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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
8/153

ダルシア帝国の継承者

66.

 その少女は、どこからみても普通の少女のようにしか見えなかった。暗黒星雲の種族のような現れ方をしなければ、この要塞に居住している誰かの子供のようにも思える。

 ヘイダール要塞司令官ヤム・ディポックは、リドス連邦王国の第五王女、アズミ姫を見て、そう思った。


 先程とは打って変わって、すっかり大人しくなった男は、

「おまえ達は、いつもそうだ。いつも、突然現れる。せっかくいいところだったのに……」

と、歯軋りをして言った。

 アズミ姫は、

「それはお生憎さまね。どこかの誰かが、碌でもないことをしなければ、こんなところに現れることもないのだけれど……」

と、皮肉交じりに返した。

「あ、あの、お話中に悪いのですけれど、要塞はどうなりました?五の姫」

と、ルッツは確認した。

「それは、大丈夫。元に戻しておいたわ。一応、ね。それから、あなたに言っておくけど、ダルシアやゼノンとタレスの艦隊にも手出しはしないことね」

と、アズミ姫は男に警告した。

「ふん。やつらなど、どうなってもよいではないか。ここを占領しようとしていたのだぞ」

と、男は言った。

「未遂に終ったのだから、それについては不問に付すべきではなくて?」

「そうかな?リドスの姫は、お優しいことだな。劣等種族に対しては」

と、捨て台詞を残して、男は姿を消した。


 ディポックは気を取り直すと、要塞の位置の確認をさせた。

「元の位置に戻っています。どうしたのでしょうか?それとも、これまでのことは装置の故障なのでしょうか?」

と、担当の兵士が首を傾げて言った。

 これまで、位置を変える度に大きな揺れを感じていたのに、位置を変えるのに今回は少しの揺れも感じなかったからだ。

「で、ゼノン帝国とタレス連邦の艦隊は、どうなっている?」

と、ダズ・アルグが聞いた。ホッとしたので、外の艦隊のことを思い出したのだ。

「要塞の近くで停止しています。同じくダルシア帝国の艦隊も前と同じ位置にいます」

 それを聞いて、

「ゼノン帝国とタレス連邦の艦隊は、これから何をするかわかりません。アプシンクス、いえタリア・トンブン、あなたは艦隊の指揮ができますか?その準備ができていますか?」

と、アズミ姫は言った。

「わ、私は、艦隊の指揮など考えたこともありません」

と、タリアは正直に言った。

「そう。では、一つ、忠告をしておきましょう。ダルシア帝国の艦隊は、あなたが命じなければ、あなたの安全しか守りません」

「私の安全を守るだけなのですか?」

「そう。要塞に何があっても、あなたの安全を守ることしかしません。あなたが命じなければ、ゼノンとタレスの艦隊にも何もしないでしょう。ダルシア帝国の艦隊に命令することができるのは、あなたしかいないのです」

と、アズミ姫は注意した。


 ゼノン帝国艦隊司令長官ドールズ・ゴウン元帥は、ヘイダール要塞が再び現れたと報告を受けた。

「いったい何が起きたのでしょうか。あの暗黒星雲の種族の男は、こちらの意を汲むようなことを言っていましたが、何かしたのでしょうか?」

と、ヴィレンゲル少将が言った。

 ファールーレン・ディラは、嫌な予感が別の意味で当たったと感じていた。あの男は失敗したのだ。だが、ダルシア人さえ敵わなかった暗黒星雲の種族を退けたのは、何者なのだろうか?あの惑星連盟の各国政府の艦隊を移動させた魔法使いなのだろうか?

 しかしディラは、ガンダルフの魔法使いが暗黒星雲の種族を退けたという話は聞いたことがなかった。かの種族の力はガンダルフの魔法使いの力を超えているというのがゼノン帝国だけでなく、ジル星団の魔法使いや魔術師たちの間での一致した見解である。たとえ、ガンダルフの五大魔法使いがいたとしても同じことだ。

 だとしたら、どうやってあの男を退けたのだろうか。もしかしたら、かの種族のいつもの気紛れが出たのかもしれない。それしか、考えられないではないか、とディラは思った。

「ダルシア帝国の艦隊はどうなっている?」

と、元帥は尋ねた。

「要塞の周囲に展開していますが、動きはありません」

と、担当の仕官は言った。

「で、タレス連邦の艦隊は?」

「こちらも前と同じ位置にいます」

 ダルシア帝国の艦隊がどう動くのかわからないのが、ゼノン側にとってはまことに不気味だった。

「ダルシア帝国の艦隊は何をするつもりなのでしょうか?」

と、ヴィレンゲル少将は言った。

「もうダルシア人はいないというのに、なぜここへ来たのだろうか……」

 ゴウン元帥にもわからなかった。

 ダルシア帝国の艦隊はダルシア人にしか動かせない。それは長年対立し、戦ってきたゼノン帝国の得たデータから分かっていることだ。そして今、ヘイダール要塞には本物のダルシア人はいないはずなのだ。

「閣下、確か今回のダルシア帝国の継承者として名が挙がっているのは、ダルシア人ではなくても、ダルシア帝国に籍のある者がいると、あの暗黒星雲の男が言っておりませんでしたか?」

と、ディラは言った。

「だが、我々の方の候補者にはダルシアの形質を遺伝している者たちがいる。その者達を守りに来たのやもしれぬではないか」

と、ゴウン元帥は言った。

「それならば、我々に攻撃することはないでしょうが、それが確かとは言えますまい」

と、ヴィレンゲルは苦々しげに言った。

 ダルシア帝国の艦隊の威力は、戦ったことのあるゼノン帝国では充分知られていた。小競り合いはあったものの、正式な戦闘はここ数百年はなかったが、昔の資料は残っている。

「今、ダルシア帝国の艦隊がどう動くかわかりませんが、タレス連邦の艦隊もいます。今がチャンスなのではないでしょうか?」

と、ヴィレンゲルは言った。

「タレス連邦の艦隊など、ダルシア帝国の艦隊の敵ではないぞ」

と、ゴウン元帥は言った。

「確かにそうでしょう。ですが、奴らを上手く使えば、我々に有利に運ぶこともできるのでは?」

と、ヴィレンゲルは言った。

「何か案があるのか?」

「ここに至っては、恐らくあの暗黒星雲の種族の男は、目的を果たさなかったと、失敗したと考えるべきです。ただあのヘイダール要塞はダルシア人の作ったものではありません。ロル星団の科学技術はどの程度であるか、我々の調査済みです。おそらく、あの要塞の防御能力は我々の艦隊の攻撃を退けることはできないでしょう。まして、今現在、要塞のもつ艦隊は未だ要塞の中にいます。とすれば、ダルシア帝国の艦隊が何もしないと仮定すれば、わが艦隊で充分要塞を攻略できると考えます」

と、ヴィレンゲルは自信ありげに言った。

 ヴィレンゲルには勝算があった。惑星連盟諸国にはまだ知られていない新兵器がこの艦隊には装備されている。強力な攻撃のみを主とする艦だ。それを使えば、ヘイダール要塞を攻略することができるはずだった。

 ただドールズ・ゴウン元帥には、ダルシア帝国の艦隊が動かないという不確かな前提での作戦はあまり取りたくはなかった。

「あのダルシア帝国の艦隊が絶対に動かぬという保証が欲しいものだ」

「それでは、要塞にいる我々の政府代表をダルシア帝国の継承者候補ともどもこちらの艦隊に戻せばよいのではありませんか?」

と、ディラが言った。

「いや、それだけでは不十分だ。あの暗黒星雲の男の言っていたダルシア帝国籍のタリア・トンブンとかいう者をなんとかこちらに来させる必要がある」

と、ゴウン元帥は言った。

「そのタリア・トンブンについては、私めにお任せください」

と、ディラは言った。

 リドス連邦王国の魔法使いについても懸念はあるのだが、あの惑星連盟の艦隊をすべて移動させてからそれほど時間が経っては居ない。あれほどの力を使ったあとで、ゼノンやタレスの宇宙艦隊とやりあう余力が残っているとは、ディラにはとうてい考えられなかった。


67.

 元の位置に戻ったヘイダール要塞では、惑星連盟の審判が再開され、その結果が言い渡されようとしていた。

「これまで、ダルシア帝国の継承者の候補となる者たちの話を聞いてきました。ですが、ダルシア帝国の継承者は一人とするようにコア大使より言い付かっております」

と言って、惑星連盟の議長であるナンヴァル連邦のマグ・デレン・シャは、審判の間にいるジル星団の各政府代表者を見回した。

 ジル星団の各国政府代表のほかに、議長から少し離れた席にヘイダール要塞のヤム・ディポック司令官が座っていた。

 審判の間の席にはいないが、アズミ姫はまだヘイダール要塞にいた。これからまだ何が起きるか分からないので、審判が終るまでの間マグ・デレン・シャが要塞に留まるように要請したのだった。


「それでは私の決定を伝えます。ダルシア帝国の継承者は、タリア・トンブンとします」

と、マグ・デレン・シャは言った。

 ざわざわと一般席の間から呟きが漏れた。

「これが惑星連盟議長である私の決定です。そして、これはコア大使の意志でもあります。他の者の継承は認めません」

と、念を押すように会場を見渡して言った。

「それでは、これで審判を終了します」

 マグ・デレン・シャはナンヴァル連邦の提督を従えて、その場を去った。

 他の惑星連盟の政府代表達は、それぞれの席にまだいた。今回の結果に不満を持っている者たちがいるのは確かだった。しかしその不満を公けに示すことを抑制していただけなのだ。

 審判の結果を歓迎するジル星団の古い国の代表達は席を立って、タリア・トンブンの居るところにやってきた。

「ダルシア帝国の継承者よ。これから我々と共に、ジル星団や惑星連盟のために尽くしてほしい」

と、ハイレン連邦の代表が言った。

「ええと、あのできるだけ、そのように努力するつもりです」

と、タリア・トンブンは固くなって言った。まだ、ダルシア帝国の代表としての自覚はなかった。ダルシア帝国を継承したということすら、信じられないことであったのだ。

「アプシンクスよ。別に特別な事をする必要はない。我々も、あなたとの協力を惜しまない積りだ」

と、デルフォ共和国の代表が言った。

「ありがとう、ございます。でも、私はアプシンクスではなくて、タリア・トンブンです」

と、訂正するのをタリアは忘れなかった。

 タリアには、アプシンクスとしての記憶はほとんどないのだ。だから、アプシンクスと呼びかけられても困る。

「まあ、少しずつ、記憶が戻ってくるだろう。今はまだだけれどね」

と、バルザス提督が言った。

 バルザス提督には、タリアの困惑が理解できた。

 タリアの場合は、今世の記憶がまだ大部分なのだ。やがて少しずつかつての記憶や力が蘇ってくるにしても、時間がかかるものだった。

 バルザスの場合は、元々銀の月という魔法使いだったので、記憶も力もスムーズに蘇ってきたのだが、それでもそれを受け入れることが簡単だったわけではない。ただ、銀の月が生まれる前の記憶を取り戻すのは、今回初めてではなく、これまで何度と無く繰り返してきたことなのだ。

 ガンダルフの魔法使いすべてではないにしても、ある約束の下にある魔法使いは、生まれ変わる度にかつての記憶を取り戻すのだった。それは、何代にも渡って繰り返されてきたことだった。それによって自身の魔法の知識や技術や力そのものに磨きをかけるのである。

