 

 通路からぬけ、目の前にドーム状に広がる空間へ入っていく。

 その中央には大きな椅子のような物が置いてあり、そこには人間と同じくらいの大きさの古びた西洋人形が座っていた。

 あきらかにヤバそうな雰囲気に、僕と舞花は距離をとりつつ他に何か無いか辺りを見回す。

 すると、僕たちが入ってきたのとは別の通路がつながっているのを見つけた。

 位置的にシトロン達が向かった道の出口だろう。

 やっと合流することができるともう一つの通路へ向かったときだった。

 

 背後から突然耳をつんざくような叫び声があがり、洞窟の中で大きく反響する。

 思わず耳をふさいで後ろを見ると、先ほどまで古びた椅子に座っていた西洋人形が立ち上がって大きく口を開いていた。

 

 「ま……っずい……!!」

 

 舞花の手を引き、急いで通路に駆け込もうとするがその寸前で何かに弾き飛ばされる。

 よくみると、通路の入り口がガラスのような物で覆われていた。

 

 「そんなっ結界が張られてる!?……ボス戦みたいだね、これは」

 

 ガラスのような壁をみて、舞花が現状を察する。

 覚悟はしていたがどうやら本当に二人でここのボスを倒さないといけないようだ。

 

 すでに叫び声はやみ、人形はけたけたと不気味な笑い声をあげている。

 人形が手を大きく振るうと、地面からボコボコと人骨が生えて来た。

 どうやらこのダンジョンの中のスケルトンは全部こいつが生み出していたらしい。


 「うぅ……完全にホラーだよこれ……。でもこうなったらやるしかない!いくよフィオーレ!」

 

 舞花も覚悟をきめたようで、フィオーレと共に人形に立ち向かう。

 僕も舞花をサポートするため、フェリルと襲ってくる骨達を片付けていく。

 

 防御力は無いに等しいフェリルだが、その俊敏性を最大限に生かし単調な動きしかできないスケルトンを翻弄しながら確実に数を減らしていく。

 

 「いまだ舞花!」

 

 「フィオーレっ!ファイアボール!」


 召喚されたスケルトンを全て片付けると同時に、フィオーレが用意していた魔法攻撃を放つ。

 放たれた大きな火球が人形を焼き尽くそうとする。

 だが火球が人形に着弾する瞬間、何か壁に阻まれたかのようにひしゃげて掻き消されてしまった。

 

 「あれは、魔法障壁?。本当厄介な敵だね……」

 

 どうやら人形は常に障壁をはっているようで、一度あの障壁をやぶらないとダメージが通らないようだ。

 再び人形がスケルトンを召喚する。

 唯一の救いと言えば人形自身は攻撃をしてこないことだが、あいつがいる限りスケルトンが召喚され続けるのでこのままではいずれ力押しで負けてしまう。

 

 「ファイアボールで駄目となると障壁を破れそうなのはあれしか無いか……。ルート、フェリル!私たちの必殺技をうつからもう一度あのスケルトン達を片付けて!」

 

 必殺技とは今日覚えたばかりだといっていたあのスキルのことだろう。

 僕は舞花の言葉に頷き、再度スケルトン達を倒していく。

 

 「よし準備完了、いっくよフィオーレ!フルバーストぉっ!」

 

 フィオーレの前に巨大な魔方陣が描かれそこに全ての魔力が注ぎ込まれていく。

 今撃てる最大の破壊力を秘めた攻撃が、人形を覆う障壁へと殺到する。

 

 刹那、ガラスの割れるような音が響き渡り障壁が打ち砕かれた。

 

 「いまだフェリルッ!ウィンドハートル!」

 

 スケルトンを片付け待機していたフェリルが風のように駆け、がら空きになった人形の胴体に突進する。

 椅子から放り投げだされた人形は音をたてて地面を転がり何度かバウンドして倒れた。

 

 「やったっ!?」

 

 舞花が期待をこめた目で人形を見つめる。

 しかし、僕たちの淡い期待を打ち砕くように人形が立ち上がる。

 やはり今のフェリルではまだ火力が全然足りていないようで、相手の体力は10%ほどしか削れていない。

 

