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燻し銀のダンディーダディは真っ正面から迫り来る

作者: サンシーク

 ある日、私は同じ女子大に通う高校時代からの友達に奇妙な話をいくつか聞いた。私は都市伝説や怪談の類は絶対に信じていない、というか信じようとも信じられず、その友達の話も普段ならどれも一笑に付すものばかりだったんだけど、一つだけ無性に興味を惹くものがあった。

 何故ならすでに私はそれと遭遇していたのだから。



―――――――



 ある日の夕方、私は大学から帰宅する途中、人通りの少ない裏道を一人家路に急いでいた。


 (今日の夕ご飯なんにしようかな。あっ、『なん』にしようかなって言っても、インドの『ナン』じゃなくて『何』のなんね。それに私は『ナン』じゃなく『チャパティー』派だから。よーし、うん、カレーに決まりだ!)


 なんてことを一人でうんうん唸りながら、しばらく歩いていると、向こう側からこちらに向かい、高そうなコートを着た、一人の中年男性が歩いてきた。

 その男性を見た瞬間、私は息をのんだ。何故なら、そのオジサマは物凄くダンディーで、まさにダンディーって言葉はこのオジサマの為にあるんじゃないかって思うくらいのダンディーさだったから。

 別に私は好みのタイプが、オジサマとかそういう訳じゃない。だから、そんな私の目を惹き付け、心を鷲掴みにしたオジサマはどんだけダンディーなのか分かってもらえると思う。

 私は思わず立ち止まり、そのオジサマを凝視した。すると、その視線に気付いたのか、一瞬オジサマは怪訝な表情を浮かべたが、すぐににこやかにこちらへと歩いてきた。


『どうかしましたか。お嬢さん。』


 っ!


 お、お嬢さん!今まで生きてきて、そんな呼ばれ方されたことなかった!しかも、声が物凄く渋い!ま、まさにダンディー!

 私はまさか話しかけられるとは思ってもいなかったので、若干、挙動不審になりながら適当に応えた。


「い、いえ、なんて言うか、えぇと、そのぅ、オジサマがわ、私が知る限り人類史上稀にみるダンディーさを備えていらっしゃったので、つい見取れてしまって…」


『えっ!人類史上?はははは、人類史上とはこれはまた大きくでましたね。ユニークな方だ。でも、貴女みたいな可愛らしいお嬢さんにダンディーと言われて光栄の極みですよ。』


 か、可愛らしいお嬢さん!

 ていうか、ダンディー過ぎるだろ!

 最早、この方はダンディーなオジサマではない!ダンディーダディー、そう、ダンディーダディーの称号を与えよう!


『そうだ、ここで出逢えたのも何かの縁でしょう。なので、可愛らしいお嬢さんに、ちょっと私の大事なモノを見ていただきたいんですよ。よろしいですか?』


 よろしいけれども、大事なものって何だろ?


 オジサマはそう言うと、いきなり勢いよくバッとコートの全面を捲った。


 っ!!!


 すわっ!露出狂か!!!


 そして、大事なものってそれか!!!


 と次の瞬間、オジサマは先ほどとは打って変わった抑揚のないまるで一昔前の宇宙人?みたいな声でこう言った。


 『ぬるぬるシマスカ?ソレトモぬめぬめシマスカ?』


 へ、変態だ!いや、大変だ!


 なんと、コートを捲って見せたオジサマの身体は、異様に細く、しかも、艶を抑えた銀色、いわゆる燻し銀で、まるでテレビで見たグレイ型の宇宙人そっくりだった。その上、何か薄緑の粘液みたいなものが、身体のあちこちから垂れている。ちなみに下の方をちらっと見たが、大事なモノは付いていない。



「キャー!!!」


 私は一応女子っぽく叫び、両手で顔を覆いしゃがみ込んだ。本当はそこまで驚いていないが、これでも花も恥じらう乙女なのだ。ふりだけでもしておかねば。


『エ?マヂですカ?マタデスカ。怖がらセテしまったノデスネ?ヤッパリ、オカシイデスネ。チ球ジン、コウスルト喜ブ聞いたノですが…』


 誰から聞いたかは知らないが、それは多分騙されたと思う。ていうか、『マタデスカ』ってことは、私の他にも被害者がいるのか。そんなことよりこの人は本当に宇宙人?