 少なくとも、ガンダルフの五大魔法使いと呼ばれる者たちはみなそうして強力な魔法使いとなったのだ。

「でも、アプシンクスとしての記憶が戻っても、私はタリア・トンブンだわ」

と、タリアは言った。

「もちろんそうさ。君はガンダルフの魔法使いじゃないのだからね」

と、バルザスは言った。

「でも、どうしてなの?私がダルシア帝国の継承者となったから?」

「それもあるが、コア大使が死んだからだろう。それがスイッチだったんだ」

「そうなのかしら?コア大使に一度聞いてみたかった」

「そうだね。いずれ、それもできるんじゃないかな……」

「それは、どういうことなの?」

 それ以上、バルザス――銀の月は言わなかった。

 バルザス自身は、銀河帝国の軍人としての意識や記憶はあるにも関わらず、それとは何の関係もない、魔法使い『銀の月』としての意識や記憶がそれを押しのけて出てくる。初めは戸惑いながらも、やがては魔法使い『銀の月』としての意識や記憶が大部分になり、銀河帝国の軍人としてのベルンハルト・バルザスの意識と記憶がその一部分となるのは、何とも頼りない気分だった。

 本来なら、ベルンハルト・バルザスとしての意識と記憶は時間が経つに連れて、ほんの僅かな痕跡として存在するしかなくなるのだが、まだそうはなっていなかった。なぜなら、銀河帝国にはまだバルザスの親・兄弟が存在していたからである。肉親の縁というのは、ベルンハルト・バルザスとしての意識を存在させるかなり強力な力だといえた。


 ヤム・ディポック司令官は、要塞司令室に戻ると、

「ゼノン帝国とタレス連邦の艦隊に、審判が終了したと伝えてくれ」

と、通信仕官に命じた。

 ダルシア帝国の遺産の継承者を決める審判が終るまでは、何人もヘイダール要塞に出入りは許さないと、惑星連盟の議長であるマグ・デレン・シャの宣言があったが、終了したので、それを伝達したまでである。

 これによって、ゼノン帝国とタレス連邦がどう動くかはわからなかった。

 これから惑星連盟の各国政府代表がそれぞれの国に戻るために、一旦移動させた艦隊を呼び戻す必要がある。それがすべて終るのはいつになるのだろう、とディポックはため息をついた。

「ゼノン帝国艦隊から通信です」

と、通信員が報告した。

「わかった。チャンネルを開けてくれ」

と、ディポックは言った。

「私は、ドールズ・ゴウン元帥である。審判が終ったと聞いた。今この宙域にいるのは、ゼノン帝国ではわが艦隊だけだ。したがって、政府代表を迎えにそちらに行きたいのだが、要塞に入る許可がほしい」

「今、現在は一隻だけ、要塞にゼノン帝国の艦がいます。それで、政府代表をそちらへ行かせましょう」

と、ディポックは言った。

 ゼノン帝国やタレス連邦の艦を必要以上に要塞に入れるのは、できるだけ避けたかった。

「わが政府代表を一隻だけに乗せ、守らせるわけにはいかない」

と、ドールズ・ゴウン元帥は言った。

「ほんの僅かな距離です。他の政府代表にも、同じようにしてもらう積りです。それで、納得していただきたい」

と、ディポックは言った。

「わがゼノン帝国は、ジル星団でも由緒ある広大な宙域を支配する帝国である。そのような扱いは無礼であろう」

と、ゴウン元帥は言った。

「私は、ゼノン帝国よりももっと広大な宙域を支配する政府に対しても、同じようにする積りです」

「今、この宙域にいるのは、我がゼノン帝国艦隊と、タレス連邦の艦隊である。それだけで、そちらの要塞など粉砕することなど容易いことだ」

「おや?確か他に、ダルシア帝国の艦隊がいるのではありませんか?ダルシア帝国の艦隊はどうするのです?」

「ふん。ダルシア帝国の艦隊など恐れるに足らず。第一、指揮するものなど居らぬではないか。ダルシア帝国の継承者が決まったとはいえ、その者が艦隊の指揮を取れるのか?」

「さあ、どうでしょうか?やってみなければわかりませんが……」

「やってみなければわからないなどというような、あやふやなことを言うのは、軍人の風上にも置けぬやつだ。そんなことよりも、ヘイダール要塞自体の防御が我が艦隊の攻撃に対してもつと思うのか?」

と、ゴウン元帥は恫喝した。

「そうですね。でも、やっぱり、やってみなければわかりませんよ」

と、ディポックは言った。


 リドス連邦王国のバルザス提督は、ため息をついた。

「どうしたの?」

と、それに気が付いてルッツ提督が聞いた。

「いや、さっそくゼノン帝国の連中が難癖を付け始めたのでね」

 バルザス提督をはじめ、リドス連邦王国の代表たちは、審判が終ったので宿舎へ戻っていた。アリュセア・ジーンも子供達と一緒にいた。

「あのゼノン帝国というのは、ジル星団でもかなり大きな国ではないのか?」

と、ルッツの副官ナル・クルム少佐が聞いた。

「確かに、ジル星団では領土としてはダルシア帝国に次ぐ大きさです。もっとも、かなりの嫌われ者でもありますがね……」

「例の、異星人を食料にするということか?」

「それだけではありません。どうも、力を誇示することを好む傾向があります。その軍事力に任せて横紙破りをするのです。その上、自分達がすることが正しいと思い込むところもあります」

「つまり、本当の正義とはならない、ということか?」

「ゼノン帝国にとっては力が正義なのです。弱いということは、正義を追求できないということです」

「弱い者には、正義がないということね」

と、ルッツが言った。彼女の属する銀河でもそうだった。

「だから、ダルシア帝国とナンヴァル連邦が五百年まえに惑星連盟を作ったのです。ジル星団の力の弱い種族を守るために、秩序を守るのがその使命なのです。それは確かにこれまで機能してきました」

「今回の審判も、同じ理由によるのだな」

「問題は、惑星連盟の中枢ともいうべき、ダルシア帝国とナンヴァル連邦の一角が崩れたということなのです」

「だが、リドス連邦王国がいるではないか」

「暗黒星雲の種族を追い払うには充分なのですが、いかんせんジル星団でリドス連邦王国の全貌を知る国はダルシア帝国しかなかったのです。他に国にとっては、リドス連邦王国は他の星間王国と同じにしか見えては居ません」

「しかし、ジル星団の古い種族の中には、理解しているものもいるのではないか?」

「居るかもしれませんが、彼らはダルシア人と同じく、滅びていく種族でもあるのです」

「それならば、ゼノン帝国の艦隊でも、一蹴してやればよいのではないか?」

「それは、ゼノン帝国とリドス連邦王国との紛争ということになりますね」

「だが、艦隊戦でもあれば、リドス連邦王国の強さはわかるではないか」

「しかし、そんなことをすれば、ゼノン帝国の艦船が減ってしまいます。今、そのようなことをするのはわれわれはあまり望みません」

「それは、他に強力な敵がいるとでもいうことだろうか?」

「さあ、それはどうでしょうか」

と、バルザス提督は曖昧に言った。


68.

 リドス連邦王国第五王女、アズミ姫はヘイダール要塞の司令室にいた。

 要塞司令官であるディポックが司令室に戻って、要塞の周囲にいる艦隊であるゼノンとタレスとダルシアの艦隊に、ダルシア帝国の継承者の審判が終了したことを告げ、ゼノン帝国のゴウン元帥と揉めているのをじっと見ていた。そして、ゼノンの艦隊と通信が一旦切れたときに、

「ディポック司令官。審判が終了したということでしたら、私はもう行きます。これをタリア・トンブンに渡してもらえますか?」

と、言って、ディポックに水晶のペンダントを渡した。

「これは、何です?」

と、ディポックは聞いた。

「これはダルシア艦隊との通信用に使うものです。タリアは、まだダルシア艦隊との連絡はなれてはいないようですから……」

と言うと、一瞬でアズミ姫は姿を消した。

 ディポックは瞬きをして、アズミ姫の消えた空間を見つめていた。もう少しここにいて欲しかったと思わずにいられなかった。

「あの、司令官、そのペンダント、どうします?」

と、副官のリーリアン・ブレイス少佐が言った。

「ああ、そうだね。タリア・トンブンを呼んでくれないか」


 その時、ゼノン帝国の艦隊が何の前触れもなく、ヘイダール要塞に接近してきた。

「閣下。ゼノン帝国の艦隊が、許可なく要塞の防御圏内に入ります」

と、レーダー担当の兵士が言った。

「ゼノンの旗艦を呼び出してくれ」

と、ディポックは命じた。

「ヘイダール要塞司令官ディポックです。あなた方の艦隊は要塞の攻撃圏内に入っています。そのままでいるなら、攻撃します」

と、ディポックは警告した。

 すると、しばらくして、

「申し訳ない、艦隊の機器の具合がおかしくなったのだ。もちろんすぐに出て行く。少し時間を貰いたい」

と、前とは打って変わって、ゼノン帝国の艦隊司令官であるドールズ・ゴウン元帥が下でに出て言った。

 ゼノン帝国の艦隊は、それでもしばらくそこを動かなかった。

「連中は要塞内部の者たちと、何か連絡をとっているのではないか?」

と、フェリスグレイブ要塞防御指揮官が言った。

「いえ、艦隊と要塞内部との交信は探知できません」

「いや、待てよ。司令官、まさかまた魔法を使っているのでは?」

と、ダズ・アルグが指摘した。

 司令室の者たちは顔を見合わせた。相手がこれまでの銀河帝国の連中とは違うということを、すぐ忘れてしまうのだ。

「銀の月、いやバルザス提督を呼んでくれ」

と、ディポックはすぐに言った。

 魔法となると、要塞の兵士では手に負えないのはこれまでの体験で分かっていた。

 リドス連邦王国はどのような国なのか。ディポックがナンヴァル連邦のマグ・デレン・シャに聞いたところでは、ゼノン帝国のような国とは違うように思えた。だからといって頼るわけではないが、こと魔法に関しては、ロル星団の者には何の予備知識もないのが実情だった。

 元銀河帝国のベルンハルト・バルザス提督が、ジル星団のリドス連邦王国のガンダルフという惑星の銀の月という古くかつ強力な魔法使いだということは、ヘイダール要塞の者にとってはまだ理解しがたい事象であった。だとしても、要塞を危険から守る必要があるのだ。

 要塞にはまだ惑星連盟の各国代表が滞在しているからだ。


69.