 「さすがに一撃じゃ倒せないか。でもダメージが通るならこれを何度も繰り返せばっ」

 

 幸い、魔力をすべて消費してもメディテーションを使えば三分ほどで全快できる。

 長期戦にはなるがなんとか倒す事ができそうだ、そう僕たちは考えた。

 

 しかし、次に人形がとった行動によって再び窮地に追い込まれてしまう。

 ダメージをうけた事で危機感を感じたのか、連続でスケルトンを召喚しはじめたのだ。

 その数は先ほど倒した数の五倍ほどになっている。

 

 「冗談だろ……」

 

 目の前の光景に思わず冷や汗が流れる。

 今までだって倒せていたとはいえとてもじゃないが余裕がある状況ではなかった。

 このままでは物量に押されて負けてしまうのは時間の問題だろう。

 万事休すかと思い、後ろにいる舞花に目を向ける。

 しかし、僕の予想とは裏腹に彼女の目にはまだ諦めの色は見えなかった。

 

 「ルート、銀狼の加護を使えばあいつらから時間かせげる?」

 

 いつになく真面目な声で舞花が僕に聞く。

 確かに銀狼の加護でステータスを倍にすれば。一度くらいは何とかなるかもしれない。

 

 「一回なら何とかなると思う。だけどそれでもあの人形は倒しきれないよ?」

 

 そう、もう一度障壁を破ったとしてもフェリルではあいつの残りの体力を一撃で削りきる事は出来ない。

 加護の効果が切れてしまえばフェリルのステータスは半減。

 そうなったらもうどうすることもできない。 

 

 「大丈夫、私に考えがあるから。よく聞いてルート」

 

 そう言って彼女はとある作戦を僕に伝える。

 

 「これは私とルートのコンビネーションが完璧じゃなきゃ絶対成功しない。でも私たちが勝つにはこれしか方法が無いと思う」

 

 舞花の提案した作戦はとても単純で、だけどかなり難しい物だった。

 確かに彼女の言う通り僕たちの息がぴったりとあっていなければ失敗してしまう。

 だがその作戦を聞いた僕には、絶対にうまくいくという確信があった。


 「大丈夫だよ舞花。なんてったって僕たちは幼馴染みだ。相性の良さでいったら右に出る物はいないさ」

 

 そう言って不安げな舞花に笑いかける。

 舞花もそうだね、といっていつも通りの元気に満ちた笑顔を浮かべた。

 

 「よしそれじゃあ私たちの幼馴染みパワーをみせつけよっか!任せたよルートっ」

 

 「わかった、舞花達には指一本ふれさせやしない。銀狼の加護発動!」

 

 フェリルが銀色の光に包まれ、その全てのステータスが二倍になる。

 先ほどよりも数段すばやい動きで、スケルトンの軍団をひっかきまわしていく。

 すべてのスケルトンにあえて倒さないよう(・・・・・・・・)、攻撃を与える。

 わざと急所をはずされダメージを加えられたスケルトン達は全員フェリルに標的を定め、列をなして一ヶ所に集まってくる。

 

 あまりの多さに何度も周りを囲まれそうになり、その度に倍になったステータスを生かして紙一重の所で逃げ続けるが、さすがにそろそろ厳しくなってきた。

 しかし、その間も攻撃の手を休める事無くあと一撃でスケルトン達を倒せるというところまで持っていく。

 

 そして、背後から待ちにまった声が聞こえた。

 

 「準備完了!フィオーレっ、あの人形に向かってフルバースト!!」

 

 メディテーションで魔力を完全に回復しきったフィオーレが、再び莫大な破壊力を備えた魔法を人形にぶつける。

 

 「いまだよルートッ!」

 

 魔法が放たれると同時に舞花から合図が下される。

 

 「フェリル、トルネードスラッシュっ」

 

 一ヶ所に集められ、ぎりぎりまで体力を減らされたスケルトン達に風の刃が襲いかかった。

 すでに瀕死のスケルトン達は、抵抗する事もできず瞬時に倒されていく。

  

 スケルトンが倒れるのと同時に、人形の障壁に魔法が直撃する。

 一回目と同じようにガラスの砕けるような音と共に障壁が破られた。

 