 顔を覆った指の隙間から、今度は穴の空くほどオジサマの身体を凝視する。

 うん、身体の燻し銀はボディーペインティングでも無ければ、全身タイツでも無い。多分、本物の皮膚だと思う。

 ちなみに私の年の離れた兄が特殊メイクの仕事をしており、幼い頃から色々見せてもらっているので、ちょっとやそっとどころか、ある程度手の込んだ特殊メイクでも、私は簡単に見破る事が出来るのだ。


『ゴメンナサイ、ゴめんなさイ、ごめんナサイ、ごメンナサい、スみまセン、すみません、スミマセン、スミマセン、わたシが悪いノデス。顔ヲアゲテ下さいナ。』


 私は言われたとおりに顔を上げ、何事もなかったかのように立ち上がった。そして、おもむろに元・ダンディーダディーことオジサマこと燻し銀グレイに思ったことをストレートに聞いてみる。


「ねぇ、あなたは本物の宇宙人?」


 すると、燻し銀グレイは


『サイザンス。ワタクシ、生まれモ育ちモ、パピポペパ星のキュルキュルでス。』


 結局よくわからなかったので、とりあえず宇宙人だと思うことにした。


「ふ~ん、で、サイザンスって何?」


『パピポペパ星ノ言葉で「そうです」トイウ意味でス』


 あとで「サイザンス」を調べてみると、思いっきり日本語の俗語で「そうです」って意味だった。あの燻し銀グレイの野郎め!まぁたまたま同じ意味だったかもしれないけど。


「ていうか、あなたの目的はなんなの?」


『地球人ト友好を深メ、良好な関係ヲ築き上ゲルノが目的でス。』


 私だから良かったものの、あの方法じゃ絶対無理だと思う。


『デモ、失敗シタのデ、マタ別な方法ヲ考えてやリ直しでス』


 やり直すのは勝手だけど、このやり方は二度としないでね。変態だから。


「それで、これからどうするの?」


『こレカラとは?』


「ほら、よくあるじゃん。さらったり、記憶を消したり。失敗したんだから、なおさら覚えている人間がいるとまずいんじゃないの?」


『記憶ヲ消しまス。』


 まさかとは思ったけど、さらりと言い放ちやがったよ。


『シカシ、その前ニあナたにお詫ビをしタイでス。ナノで宇宙ノナんカこう凄イパワーを使っテ、アナタの願イヲ一つ叶エマす。私ノ出来る範囲デデすガ。』


 おぉ、マジか!!!なんか、胡散臭いけど。まぁ、本当だったら儲けもん位に考えておくか。でも、願いねぇ。たいして無いしなぁ。う~ん、どうしようかなぁ。そうだ!


「よし!決まった。願いは、私の記憶を消さないで!」


 こんな妙ちきりんな体験めったに出来る訳じゃないしね。友達との話のネタにちょうどいい。


『エッ、ソレでいいンデスか?宇宙ノナんカこう凄イパワーを使えば、結構色々でキマすヨ。チートとカ剣と魔法の異世界とカ転生とカ理想の彼氏とカボンキュッボンとカ。』


 最後のは失礼だろ!ま、それは置いといて、とにかくだ、別に自分の現状に満足している訳ではない。むしろ不満だらけだ。だからといって、宇宙人にだろうが神様にだろうが、自分の都合の良いような状態にしてもらうのは違うと思う。なんか惨めだし、今よりもさらに負けた気がする。都合の良い世界で都合の良いように生きることほど、阿呆で寂しくつまらない事はない。山あり谷ありでこその人生だ。それに異世界なんか行かなくたってこの世界にはまだまだ知らないこと、場所、人等、様々な『知らない』がある。魔法なんかより、よっぽど魔法じみている科学や技術が沢山ある。それを知らずして、使わずして自ら進んで異世界なんか行けるかってんだ!

 たとえ向こうから与えられた理不尽な状況のお詫びだとしても私は破格な詫びは要らない。チートも異世界も転生も理想の彼氏もボンキュッボンも纏めて糞喰らえだ。

 まぁ対価に合うような詫びはもらうし、きっちりカタは付けさせてもらうけどね。


「うん、記憶が消されなければそれで良いや。」


『わかリマシた。でハ、アナタの願イ通り記憶を消さナイで置きまス。そレデはモう遭うこトも無いデスが、お元気デ。』


 そう言うと、燻し銀グレイはス~と風景に溶け込むように消えていった。


(おぉ、消えたよ!本当に宇宙人だったのか。あっでも、消えていったってことは、幽霊とか光学迷彩の線も捨てきれないよな。)


 そして、私は帰宅の途に付いた。もちろん途中で交番によるのも忘れない。ちなみに夕飯はカレーではなく、ビーフシチューにした。


 三日後、道を歩いていると二度と遭うことはないと言っていた、燻し銀グレイに遭遇してしまった。

 互いに心なしか恥ずかしさと気まずさで赤面した。

 私はぎこちなく軽く会釈をし、燻し銀グレイは慌てた様子でス~と消えていった。



――都市伝説・燻し銀のダンディーダディ――

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― 新着の感想 ―
[一言] 可笑しい。可笑し過ぎる。思わずお気に入り登録しちゃいました。
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