 タリア・トンブンは、自室に戻って休んでいた。

 色々なことが突然起きたので、混乱して疲れている自分がわかっており、タリアはただ休みたかった。

 独身者用のその部屋は、元は要塞に駐留する一般兵士の宿舎として使われていたという。寝室に簡単なキッチンとトイレ、狭いバスルームがあるコンパクトな部屋だった。とはいえ、これまで逃亡生活をしていて、自分の部屋などもったことのないタリアにとっては、こんな部屋でも贅沢に思えた。

 寝室の寝台に横になると、なんだかふわふわしすぎて眠れなかった。そこで、カーペットの敷いてある床に横になることにした。


 ゼノン帝国艦隊は要塞の探知装置に引っかかると分かっていても、ギリギリまで要塞に近づいていた。要塞からは通信で接近しすぎを警告してきたのを、ゴウン元帥が上手く誤魔化していた。

「これが限度だろう。ディラ、このあたりで大丈夫か?」

と、ヴィレンゲル少将が聞いた。

「やってみます」

と、ディラは言った。

 ゼノン帝国の魔術師の中でも宮廷魔術師は、かなり強力な魔術を使えなければなれない。だが、それでも宇宙空間で魔術を使うことはかなり緊張するものだった

 もともと魔術や魔法は、どこでもそうだが、惑星上で使うことを前提としている。従って宇宙で使うには、かなりのパワーと技術を必要とするのだ。

 ディラは集中すると、ゼノン帝国の言語で編まれた移動の呪文を唱えた。一度、二度と、額から汗が流れるのを感じていた。だが、やがてディラの身体はゼノン帝国の旗艦からいなくなった。

 ヴィレンゲル少将はうなずくと、

「すぐに要塞から離れるんだ」

と、旗艦の航法仕官に命じた。


 ディラは、ヘイダール要塞の中にいるゼノン帝国の政府代表であるボルドレイ・ガウンの顔を思い浮かべていた。移動の呪文を使う場合は、知った場所を思い浮かべるのが一番簡単なのだった。しかしヘイダール要塞内部についての情報は無かった。その上ダルシア帝国の継承者となったタリア・トンブンについては、突然のことで彼女の情報ファイルはなく、顔などの情報もなかったので、イメージを固めやすい知り合いの顔を浮かべたのだ。

 ボルドレイ・ガウンはゼノン帝国の宮廷で、ディラが何度か顔を合わせたことがあったのだ。


 ボルドレイ・ガウンは惑星連盟の各国政府代表たちに割り当てられている部屋の一つにいた。

 高級将官用の宿舎で、部屋数も多く、彼が連れてきた従者たちにもそれぞれ部屋を与えることができた。大使である彼は、その一番大きな部屋で休んでいた。

 ガウンは要塞が大きく揺れたりしたのを不安に思っていたが、どうやらそれも落ち着いたようだった。要塞の司令部から要塞の揺れについては心配することがないという連絡を先程受け、ほっとしていた。

 とはいえ、暗黒星雲の種族がこれでどこかへ去ったと考えるには、まだ速すぎた。あの連中はどこにいるかわからないし、いつでも突然現れるのだ。

 そう思っているボルドレイ・ガウンの目の前で、なにやら空気が揺らめくのに気づいた。

「な、なんだ、誰だ!」

と、恐怖におののきながらガウンは誰何した。ガウンの脳裏にはあの暗黒星雲の種族の男の姿があった。

 揺らめきはやがてガウンの見たことのある衣装に落ち着いた。それが、ゼノンの宮廷魔術師ファールーレン・ディラであることがわかったのは、全身の姿が出現してからだった。

「なんだ、ディラではないか。どうやってきたのだ?」

と、ガウンはこれまでの恐怖心をなんとか押し隠して言った。

「これは、ボルドレイ・ガウン閣下。お久しぶりにございます」

と、ファールーレン・ディラは笑みを浮かべて悠然と挨拶した。

「まさか、おまえ、艦隊からここへ魔法で移動してきたのか?」

と、ガウンは言った。

「はい」

と、短くディラは答えた。

 艦隊と要塞の間の距離は、普通の魔術師ではとても渡れないほど離れている。それを可能にしたディラの魔術を賛嘆して、

「さすが、宮廷魔術師として一流と言われる者だけあるな。それで、何の用なのだ?」

と、ガウンは聞いた。

「閣下。ダルシア帝国の継承者を決める審判は終ったそうでございますね」

「そうだ。残念だが、我々の候補者には決まらなかった。どこの馬の骨ともわからぬ、タリア・トンブンとかいうタレス人に決まったのだ」

と、悔しそうにガウンは言った。

「その、タリア・トンブンがどこにいるか、閣下はご存知でしょうか」

「何?何をするつもりだ?」

「まだすべて終ったわけではないと、ドールズ・ゴウン元帥閣下はお考えなのです。まだチャンスはあります」

「それで、何をするというのだ?」

「もちろん、最後にはダルシア帝国の遺産を我がゼノンのものとするおつもりなのです。そのためには、継承者と決まったタリア・トンブンの居場所を知らなければなりません」

「なるほど。あの者はまだ要塞にいるはず。だが、どこにいるとまではわからぬな」

と、ガウンは言った。


 ディポック司令官は、胸騒ぎがしきりにするのを感じていた。

「タリアを呼びに行った連中は、まだかな?」

と、ディポックは珍しく口に出した。

「リブレ中尉と兵士を四人呼びに出しました。もう少しかかると思いますが……」

と、ブレイス少佐が言った。

 現在は要塞の中に惑星連盟のさまざまな国の代表たちがいるので、どんな間違いが起きるかわからない。だから警護の意味もあって、仕官と兵士を出したのだった。

 もしかしたら、またあの暗黒星雲の種族とかいう男が現れて何かしたのではないかと思うと、気が気ではない。

「バルザス提督はどうしたろう」

「先程、すぐ来ると言っていましたが……」

「魔法で移動してもらったほうがよかったんじゃないですか?」

と、ダズ・アルグが言った。

「まさか、そんなことを要求できないだろう」

 よほど緊急のことでもない限り、バルザス提督も魔法での移動はしないだろうとディポックは思った。

「我々の中にも魔法使いが必要ですな」

と、フェリスグレイブが言った。

「それは、どうだろうね。魔法使いなんて、そんな簡単になれないだろう。我々の文化には魔法使いなんていなかったのだから」

と、ディポックは言った。

「だから、ジル星団で探すんですよ。魔法使いを」

と、ダズ・アルグが言った。

 ダズ・アルグは、銀河帝国には魔法使いなんていないのだから、もしかしたら有力な戦力になるかもしれないと考えたのだ。何しろ要塞は銀河帝国に比べて、艦艇があまりに少ない。多く見積もっても5分の1くらいなのだ。慢性的に戦力不足である。

 ディポックは魔法使いがどんなものかまだ正確には掴めていないので、そこまで考えてはいなかった。

「でも、司令官にも力があると言っていましたね」

と、ダズ・アルグは言った。

「魔力とは言ってなかったな」

と、フェリスブレイグが言った。

「確かに魔力ではないけれど、かなりの力があると言っていました」

と、ブレイス少佐が言った。

「よしてくれ。私は、たとえそんな力があったとしても、全然使えないのだから」

 ディポックは、冗談でも魔力やそれに類する力があるなどということは考えたくもなかった。そうした力はどこか間違っているという気がするのだ。


 ディラはボルドレイ・ガウンと要塞の廊下を歩いていた。タリア・トンブンのいる部屋を探し当てるつもりなのだ。

 タリアを捕まえ、ボルドレイ・ガウンと共に、要塞に駐機している艦でゼノン帝国艦隊に戻れば、ダルシア帝国の遺産はゼノン帝国のものとなる。タレス連邦のTPであるタリア・トンブンなどというどこの馬の骨とも知れぬ女など、ゼノンの宮廷魔術師の敵ではあるまいとディラは考えていた。

 この作戦を成功させなければ、ゼノン艦隊がこの要塞を落とすことはできない。そのためには是が非でも、タリアをモノにして、ダルシア艦隊を無力化しなければならない。成功できれば、ディラは宮廷魔術師として次の地位に昇ることができるのだ。


 この時、バルザス提督は廊下をタリアの部屋に向かっていた。

 すでに、彼の魔力で構築された探知網は、ゼノンの魔術師が要塞に魔法で移動したのを探知していたのだ。

 それとは別に、バルザスの居る宿舎で子供たちと話していたアリュセアが、

「ディラント、誰か来たみたいよ。ええと、ゼノン帝国の女魔術師だわ」

と、言った。

 すでに、要塞に誰かが入ったと気づいたバルザスは、

「女魔術師?」

と、聞き返した。彼の魔法では魔術師の性別まではわからない。

「ええ。そう、コア大使が言っていたから」

と、アリュセアが言った。

「君はコア大使が見えるんだね」

と、バルザスは聞いた。

 バルザス自身はコア大使をいつでも見られるわけではなかった。おそらく、暗黒星雲の種族に気づかれるのを警戒して、アリュセアの方に姿を見せるのかもしれない。

「ええ。どうしてなのかしらね。タリアには見えないようだけれど……」

「タリアはすぐには、元の力を発揮できないからだと思う」

「元の力?アプシンクスのときの力が戻るには時間がかかるということなの?」

「そうだ」

「でも、なぜ、私にコア大使が見えるのかしら?」

「それは、君が、コア大使と縁が、浅からぬ縁があるからだろう」

「縁?」

 不思議そうにアリュセアは言った。かつて彼女はコアにあったことがあるという記憶を取り戻したが、コアと浅からぬ縁があるなどという、そんな記憶はなかった。

 その後、要塞司令部から呼び出しがあったが、タリアの部屋に寄っていくと言い残してしてバルザスが出て行った事を伝えた。


 バルザスはこの要塞には銀河帝国の時分に何度か来たことがあり、大体の構造を知っているので迷うことは無かった。

 バルザスは慎重に移動していた。ゼノンの女魔術師とは会った事がないが、見ればわかるのだ。魔法使いは魔法を持った者を感知できる。

 要塞の廊下には要塞に属している元新世紀共和国の兵士や仕官が行き来していた。他に民間人も居るはずだった。この要塞が銀河帝国のものだったときには、かなりの数の民間人がいたものだ。要塞自体が一つの都市になっているのだ。その頃よりはだいぶ人口が減ったようだが、それでも、軍人と民間人を合わせて百万人はいると聞いていた。


70.

 要塞司令部から派遣されたリブレ中尉とその部下の四人は、他の者よりも急ぎ足で歩いていた。

 ゼノンの魔術師ディラは、他の連中よりも急いでいる一団を見つけ、吸い寄せられるように近づいていった。そして、自分からぶつかると、

「あ、すみません」

と、謝って、相手を見た。そしてにっこりと笑うと、相手の目を自分に釘付けにした。

 これはゼノンの女魔術師の使う、本来は禁じ手の魔術だった。ゼノンに伝わる呪文を使わない非常に初歩的で効果的な魔術である。

「ど、どうも。我々も急いでいたので」

と、リブレ中尉は言った。

「いいえ、悪いのは私です。でも、どちらに急いでいたのですか?」

「いや、タリア・トンブンを司令部に連れて行くように命じられているのだ」

と、リブレ中尉は命令されたことをペラペラと答えた。

 リブレ中尉の目がディラに釘付けになっている間、ディラの言葉に抗うことはできない。

「丁度よかった。タレス連邦の人たちの居るところへ、私も行く用事があります。ご一緒させていただけますか?何しろ要塞の中は不案内で、今も迷っていたのです」

「それでは、我々と一緒に来るといい」

と、リブレ中尉は当然のように言うと、部下についてくるように合図した。

 ボルドレイ・ガウンはそれを少し離れたところで見ていた。


 同じ光景を、バルザスは人ごみの中から見ていた。

 リブレ中尉と四人の兵士がディラを連れてタレス連邦の亡命者の居る宿舎の方へ急ぎ足で移動して行った後、バルザスはボルドレイ・ガウンが自分の宿舎に戻るのを見届けた。そして時間を稼ぐために、先にタリアの部屋の扉が簡単には開かないように魔法をかけた。その後、タリアの部屋への中へ、魔法を使って移動した。