 だが加護をうけているフェリルでも人形を倒しきることはできず、すでにフィオーレも魔力が空だ。

 人形はまるでその事を知っているかのような余裕の笑みを浮かべている。

 

 「甘いよ」

 

 しかし砕けた障壁が消え去り再び人形の視界が開けた時、その目の前には本来あり得ないはずの光景が広がっていた。


 フィオーレの前には今放ったものと同様の魔法陣が展開され、人形に向けられている。

 それはすでに眩く光り輝いており、今にも必殺の一撃が放たれてようとしていた。

 

 慌てて人形が障壁を張り直そうとするが、今更間に合うはずも無い。

 

 「フルバースト」

 

 静かに舞花が勝利を宣言する。

 魔方陣から放たれた光の奔流は人形を貫き、跡形も無く消し飛ばした。

 

 


 「やった、のか……?」

 

 目の前にはすでに人形の姿は無く、スケルトンも再度召喚される気配もない。

 その事実を確認すると、ようやく緊張から解放され僕と舞花は地面にへたりこんでしまう。

 

 「さすがルート、相性はばっちりだったね」

 

 疲れた表情をしながらも、その顔に満面の笑顔を浮かべて舞花が話しかけてきた。

 

 「あぁ、僕たちの完全勝利だな」

 

 僕も彼女に笑い返し、お互いの健闘をたたえる。

 

 「大丈夫か二人とも!」

 

 地面に座り込んでしまっている僕たちに、シュリとシトロンが駆け寄ってきた。

 

 「シュリさんたちもここまできてたんですね」

 

 「あぁ、通路の先から叫び声のような物が聞こえて急いで駆けつけたんだ。だが出口に結界がはられていてな、助けに入る事が出来なかった」

 

 どうやら内部から逃げられないだけでなく、外からも入って来れなくなっていたらしい。

 

 「お疲れ二人とも、まさか二人だけでボスを倒しちまうなんてな。それにしても最後、どうやってフルバーストを連続で撃ったんだ?」

 

 シトロンが労いの言葉をかけながら、先ほど見た光景の説明を求める。

 フルバーストは全ての魔力を使用して使う魔法のため、連続で撃つ事は出来ないはずだ。

 

 「レベルアップだよ」

 

 その疑問に、舞花が答える。

 

 「レベルアップ?」

 

 答えの意図がわからない、といったようにシュリが聞き返す。

 

 「はい。あの時、フィオーレはもう少しでレベルが上がりそうだったんです。だから、僕とフェリルはあえてスケルトンを倒さず一ヶ所に集めて一撃目のフルバーストが放たれた瞬間、一気にスケルトンを倒した。それによって得られる経験値は同じパーティのフィオーレにも流れ込んで、その時点でレベルが上がったんです」

 

 「なるほど、それでレベルアップ時に体力と魔力が全快する仕様を使って、即座に二発目のフルバーストを撃ったと言うわけか」

 

 僕の補足にシュリが納得する。

 作戦の内容としては単純だが、これはそんなに簡単な事ではない。

 スケルトンを倒すのが早すぎればレベルアップの恩恵を得られないし、遅すぎれば再び障壁を張られてしまう。

 ほんの一瞬のタイミングをあわせなければ決して成功しない作戦だったのだ。

 

 「全く、お前ら幼馴染みはとんでもないな。大したコンビネーションだよ本当」

 

 作戦の内容を聞いたシトロンが思わず苦笑する。

 

 「まぁなにはともあれ無事に倒せてよかった。ほら、君たちのおかげで新しいエリアの道が開いたぞ」

 

 シュリが広間の奥を指差す。

 そこには先ほどまで無かったはずの扉が現れていた。

 どうやらここのボスを倒した事で新実装エリアに入るための条件が整ったらしい。

 

 「頑張った甲斐はあったってことだね。それじゃいこうか、ルート、みんな」

 

 そう言って舞花が立ち上がり、奥の扉へと歩みを進める。

 僕たち三人もその後に続いていく。

 

 「それじゃあ、あけるよ」

 

 舞花が扉に手をあて、ゆっくりと押していく。

 そして僕たちの目の前に新しい世界が開かれた。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