 タリアの部屋には入ったことはないが、間取りはだいたい分かっていた。バルザスも一仕官だった頃、要塞に来たことがあるのだ。

 バルザスは寝室に直接移動すると、寝台を見た。暗い部屋でも常夜灯が足元にあるので、うっすらと見えたが、寝台にはタリアはいなかった。

 首を傾げてバルザスは部屋の中を歩いた。

「いたっ……」

 何かにぶつかったと思うと、声がした。

「タリア、こんなところで何をしているんだ?」

「誰なの?」

と、タリアは言った。バルザスがぶつかった拍子に目が覚めたのだ。だが、暗くて誰がいるのかわからなかった。

「私だ。銀の月だ」

「独身の女性の部屋に何をしに来たの?」

「これからゼノンの魔術師がやってくるんだ」

「何ですって?」

 その時、部屋のインターホンが鳴った。

「来た!」

「ちょっと、どうすればいいの?」

「しっ。ここでじっとしていてくれ」

 銀の月は、慎重に魔法の呪文をいくつか唱えた。


 タリア・トンブンの部屋の前で、リブレ中尉は止まると、インターホンを鳴らした。彼の傍にディラがいるが、そのことにリブレ中尉は全然気づいていないようだった。

「いないようだな」

と、何度か試した後、リブレ中尉は言った。

「何処へ行ったのでしょうか」

と、部下の一人が言った。

「他の連中に聞いてみましょう」

と、部下が言うと、

「そうだな。そうしよう」

と言って、リブレ中尉はタリアの部屋から離れていった。まるでディラがいることなど初めから気がついていないようだった。

 ディラはリブレ中尉から離れてタリアの部屋の前に残った。ディラは部屋の中に人がいるのを感じていた。廊下からリブレ中尉たちがいなくなるのを待って、口の中で呪文を唱えた。

 最初の呪文では、扉は開かなかった。銀の月が、扉が簡単には開かないように魔法をかけていたのだ。

 イライラしながらディラは何度か呪文を唱えた。すると、何度目かにタリアの部屋の扉が開いた。そして、するりと中へ入ると、扉を閉めた。そして、暗い部屋の中で目がなれるのを待った。

 部屋の中に寝台が置いてあり、そこにタリアが休んでいるようだった。

 ディラは、呪文を唱えると、寝台に寝ていたタリアがむくりと起き上がった。

「いい子ね。服を着たままというのは、行儀が悪いけれど、この際都合がいいわ」

と含み笑いをすると、タリアを連れて、部屋を出て行った。


 一部始終を寝台の横で小さくなって聞いていたタリアは、

「いったい何をしたの?」

と、バルザスに聞いた。

「ちょっと、幻を見せたのさ」

「幻?」

「君が寝台に横になっているという幻をね」

「でも、あの女、誰かを連れて行ったのでしょう?」

「まあね。幻の君を本物と思って、連れて行ったと思っているのさ」

「で、でもいつかは気がつくでしょう?」

「もちろんさ。でも、しばらくは気づかない。さあ、行くよ」

「ど、どこへ?」

「要塞司令室さ。君にとっては、今はあそこが一番安全なんだ」


 ディポックはタリアが来るのを待っていた。

「司令官、ゼノン帝国の政府代表のボルドレイ・ガウン閣下から、話があるそうです」

と、ブレイス少佐が言った。

 要塞内の通信装置で連絡してきたのだった。

「何か話があるそうですが、何でしょう」

と、ディポックは聞いた。

「外に我が国の艦隊が来ていると聞いた。審判が終ったので、私が乗ってきた艦で要塞から出て行こうと考えている」

と、穏やかにボルドレイ・ガウンは言った。

「わかりました。そういうことでしたら、そちらの艦の準備ができしだい、出航して結構です」

「では、いいのだな」

「了解しました」

とディポックが言うと、目の前にタリア・トンブンとバルザス提督が現れた。

 魔法陣も出ないのに、突然何もない空間に現れたので要塞司令室の者たちはみな驚いていた。

「わ!ど、どうしたんです?」

と、驚いてディポックが聞いた。

「その前に、今話していたのは、誰ですか?」

と、バルザスが聞いた。

「今のは、ゼノン帝国の政府代表のボルドレイ・ガウンですが……」

と、ディポックはゼノンの政府代表たちが要塞を出て行く許可を求めたことを話した。

「なるほど。それで、すぐに要塞を出て行くといっていたのですね」

「そうですが、それが何か?」

 バルザスはゼノンの女魔術師とボルドレイ・ガウンがタリアを攫おうと企んだことを話した。

「それで、タリアは大丈夫だったのはわかりました。じゃ、ゼノンの連中は失敗したので早く逃げようとしているのでしょうか?」

と、ディポックは聞いた。

「いえ、彼らには幻覚を見せています。タリアを上手く捕まえたと思っているのです。それで、急いで要塞を出ようとしているのです」

と、バルザスは言った。

「それは、魔法を使ったのですか?」

「まあ、そうです」

「銀の月の魔法は、色々なことができるようだ」

と、ダズ・アルグが言った。

「銀の月だからできたのよ。他の魔法使いじゃ、そうはいかないわ」

と、タリアが言った。

「しかし、ゼノンの魔術師でも、外の艦から要塞の中へ移動できる魔術師がいるとは、凄い力があるのですね」

「そう数はいないと思いますが、ゼノンにはそうした力を持った魔術師が他にもいるはずです。他の国にも少しはいます。宇宙航行ができるようになって、力の強い魔術師や魔法使いが必要とされるようになったからです」

「でも、ガンダルフにはもっと沢山いるのでしょう?」

と、タリアが聞いた。

「それは、どうかな」

と、曖昧にバルザスは言った。

 ガンダルフにおいても、宇宙で魔法が使えるような魔法使いは数少ない。ゼノンよりも数は多いかもしれないが、それほどいるわけではなかった。

 銀の月は、一応宇宙で魔法を使える魔法使いの一人だった。彼の得意とするところは、様々なジル星団の種族の呪文に通じ、古代から伝わる多様な呪文を使えることと、特に霊的なものを感知し、見たり聞いたりできることだった。そして、今回使ったのは相手に幻覚を見せる魔法だった。

 この魔法は一人だけに幻覚を見せるのではなく、相手の仲間にまで幻覚を見る影響を及ぼせることだった。だから、幻覚だと気づくことが難しい。だがそれを使うにはかなり慎重に呪文を構築する必要がある魔法のため、使用には少々時間が掛かるのが難だった。


 ヘイダール要塞に駐機していたゼノン帝国の艦が、発進許可を求めてきた。

「司令官。ゼノン帝国の艦から発進の許可を求めてきました」

と、通信仕官が言った。

「わかった。バルザス提督、このままゼノンの艦を行かせていいのですね」

と、ディポックは聞いた。

「そうしてください」

と、バルザスは言った。

「ゼノン帝国の艦に発進を許可すると伝えてくれ」

「了解」

 要塞司令部から発進の許可が伝えられると、ゼノン帝国の艦が発進した。ゼノンの艦は要塞を出ると、彼らの艦隊のいる方へ近づいていった。

「ゼノンの艦に注意していてくれ」

と、ダズ・アルグが言った。


71.

 女魔術師ファールーレン・ディラはダルシア帝国の継承者タリア・トンブンを連れて、旗艦に戻ってきた。作戦は成功したものと、ディラとゼノン帝国政府代表のボルドレイ・ガウンは思っていた。

「よくやった、ディラ」

と、ヴィレンゲル少将が言った。

「幸運に恵まれたのです」

と、ディラは遠慮深く言った。

「タリア・トンブンは?」

「別室におります」

「その者は、ダルシア帝国籍だというが、ダルシア人の形質を受け継いだものなのか?」

と、ドールズ・ゴウン元帥が聞いた。

「いいえ、タリア・トンブンは生粋のタレス連邦の者です」

「そうか。で、ホルガ・ヴォン・ドルとオヴァン・ルウ・ギルト子爵も一緒か?」

と、ゴウン元帥が言った。

「はい」

「では、ヴィレンゲル、これでいいだろう。ヘイダール要塞を攻撃せよ」

と、ゴウン元帥は命じた。

「了解しました」

と、ヴィレンゲルは言った。

 ゼノン帝国艦隊が攻撃態勢に入った。タレス連邦の艦隊にも共同作戦を取るように呼びかけていた。


 ヘイダール要塞では、アリュセアがすぐに反応した。

「ゼノン帝国の艦隊が攻撃してくるわ。タレス連邦の艦隊も。ドルフ中佐、銀の月に連絡して!」

と、アリュセアが言った。


 要塞司令部では、

「ゼノン帝国艦隊に動きがあります」

と、通信仕官が言った。

「帰るために動いているんじゃないか?」

と、ダズ・アルグが軽く言った。

 バルザス提督の周りに通信用の魔法陣ができるのと、ゼノン帝国艦隊からの第一射が同時だった。

 要塞が再び大きく揺れ、金属が破裂するような鈍い音が響き渡った。


 驚愕したのは、要塞司令部の者たちだけではなかった。

 惑星連盟の各国政府代表は、今度は何事かと要塞司令部に現状の説明の要請が殺到した。

 要塞司令部では、現在解答をしかねると突っぱねると同時に非常警戒態勢の措置を取った。各自、用のないものは一般市民であっても自室に戻り、避難の準備をして待機するというレベルである。

 だが、それでも要塞内部にすぐ噂が広まった。ヘイダール要塞を攻撃しているのは、ゼノン帝国とタレス連邦の艦隊だと。そこにもしかしたら、ダルシア帝国の艦隊も加わるかもしれない、と……。


 惑星連盟の議長であるナンヴァル連邦のマグ・デレン・シャは、自室で深い憂いを浮かべていた。

「やはり、そうなってしまいましたか……」

 こうなることを恐れて惑星連盟の審判でダルシア帝国の継承者を公にしたのだった。

「ところで、タリアは無事なのでしょうか?」

と、マグ・デレンは懸念を口にした。

「さあ、それは……」

と、タ・ドルーン・シャは要塞司令部にすでに照会していたが、解答は得られなかった。

「銀の月がいるので、万が一のことはあるまいと思うのですが……」

と、マグ・デレンが一抹の不安を感じて言った。

「もう少し、落ち着きましたら、もう一度聞いて見るつもりでおります」

「そうですね。今は仕方がありますまい」

「それよりも、ゼノンとタレスの艦隊に要塞がもつかどうかを不安に思うのですが……」

「それは、タリアがどちらにいるかによるでしょう。要塞の外にはダルシアの艦隊がいます。もしタリアがゼノンやタレスの者たちに拉致されてしまっているとしたら、ダルシアの艦隊がどちらに付くか火を見るよりも明らかです」

と、マグ・デレンは不安そうに言った。

 その時タリアは要塞司令室で、怯えたように大スクリーンを見上げていた。

 ゼノン帝国艦隊は、ジル星団ではダルシア帝国の艦隊に次ぐ強力な艦隊なのだ。


72.

 ゼノン帝国艦隊が放った第一射は、ヘイダール要塞の表面の流体金属の4分の1を一瞬で蒸発させていた。

 これはこの要塞始まって以来の危機だった。かつての銀河帝国と新世紀共和国との戦争の時にもこれほど打撃を受けたことはなかった。だからこそ、この要塞は無敵だと言われたのである。

 この攻撃はゼノン帝国軍が用意してきた攻撃専用の特殊艦からの斉射だった。その効果は予想していたよりも大きく、ゼノン帝国側の戦意を高揚させた。

「ヘイダール要塞に、通信回線を開け。降伏の勧告をする」

と、ドールズ・ゴウン元帥が攻撃の結果に満足して言った。

「ゼノン帝国艦隊ドールズ・ゴウン元帥である。ヘイダール要塞を破壊したくなかったら、すぐに降伏せよ。でなければ、宇宙の塵としてくれよう」

と、ゴウン元帥は宣言した。


 ヤム・ディポック要塞司令官は、

「なるほど、最初からこうするつもりだったということか……」

と、呟いた。

「どうします?」

と、ダズ・アルグが聞いた。

 要塞の艦隊を出動させようにも、タレス連邦の艦隊が邪魔して出られなかった。

 ゼノン帝国の艦隊だけでなく、タレス連邦の艦隊もいまや要塞を包囲するように展開しつつあった。

「タレス連邦の艦隊がゼノン帝国の艦隊と連動して動いていると思われます」

「ダルシア帝国の艦隊は?」

「動いていません」

 当面はゼノンとタレスの艦隊が攻撃してくるということか、とディポックは思った。

 スクリーンを見るとゼノンとタレスの艦隊が要塞を包囲しつつあった。

 このまま座して包囲を完成させるのは考え物だった。ゼノン艦隊の動きよりもタレス艦隊の動きが鈍く見えた。

「あのタレス連邦の艦隊の集まっているところを狙って、主砲を撃つ!」

と、ディポックは言った。

「しかし、あまり効果はないのでは?」

と、ダズ・アルグが自信なさそうに言った。

「ともかく、一度こちらの武器を使ってみないと、どのくらいの攻撃力があるのかわからない。このまま向こうの攻撃を目視するわけにはいかない」

 主砲のエネルギーが充填されるのを待って、ディポックは主砲を撃った。

 要塞の主砲の弾道にあったタレス連邦の艦隊はさすがにあっという間に消滅した。だが、その数はそれほど減らなかった。タレス連邦の艦隊は要塞を包囲しつつあって、それほど固まってはいなかったからだ。

 だが、その主砲の一射でタレス連邦の艦隊は用心して、要塞を包囲しつつあると言っても前よりも距離をとるようになっていた。

「今度はゼノン帝国の艦だ」

 ゼノン帝国艦隊は、タレス連邦の艦隊よりも数は多かったが、動きは早く思えた。しかし、艦が少し固まっているようなところを狙って、要塞主砲の第二射を行った。

 すると、雲の子を散らすように、ゼノン帝国の艦隊はバラバラになった。

「いい傾向だ」

と、ダズ・アルグは言った。

 これで先程のように要塞に近寄って、一斉射撃を浴びせることに用心するようになるだろう。

「ですが、これ以上、主砲を撃つのはどうでしょうか?」

と、要塞参謀のグリンが言った。

「わかっている。少なくとも、時間稼ぎにはなったはずだ」

 要塞の主砲は効果があるといっても、散開している一つ一つの艦を潰すようなことは難しい。それに、主砲を警戒して敵の艦隊は要塞からかなり距離をとるようになった。同時にそれは、敵の艦隊の攻撃も要塞に届き難くなる公算だ。

 結果として、お互いにらみ合いのように時間だけが過ぎていく。

「で、これからどうするんです?」

と、フェリスグレイブが聞いた。

 ディポックには考えがあった。ダルシア帝国の艦隊である。

 タリアが要塞に居る以上、ダルシアの艦隊が要塞を攻撃することはない。それは確かだった。ただ、ダルシアの艦隊にゼノンとタレスの艦隊を攻撃させることができなければ、本当の勝ち目がない。

 問題は、リドスの第五王女が置いていった、ダルシア帝国の艦隊との通信装置が使えるかどうかなのだ。

「タリア、リドスの王女がこれを君にと言って、置いていった。それで君をここへ呼んだんだ」

と言って、ディポックはタリアに水晶の結晶に似たペンダントを渡した。

「これは、何ですか?」

と、タリアが聞いた。

「ダルシア帝国の艦隊との通信に使うものだと言っていた」

「で、でもどうやって使うんです?」

 タリアは、初めて見るように、普通のペンダントにしか見えないものを目の高さに上げてみた。

 バルザスはそのペンダントを見て、

「タリア、それを手の中にいれて、ダルシアの艦隊に動くように命じてみてくれないか」

と、言った。

「で、でも動くようにと言われても、どう動かせばいいのか……」

 タリアは不安そうに、バルザスやディポックを見た。そのタリアの態度を見て、

「ディポック司令官、あなたはどうすればいいとお考えですか?」

と、バルザスは聞いた。

 バルザスが見たところゼノン帝国艦隊の攻撃は思ったよりも強力で、このままでは要塞自体が危険だった。もちろん、またリドスの王女を助けに呼ぶという選択肢がないわけではない。だがまず、要塞司令官の意見を聞かなければならない。単に艦隊戦であれば、ディポックが遅れをとることはないはずだとバルザスは思っていたからだ。

「もし、ダルシアの艦隊を動かせるのなら、現在要塞を包囲しつつある敵の艦隊を崩す、つまり包囲をさせなくして、できればそれぞれの艦隊を一箇所に集めるようにできないかな……」

と、ディポックは遠慮がちに言った。

「ディポック司令官、もう少し具体的にどう動かすかを言って欲しいんです」

と、バルザスは言った。

 タリアは兵士でも軍人でもなかった。宇宙船に乗ったことはあるが、艦隊自体をどう動かせばいいのかなどかわかるはずがない。

「わかった。スクリーンにダルシアの艦隊を映してくれ」

と、ディポックは言った。

 スクリーンに妙な形のダルシア帝国の艦隊が映じた。ゼノンとタレスの艦隊が展開する中、岩のようにまるで動きがない。今丁度、ゼノンとタレスの艦隊の間に位置しているのが見えた。

「一つ一つの艦について数とかナンバーが付いてないから、そこまでは言えないが、まず、タレス連邦の艦をダルシアの艦の主砲で撃ってくれないか」

 タリアは必死だった。うまくダルシアの艦隊を動かせなければ、自分もこの要塞と運命を共にするしかないのだ。

 タリアはペンダントを握りしめると、心の中で、

<タレス連邦の艦を打って……>

と、言ったが、どうも力が入らなかった。そのためか、ダルシアの艦隊は動かなかった。

 それでも何とかタリアがディポックの言葉の通りに動かそうとしていたが、

「で、でもタレスの艦を撃つっていうことは、乗っている人たちが死ぬということでしょう?」

と、突然気が付いた。

「何を言っているんだ。もしやらなければ、我々がやられるんだぞ。君も、君の連れてきたタレスの人たちも一緒だ」

と、ダズ・アルグが言った。

「で、でも……」

 逃がし屋をしていたとはいえ、人を殺したことはタリアにはなかった。もし自分がタレスの艦を攻撃すると、多くの兵士が死ぬと思うと、どうしても決断がつかないのだ。

「頼む、早くしてくれ、間に合わなくなってしまうじゃないか」

と、ダズ・アルグが催促した。

「でも……」

 ディポックはタリアがなかなかタレスの艦隊を撃とうとしないこと、いや撃てないことがわかった。タリアは兵士ではない。タレスの艦隊を撃つとどうなるか想像すれば、できなくなるのは理解できる。だが、それではどうすればいいのだろうか?

 ダルシア帝国の艦隊は、タリアしか動かせないのだ。


73.

 困ったことになった、とリドスのバルザス提督は思った。

 だが、これは初めから考慮しておくべきことだった。タリアがゼノンやタレスの艦隊を攻撃することができないかもしれないことを、はなから気がつくべきだったのだ。

 普通の一般市民の感覚では多くの生命を絶つことなど、そう簡単にできるはずはない。想像すらできないだろう。それにたとえ、自分が危険になるかもしれないとしても、それができない者もいるのだ。

 タリアは普通の市民とは少し違うとはいえ、軍人ではないのだ。しかし、タリアの他にダルシア帝国の艦隊を動かすことができるものは思いつかなかった。

 頭を振りながら顔を上げると、そこにコアの顔が見えた。

(コア大使……)

 バルザスの苦渋の表情を見て、

(サンシゼラを、彼女を呼んでくれ)

と、コアは言った。

(なぜです?)

(他に、ダルシアの艦隊を動かすことのできるものはいないからだ)


 迷っている時間はなかった。

 バルザスは召喚の呪文を使い、アリュセアを呼んだ。

 突然呼び出されたアリュセアは、

「ここは?私を呼んだのはあなたなの?」

と、怒った様子でバルザスに詰め寄った。

 突然だったのだ。アリュセアは子供達と話をしているときに、何の予告も無く、召喚されたのである。怒るのも当然だった。

「そうだ。私が召喚した」

と、バルザスは悪びれもせずに言った。

 ディポックは、瞬きをした。アリュセアの出現があまりに突然だったので、何が起きたのかわからなかった。魔法陣が浮かばなかったからでもある。

「何をするつもりです?」

と、ディポックはバルザスに聞いた。

 だが、ディポックの問には答えずに、

「サン、よく聞いてくれ。今、ゼノンとタレスの艦隊がこの要塞を攻撃しようとしている。あの連中を防ぐには、ダルシアの艦隊を使うしかない。ダルシアの艦隊を動かして欲しいんだ」

と、バルザスは言った。

「え?で、でも私は、ダルシア人ではないし、そう、ダルシア国籍もないわ。だから、ダルシアの艦隊を動かすのは無理よ」

「いや、君にならできる」

「ちょっと待って、ここにタリアがいるじゃない。タリアは?タリアならできるでしょう?」

と、すぐ傍にいたタリアを見て言った。

「わ、私は、私はそんなことできないわ」

と、タリアは首を横に振って言った。

 バルザスはアリュセアの承諾も得ずに、すでに呪文を始めていた。

「ちょっと、待って。その呪文は、まさかアルフ族のもの?」

 アルフ族は、かつてガンダルフにいた種族だった。彼らは遠い異世界から来たといわれていたが、その異世界とはロル星団の惑星のことだった。ガンダルフでは妖精とも精霊とも言われる美しい種族だった。そのアルフ族の使う呪文はガンダルフの魔法の呪文とは違い、とても強力で不思議な力があったと言われている。大昔にアルフ族は滅んだと言われ、その呪文も伝えられてはいないとされているが、銀の月は知っていた。

 アルフ族の呪文はジル星団の魔法の呪文があまり扱わない分野である、霊的な分野に対しても多くの呪文を持っていた。その中には、生きている人物の過去世を呼び出す呪文があった。その過去世は直前のものだけではなく、数代前の過去世も呼び出せるのだ。

 銀の月の唱える呪文には魔法陣はできなかった。少し長めの呪文で、両手を使って印字を切るように動かした。

 要塞の外では、散開しつつ要塞を包囲し終えたゼノンとタレスの艦隊が一斉に主砲を撃ち始めていた。おそらく、ぎりぎり要塞に艦の主砲が届く距離からの攻撃だった。

 先程よりも大きな轟音が司令室に響き渡った。轟音だけではなく、揺れも襲ってきた。要塞を覆う流体金属が薄くなっているので、要塞本体まで傷つく可能性が高くなっていた。

 このままでは要塞を覆う流体金属が全部剥がれて下の金属の地が出てしまい、内部に損傷が出るのも時間の問題だった。


 いままで驚愕していたアリュセアが、

「ふん、……」

と、言うのが聞こえた。

 次の瞬間、それまで聞こえていた攻撃を受けて要塞がきしむ音が突然しなくなった。

 司令室の巨大スクリーンに、ダルシアの艦隊がゼノンとタレスの艦隊を攻撃する姿が映じた。ゼノンとタレスの艦隊に主砲の一斉掃射をした後、残った艦隊に向けて、掃討作戦を展開し始めた。その様は、まるで弱い獲物を追い詰める猟犬のようだった。

「ゼノンの者たちに、目にものを見せてくれるわ……」

と、低い声が響いた。それがアリュセアの声だとわかると、

「ライアガルプス、どうぞお手柔らかに、……」

と、バルザスがへりくだって言う声が聞こえた。

「ふん。あの連中に、そのような手心などいらぬことよ」

と、アリュセアが厳しく言った。

 ディポックは、唖然としてアリュセアとバルザスを見た。この二人はどうしたというのだろうか?まるで主従が入れ替わったような光景だ。

 スクリーンに映るダルシア艦隊は、無人の艦隊とは思えぬような動きをしていた。その一つ一つが生き物のように動いていた。単なる艦の動きとも違うのだった。そしてゼノンとタレスの艦隊は、見る間に数を減らして行った。

 根拠はないが、これはアリュセアがやっているのかもしれない、とディポックは思った。リドス連邦王国の五の姫が置いていったペンダントはタリアが持っている。それなのに、アリュセアは何もなしにダルシアの艦隊をコントロールしていることになる。

「あ、あの、もう敵はこちらを攻撃する力はないようですし、攻撃を止めてもらえませんか?」

と、ディポックは遠慮勝ちに言った。いくらなんでも、ゼノンとタレスの艦隊を殲滅するのは良い考えではない。これからのことを考えれば、できれば、残存艦隊が少し残っているほうが、それぞれの政府へのよい警告になるからだ。

「何だ?おまえは何ものじゃ。その光りは只者ではあるまい」

と、アリュセアは厳かに言った。その目の光も尋常ではない。

「いえ、私は、単なるこの要塞の司令官です。その、もう敵は敗北したようですので、一旦攻撃を控えてもらえますか?その間に、私が向こう降伏を呼びかけますので」

 ディポックは、アリュセアの威厳に圧されて、言葉を丁寧にしていた。アリュセア自身は、どこかの女王陛下のような言葉と態度だったからだ。

「わかった。わらわにも、情けはある。その方の良きようにせよ」

と、アリュセアは臣下に命令するように言った。

「お許しをいただいたようですので、それでは、ゼノン帝国とタレス連邦の旗艦と通信回線を開いてくれ」

と、ディポックは命じた。

「こちらはヘイダール要塞司令官、ディポック。ゼノン帝国艦隊とタレス連邦艦隊の司令官へ告げる。降伏せよ。でなければ、ダルシアの艦隊があなた方の艦隊を最後の一艦まで攻撃するだろう」


 かろうじてゼノン帝国艦隊の旗艦はダルシア艦の攻撃から逃れていた。だが、その数は元の半分にも満たなかった。タレス連邦の艦隊も同様だった。

「閣下、要塞からの降伏勧告です。いかが致しましょうか?」

と、ヴィレンゲル少将が言った。

「いったい、どういうことなのだ?」

と、憤懣やるかたないドールズ・ゴウン元帥は魔術師ディラを睨みつけた。まさか、ダルシア帝国の艦隊がこちらを攻撃してくるとは思わなかったのだ。

「わかりません。タリアはこちらにいます。それに他のダルシアの遺伝子を持つ者たちもこちらにいます。あのダルシア艦を動かせる者が、他に誰がいるというのでしょうか?」

と、ディラは必死で言った。

「だが、いるのだ。だから我々は攻撃されたのだ」

 ディラには、ダルシア艦の攻撃の理由がわからなかった。だが、このままでは、ディラの地位はこの失態により失われることはわかっていた。


74.

 ゼノン帝国とタレス連邦の艦隊から降伏の申し出があったのは、降伏勧告の数分後だった。

「彼らはこのまま帰ってもらうことにするけれど、それでいいかな?」

と、ディポックはバルザスに聞いた。

「かまわぬ。あのような者どもなど、近寄らせてはならぬ。早く帰らせるがよい。何をするかわらかぬでな」

と、アリュセアが替わって言った。

 その言葉にバルザスも黙って頷いた。

 ディポックはゼノン帝国とタレス連邦の艦隊にそれぞれ母国に戻るように通信した。そして、堂々としたアリュセアに興味を持って、

「あ、あの、あなたさまは、どなたさまでいらっしゃいますか?」

と、ディポックは聞いた。

「わらわか?」

と、アリュセアは言った。

「はい、さようでございます」

と、ディポックは付き合って言った。

「わらわは、ダルシア帝国皇帝、ライアガルプスⅧ世じゃ」

と、アリュセアは重々しく言った。

 二度ほど瞬きをして、少し間を置いた後で、

「ええと、ダルシア帝国のお方でしたか」

と、ディポックは丁寧に言った。

「そうじゃ。ゼノンは信用できぬ輩である。やつらは遥かな昔、ダルシア帝国から出て行った者たちじゃ」

「どういう理由で出て行ったのでしょうか?」

と、興味を持ってディポックは聞いた。

「我らはかつて、文明の低い種族を食用にしていたことがあった。だが、それを止めることにしたのじゃ。食料は他の物を用いても健康に害はない。故に、そうすることに決めたのじゃ。だが、どうしてもやめられぬという者達がいた。他の種族を食用にするということに様々な理由を付けてな。だが、そのようなことはあまり意味のないことじゃ。それがわからぬのだ」

と、アリュセアは憤懣やるかたないという表情で言った。

「それは、いつ頃のことでしょうか?」

と、ディポックは聞いた。

「そうじゃな、やつらが出て行ったのは、ガンダルフにアルフ族が来るもっと前のこと、数百万年になるか……」

と、遠い目をしてアリュセアは言った。

「では、あのあなた様はいつ頃のお方でしょうか?」

と、ディポックは改めて聞いた。

「ダルシア人の寿命は本来三千年ほどだが、もっと長生きをするものもいる。わらわはかなり長生きであった」

「あの、ライアガルプス陛下はもうこの世にお出でではないので?」

と、ダズ・アルグが話しに割り込んで来て言った。

 ほかの要塞幹部の者たちは、事の成り行きが理解できずに、話を聞いていることしかできなかった。

「当たり前じゃ。わらわは、七千年ほど前にダルシアに出た。その次にガンダルフに生まれてサンシゼラ・ローアンと言った。そして、今回はタレス連邦に生まれ、アリュセア・ジーンという名である」

と、当然のようにアリュセアは言った。

「それは生まれ変わっているということなのでしょうか?」

と、ディポックは聞いた。

「そうじゃ。そなたはそのような理も知らぬのか?」

と、眉毛を片方上げて、アリュセアは不思議そうに言った。

「いえ、我々の文明では、お伽話としては聞いたことがありますが……」

「それは残念よの。これは真実である」

「つまり、アリュセアはあなた様の生まれ変わり、ダルシア人の生まれ変わりであるからダルシアの艦隊を動かせたということですか?」

「少々違うが、そういうことである。つまりアリュセアというよりは、わらわが動かしたのだ」

と、アリュセアではなく、ライアガルプスが言った。

「アリュセアでは動かせないということでしょうか?」

「いや、練習すればできるようになるであろう。そこのタリアも同じである」

「申し訳ありませんが、ダルシアの艦隊を動かすのに必要なことは、何なのでしょうか?」

と、ディポックは聞いた。そこが肝心な所だった。

「それは、ダルシア人の精神波長に合わせることができることじゃ。ダルシアの艦隊はダルシア人の精神に同調するようにできている。ゼノンの連中の言っていた肉体遺伝子に合わせているのではない」

「そうしますと、それぞれの種族には、それぞれの種族の精神の波長というものが違うのでしょうか?」

「当然である。ゼノンはゼノン。ガンダルフはガンダルフという精神の波長を持っているのだ。だからこそ、ゼノンの連中はダルシア人と波長が合わなくなったので、国を出て行ったということでもある」

「種族によって、そうしたものが違うのですね」

「そうじゃ。そなたは新世紀共和国とかいう国のものであるらしいが、まあ銀河帝国とそれほど違ってはおらぬな」

「それは、どういうことなのでしょうか?」

 それは聞き捨てならなかった。新世紀共和国と銀河帝国は、そもそも政治体制や考え方の違いで袂を分かったものである。そのために、この百五十年もの間、戦争をしてきたのだ。

「つまり、新世紀共和国と銀河帝国とはそれほどの違いはない、ということじゃ。わらわから見ればな」

「それは精神波長においてでしょうか?」

「それもある。だが第一、そなたたちが分かれて、まだそれほど経ってはおるまい」

「しかし、二百年は経っていますが……」

と、ディポックは言った。彼にとっては、二百年という時間はかなり長いという気がするのだ。

「二百年など、大した時間ではない。ゼノンとダルシアの間はもう数百万年という時が違っている。そして時だけではなく、その間に多くの違いが生じてしまったのだ」

と言って、アリュセアは大きなため息をついた。

「ゼノンはダルシアから分かれて、彼らは進化したと思っているが、実は退化してしまったのじゃ。そのことにも気がつかぬ、愚か者よ」

「ライアガルプス、そろそろアリュセアに戻ってくださるよう、お願いいたします」

と、バルザスは言った。

「そうか、わかった。銀の月よ、次にわらわが出るときには、ハローン酒を出して欲しいものじゃ」

という言葉を残して、アリュセアは目を閉じた。

 すると、ライアガルプスはアリュセアに変わった。

「ひどいわ。私に何の許可も得ずに、こんなことをするなんて!」

と、アリュセアは戻るなり怒って言った。

「悪かった。でも、要塞が危険だったんだ。ダルシアの艦隊をすぐにでも動かせる人物が必要だったんだ」

と、バルザスは言い訳した。

 ディポックはアリュセアを見ていた。先程までひどく威厳のある人物だったので、言葉遣いや態度の差が明確に出ていた。

「ええと、アリュセア申し訳なかった。バルザス提督の言う通り、要塞が危険だったのは本当なんだ。でも、君は大丈夫なのか?」

と、思わずディポックは聞いた。

「大丈夫も何も、私、全部見ていたんです。いえ、司令官が謝ることはありません。みんなディラントが悪いんですもの」

と、アリュセアは言った。

「ディラント?」

「銀の月のことです。昔は、いえ私がサンシゼラのときはディラントだった。そういう名だったんです。それでつい……」

「そのサンシゼラは、いつ頃の人だったんです?」

「ええと、今から二千年前のガンダルフのロムアン王国の人でした」

 要塞司令室の者たちはゼノンとタレスの艦隊の攻撃を撃退し、ホッとしたところで妙な話に吸い込まれていた。

 バルザス提督とこのタレス連邦の二人の女性は、どうも変な関係だった。

「一つ聞いてもいいかな?」

と、ディポックはバルザスに聞いた。

「何でしょう」

「あのライアガルプス陛下というのは、あの話からすると、七千年前くらいのダルシア人らしいけれど、どうしてアリュセアに出て来たのかな?」

「それは、そのタリアと縁があるからです」

と、バルザスは言った。

「どんな縁かな?」

「つまり、コア大使はタリアとはアプシンクスのときに親子だったんですけれど、ライアガルプスはそのコア大使の母親、つまりタリアの祖母にあたるんです」

「タリアは孫ということか?」

と、ダズ・アルグは驚いて言った。

「正確にいうと、アプシンクスが孫にあたるんです」

と、バルザスは言った。

「それで、君はその二人とどんな関係なんだ?」

と、今度はダズ・アルグが積極的に聞いた。

「別に、わたしはダルシアに生まれたことはありません。ただ、ライアガルプスは私の知り合いだったということです」

と、バルザスは言った。

「七千年前の人と?」

 俄かには信じがたいことだった。だが、不思議でもなんでもないというようにバルザスは続けた。

「当時は、ガンダルフに宇宙船はありませんでした。でも、ガンダルフとダルシアとは行き来がありました」

「魔法で?」

と、ディポックは言った。

「まあ、そうです。ガンダルフには魔法で宇宙を渡ることができる魔法使いが、その頃はまだある程度いたということです」

 魔法で宇宙を渡るなどという話は、ディポックを始め要塞司令室の者たちには御伽噺にしか聞こえない。それが新世紀共和国と銀河帝国のあるロル星団とジル星団との違いである。


「で、今でも魔法で宇宙を渡るような魔法使いが、ガンダルフにはいるのかい?」

と、ダズ・アルグは聞いてみた。

「さあ、どうでしょう。私はまだ、ガンダルフに帰ってきたばかりですから」

と、バルザスは曖昧に言った。まるで生粋のガンダルフ人のような言い方だった。それが、何とも妙に思えて、

「帰ってきた?君は、銀河帝国の軍人だったのだろう?」

と、ダズ・アルグは聞いた。

「そうですね、かつては……。ただ今はあなたも知っているように、銀の月というガンダルフの魔法使いです」

 そこが変なところなのだ。バルザスは確かに銀河帝国の人間だった。だが、今は違うという。それが思想信条の違いではなく、職業の違いでもなく、単に亡命したから属している国が変わったというものでもないことが、ダズ・アルグにはわかってきた。

「ガンダルフの魔法使いは、みんな君のようなことができるのかな?」

と、ダズ・アルグは聞いた。

「そんなことはありません。私は銀の月、古い魔法使いだから、まあ今のガンダルフの魔法使いよりは、魔法に詳しいというだけです」

と、バルザスは言った。

「あら、謙遜しなくてもいいでしょう?銀の月といったら、ガンダルフの五大魔法使いの一人だわ。銀の月は魔法を使えるだけではないのよ。そうでしょう?」

と、これまで黙って聞いていたタリアが言った。

「そんなことはない……」

と、バルザスは言葉少なく言った。

「だって、銀の月という名前の由来は、霊を見る事ができることから来ているのでしょう?コア大使がそう言っていたわ」

と、タリアは言った。

「霊?幽霊が見えるというのかい?」

「幽霊ではなくて、霊よ。魔法を使うことと、霊を見る能力というのは、少し違うとコア大使から聞いたことがあるわ」

と、タリアは言った。

「魔法使いが皆、霊を見たりすることはできないということか」

と、フェリスグレイブが言った。

「そう。なぜなのかまではわからないけれど……」

 タリアの属しているタレス連邦は、あまり魔法には詳しくない。魔法については、ロル星団の人々と同じ程度の認識だった。


 バルザス提督の宿舎では、要塞が静かになったのでカール・ルッツやアリュセアの子供達がホッとしていた。

「やっと終ったようね」

と、カールが言った。

「しかし、どうしてアリュセアが呼ばれたのか?」

と、カールの副官ナル・クルム少佐が言った。

「さあ?どうしてかしら」

 カールには見当もつかなかった。このふたご銀河で起きることは、彼女の生まれ故郷の銀河とは違うのだ。


75.

 ゼノン帝国とタレス連邦の艦隊を退けたヘイダール要塞では、ジル星団の惑星連盟の各国政府へ超空間通信で、それぞれの政府代表を迎えにくるよう連絡をすることになった。これは惑星連盟の議長であるナンヴァル連邦のマグ・デレン・シャの要請であった。

 ヘイダール要塞に降伏したゼノンとタレスの両艦隊は、すでに本国に帰還していた。そうさせたのは、要塞司令官のディポックである。もちろん、タレス連邦の艦隊には要塞にいたタレスの提督や大使なども移乗させた上でのことである。いつまでも要塞においては碌なことがないとバルザスが助言した所為でもある。

 ヘイダール要塞の周辺には、惑星連盟の各国政府の艦隊が政府代表をジル星団の宇宙都市ハガロンに戻すために派遣されて来ていた。

 各国政府の艦隊をぶつからないように配置するために、要塞の通信員は大忙しだった。

 そして、ダルシア帝国の艦隊は、まだヘイダール要塞にいた。

「で、あのダルシアの艦隊はどうするんですか?」

と、ダズ・アルグが言った。

「そうだねえ。ただタリア・トンブンはまだ自分でダルシアの艦隊を動かせないというし、アリュセア・ジーンはあの時出たライアガルプスというダルシア人でなければ動かせないというんだ」

と、ディポック司令官が困ったように言った。

 要塞の艦隊でもないのに、いつまでもいるというのは困ったものだとディポックも思っていた。

 一番困るのは、今はいないにしてもロル星団の方から船が来た時だ。銀河帝国の艦や元新世紀共和国の艦でも、あのダルシアの艦隊を見られるのは困るのだ。まるでヘイダール要塞とダルシア帝国が同盟したように見えるではないか。同盟ならいいが、要塞がダルシア帝国に属したと見られるのも困りものである。

 それでなくても、惑星連盟の各国政府代表を迎える艦隊はあのダルシアの艦隊に気が付いて、あわてて大丈夫かと要塞に打診をしてくるくらいなのだ。

 このままでは、遅かれ早かれ噂がロル星団の方へも伝わっていくだろうと思われた。


 タリア・トンブンはタレス連邦から来た仲間を、このまま要塞に滞在させるか、それともリドス連邦王国に難民として連れて行くか悩んでいた。しかし、それよりも差し迫った事として、ダルシアの艦隊をどうするかという問題があった。

 寝台の上に横になっていると、部屋の通信機が鳴った。

「はい。タリア・トンブンです」

と、タリアは言った。

「わたしは、惑星連盟の議長、ナンヴァル連邦のマグ・デレンです。あなたにお話があります」

「マグ・デレン・シャ。私に話しがあるのですか?」

「そうです。これからこちらに来ていただけますか?」

と、マグ・デレンは言った。

 タリアはすぐに行くと返事をして、部屋を出た。部屋の中で一人で悩んでいても、仕方がないからだ。

 外に出て、主通路に出ると、要塞の兵士や市民だけでなく、惑星連盟の様々な人々が行き交っているのがわかった。皆、宇宙都市ハガロンに戻ろうとしているのだった。

 だが、タリアにとっては、もう宇宙都市ハガロンは遠くの世界になってしまった。もうあそこに行くことはないだろう。コア大使はいないのだ。

 タリアはコア大使の不在を寂しく思っている自分に気が付いた。心が不安定なのは、コアがいないということにも原因があるのだ。ハガロンにおいては、雇用主というだけではなく、コア大使がタリアの保証人でもあったのだ。

 あの頃は、コア大使のことがよくわからなくて、時々都市の店をうろついたものだ。まさかコアがいなくなるとは、思いもしなかった。ダルシア人が長命だということは、ジル星団では有名だったのだ。タリアが寿命を迎えても、コアはその先ずっと長生きすると思っていた。

 通路の向こうから知った顔が来た。

 ヘイダール要塞に来て知り合った、ダズ・アルグだった。まだ年が若いというのに、艦隊の提督だというのはタリアにとっては驚きだった。

 軍人というものは、ハガロンでも良く見た。その中で、一艦隊の提督となると、大概決まって年を取っていたものだ。その種族のなかでも年長の人物が多いのはタリアでもわかった。

 だが、ここヘイダール要塞では、軍人、それも高位の軍人に若い者が多い。要塞司令官にして30代そこそこに見えるのだ。口の悪い他の者によると、こちらのロル星団では長い間戦争を続けた結果、その間に年寄りたちは皆亡くなってしまって、若い者しかいなくなったからなのだという。

「あれ、どこに行くんだい?」

と、ダズ・アルグは言った。

 それに、とタリアは思った。目の前の人物は、将帥の地位に居るにしては、口が軽く、あまり上品とはいえない。

「あなたに関係ないでしょう?」

と、タリアは言った。

「それは、つれないね。ゼノンとタレスの艦隊を凌いだ仲じゃないか……」

「人に誤解されるようなことは言わないでちょうだい。それに、私は何もしなかったし、できなかった」

「そんなことはないさ。君がこの要塞にいてくれるだけでいいのさ」

「それは、どういうこと?」

「君がいれば、あのダルシアの艦隊もここにいるということさ。何も動かなくてもいいんだ。そこに存在しているだけで、いい」

 その言い方にタリアは、腹が立った。相手が悪気で言ったのではないと分かっていても、腹が立った。

「そう。言うことはそれだけなの?」

「え?そうだけれど……」

と、ダズ・アルグはタリアの不機嫌そうな言い方に驚いて、言葉が詰まってしまった。

「わたし、忙しいから……」

と、タリアは言うと、ずんずん歩いてダズ・アルグから離れていった。

「わからないなあ、何か悪いこといったかなあ……」

と、ダズ・アルグはタリアの離れていく後ろ姿を見ながら嘆息した。


 惑星連盟の議長である、ナンヴァル連邦の大使マグ・デレン・シャは、タリアが来るとすぐに部屋に招じ入れた。

「よく来てくれました」

と、マグ・デレンは言った。

「あの、どんな要件でしょうか?」

と、タリアは聞いた。

「実は、あなたは、ダルシア帝国の継承者として一度はダルシア本国に行ってほしいのです」

と、マグ・デレンは言った。

 タリアは他の人からも似たようなことを言われたことを思い出した。あれは、リドス連邦王国のバルザス提督だった。

「どうしてでしょう?」

と、タリアは聞いた。

「惑星連盟の審判であなたはダルシア帝国の継承者であることを決定しました。ジル星団ではそのことが公表され、今ではどの政府においても、ダルシア帝国の継承者はタリア・トンブンであることは知っています。ですが、あなたが継承者であることは、ずっと以前にコア大使が決定し、本国に知らせていたことでもあります。ですから、ダルシアの艦隊がこの要塞まで来たのです。あの艦隊は、あなたをダルシア本国に連れて行くためのものでもあります」

「あの艦隊は私を迎えに来たというのですか?」

「そうです」

「でも、私はタレス連邦から連れてきた仲間のことも考えなければなりません」

「そうですね。それは、私も知っています。でも、ダルシアではあなたが戻るのを待っているのです」

「私、どうしてもダルシアを自分の国だとは思えないんです。後継者と言われても、私にはピンと来ません」

「そうでしょうね。でも、それでもダルシアはあなたの国なのです。ダルシアに戻るということを考えてみてほしいのです」

「マグ・デレン、あなたがそれを望むのは、ダルシアの地を他の連中に渡さないためですか?」

「それもあります。ダルシアの技術と知識を特定の政府に渡すことは、ジル星団の平和と秩序を乱すことになりかねません」

「それは、私にもわかります。でも、それだけでは、単に現状維持だけということでしょう?」

「あなたは、何がしたいのですか?」

「私は、もっと別の事をしたいのです。何かわからないけれど、何か私にできること、ただダルシアに存在するというだけでは、意味がないような気がします」

「それを考えるのであれば、なお更、あなたはダルシアに戻るべきです」

「向こうに行けば、何かがあるということですか?」

「さあ、それは私にはわかりません。でも、何かヒントが得られるかもしれません」

 タリアは、もっと確かな答えがほしいと思った。しかし、マグ・デレンといえど、ダルシアに行ったことがあるはずはなく、タリアの疑問に明確な答えを出すことはできないことはわかっていた。


76.

 ヘイダール要塞にやっと平和な時が戻って来た。

 惑星連盟の人々は、それぞれの政府の艦でジル星団の宇宙都市ハガロンに戻って行った。

 今ヘイダール要塞にいるのは、ダルシアの艦隊とナンヴァル連邦とリドス連邦王国の艦隊だった。

 ダルシアの艦隊は要塞の周囲に、まるで要塞の守護についたように動かなかった。リドス連邦王国の艦隊は、異次元の空間にいるので、傍目には見えなかった。要塞側もその存在をバルザス提督から聞いただけで、正確な位置はつかめなかった。

 ナンヴァル連邦のマグ・デレン・シャは、休養したいとして、滞在を伸ばしていた。そのためナンヴァル連邦の艦隊がダルシアの艦隊と同じく、要塞の周囲に待機した状態だった。


 ヘイダール要塞司令部は、月に一度の幹部による定例会議を開いた。

 会議の冒頭、要塞参謀のグリンが言った。

「司令官、あのダルシアの艦隊をどうするおつもりでしょうか?」

「ダルシアの艦隊は、そう簡単には動かせそうもない」

と、ディポックは言った。

「ダルシアの艦隊がこちらを攻撃することはないとわかっていますが、もし銀河帝国や元新世紀共和国の連中がやって来たら、何と言えばいいのでしょう」

「そうだね。来たら考えて見ようか。それまでに、何か言い考えが浮かぶと思うよ」

と、ディポックは言った。

「ナンヴァル連邦の艦隊は惑星連盟の議長が宇宙都市ハガロンに帰るときには、動くと思いますが。あと、目にも見えず、レーダーにも反応しないという、どこにいるのかよくわからないリドス連邦王国の艦隊は、本当に我々を攻撃しないのでしょうか?」

と、グリンが疑問を口にした。

「リドス連邦王国というのは、もし攻撃をするとしたら、銀の月、いやバルザス提督が魔法を使って要塞を無力化するのは簡単だと思う。だから、わざわざ艦隊を使って攻撃することはないだろう」

「魔法ですか……」

と、ウル・フェリスグレイブ要塞防御指揮官が言った。魔法を使われるとすると、それに対抗する手段は要塞側にはない。これは、大問題だった。

「ジル星団でも、魔法を使うところと使わないところがあるらしいですね」

と、ダズ・アルグ提督が言った。

「リドス連邦王国というのは、ナンヴァル連邦のマグ・デレン・シャによると、ジル星団でも魔法発祥の地であり、多くの魔法使いと様々な呪文のあるところらしい」

と、ディポックは言った。

「でも、あのリドスの第五王女というお姫様は、呪文は使っていないようでしたが……」

と、リーリアン・ブレイス少佐が言った。

「リドス連邦王国の王族は呪文を使わずに、強力な力を振るうことが可能だということだ。あの暗黒星雲の種族と同じようにね。聞いたところによると、元々リドスの王族はどこか他の銀河から来たと言われている」

「だいたい、あの暗黒星雲の種族というのは、何なんですか?」

と、ダズ・アルグが聞いた。

「マグ・デレン・シャによると、このあたりの銀河の出身ではないらしい。暗黒星雲と呼ばれる銀河の出身だということだ」

と、ディポックは言った。

「あの、一つ疑問があるのですが、これまで我々は銀河帝国と戦ってきましたが、ジル星団の人たちや暗黒星雲の種族という連中を見たことも聞いたこともありませんでした。どうしてですか?」

と、ダヤン・ガル中佐が聞いた。

「私も正確なところはわからない。だがそれは、戦争をしているような連中とは付き合えないといことかもしれないね。だから、戦争が終った途端、銀河帝国にゼノン帝国が接触しているのは聞いただろう」

 とはいえ、これからジル星団の連中と付き合っていくというのは、かなり困難が予想された。

 新世紀共和国は銀河帝国との戦争に敗れ、現在は銀河帝国の新領土として総督によって統治されている。しかし、どちらも同じ文明を持った同じ種族だった。

 もし、ジル星団の連中と揉め事が起きたとき、銀河帝国はあの魔法を使ったやり方に対処できるのだろうか?もしかしたら、リドスの王女は、銀河帝国の艦隊など、たった一本の指をパチンと鳴らすだけで、全滅させることができるかもしれないのだ。

 銀河帝国も元新世紀共和国の連中も、今はまだそのようなことを想像することもできないだろう。

「まあ、確かに、ジル星団ではかなり魔法も現実として戦力になるらしいことはわかった。ただ、ゼノン帝国以外の国は、それほど好戦的でも領土欲が旺盛でもないようだ」

と、ディポックは言った。

「それに、魔法があるなんて、いくらなんでも説明したって、こちらの連中は信じません」

と、ダズ・アルグが言った。

「そうだろうね。じかに見て、体験しても、なかなか信じることは難しいかもしれない」

と、ディポックはため息をついた。


 会議中に司令室から連絡が入った。

「惑星連盟の議長である、ナンヴァル連邦のマグ・デレン・シャから司令官に話があるそうです。今日は会議中だと話しましたら、会議が終った後でいいということでしたが、どうしても話があるというのですが、どうしましょうか?」

と、通信員が言った。

「わかった」

と、ディポックは答えて、

「聞こえたかい?惑星連盟の議長が話があるそうだ。今日の会議はこれで終わりにする」

と、会議室の一同に言って、会議を終わりにした。


 要塞司令官室に戻って、ディポックは惑星連盟の議長であり、ナンヴァル連邦の宇宙都市ハガロンの大使であるマグ・デレン・シャが来るのを待った。

 マグ・デレン・シャはナンヴァル連邦の艦隊司令官タ・ドルーン・シャを伴ってやってきた。

「会議中に申し訳ありませんでした」

と、マグ・デレンは会議の中断を謝って言った。

「いえ、定例の会議でしたし、それほど重要な要件はありませんでしたので、それで、どんなお話でしょうか?」

と、ディポックは言った。

「実は、前々から考えていたことでもあります。宇宙都市ハガロンは、惑星連盟の居場所としてはかなり手狭になってしまいました。それに、これからのことを考えると、もっと広くて、それに銀河帝国のことを考えると、もっとロル星団に近い場所にあったほうがよいのではと考えているのです」

と、マグ・デレンは言った。

「確かに、こちらの戦争も終わりましたし、銀河帝国も大分落ち着いてきたことと思います。彼らがいずれ惑星連盟に接触してくることは充分に考えられることです」

と、ディポックは言った。

「それで、惑星連盟を宇宙都市ハガロンから、こちらヘイダール要塞に移したいと想うのです。その許可を司令官に得たいと想うのですけれど、どうでしょうか?」

と、マグ・デレンは言った。

「え?何ですって!」

 突然の申し出に、ディポックは驚いた。

 惑星連盟をヘイダール要塞に置くなど、考えたことは無かった。いったいどうすれば、そんなことを考え付くのだろう、とディポックは思った。

「し、しかし……。あの、他の政府の代表は、どう考えているのでしょう?」

「そのことについては、皆私の意見を尊重すると言っていただけました」

「ですが、あの……」

と、ディポックは言葉に詰まった。

「あとは、貴方に許可をいただければ、惑星連盟をここへ移すのは簡単です。こちらは、人づてに聞いたところによると、別に新世紀共和国の臨時政府が置かれているわけではありませんのね」

と、マグ・デレンは言った。

「もちろんここは新世紀共和国から出てきた者たちが集まっているところです。ですが、特に政府の樹立などは考えてはいません」

 それどころではなかったというのが、本当のところだ。だが、要塞に何らかの政治組織を作ることはいずれ考えなければならないことだった。

「それなら、惑星連盟を置いたとしても、誰に憚ることもありませんわ」

「しかし、そのここは軍事要塞ですし……」

「広さは充分すぎるくらいです。宇宙都市ハガロンに比べると、その十倍でしょうか?軍事要塞といいますが、ハガロンも一応艦隊で守っています。惑星連盟そのものは他の政府から独立した存在でなくてはなりませんから、どうしても軍備はいるのです。こちらは、艦隊もありますでしょう?」

「ですが、ジル星団の艦隊とは、かなり差があります」

 それはゼノンとタレスの艦隊が攻撃して来た時に、ディポックが感じたことだった。艦隊同士の戦闘になった場合、ヘイダール要塞の艦隊ではかなり見劣りがする。

「そんなことはありません。他の政府に働きかけて、それぞれ守備する艦隊を出させることも可能です。たとえば、リドス連邦王国やダルシア帝国もこちらに艦隊を出すことを渋るとは思いません」

 ジル星団最強の艦隊といわれるダルシアの艦隊がヘイダール要塞に駐留することになるとすると、戦力としてはかなりのものになるはずだった。ディポックも、この前の艦隊戦でも、ゼノン帝国の艦隊がダルシアの艦隊に完全に負けているのを実際に見ている。

「すぐに結論を出してほしいとは申しません。このことを考えてほしいのです」

と、マグ・デレン・シャは言って、帰って行った。

 だからといって、ディポックにとってはそう簡単に結論を出せることではなかった。


 ディポックは自室に戻ると、居間に当る部屋の長椅子に寝そべった。

 疲れた、というのがディポックの正直な感想である。ここのところ急に色々なことが起きた所為だった。

「今、お茶をお持ちします」

と、ディポックが帰ってきたのに気づいたキルフ・マクガリアン中尉が言った。

 これまでは銀河帝国と新世紀共和国のことを悩んでいればよかった。惑星連盟がこのヘイダール要塞に居を構えるとしたら、ジル星団内の様々なもめごとまで悩まなければならなくなる。デメリットを考えると数限りないが、さりとてメリットもある。

 テーブルの上にお茶を置いて、そのまま下がろうとするキルフを、

「夕食の支度かい?」

と、ディポックが聞いた。

「いえ、夕食はもう出来ています。もう食べますか?」

と、キルフが言った。

「いや、今はまだいい。ちょっといいかな……」

と、ディポックは言った。

 ディポックの頭の中は、惑星連盟の議長であり、ナンヴァル連邦の大使であるマグ・デレン・シャの言った話で一杯だった。何しろ、考えたこともない内容なので、どこから考えていいのか迷っていた。

「何か、困った問題でもありましたか?」

と、恐る恐るキルフは聞いた。聞いていいことなのかわからないが、ディポックが話し始めたことなので聞いてみたのだ。

「うーん、あの惑星連盟というのは、どう思う?」

と、ディポックは言った。

「惑星連盟?あのジル星団のですか?」

「そうだ」

「僕にはよくわかりませんけれど、面白そうな人たちですね」

と、キルフは言った。

 キルフは惑星連盟の政府代表達とは会わなかったが、その側近の部下達、例えば各国政府代表たちが要塞滞在中に求める様々な雑事をこなす人たちとは会っていた。

 ヘイダール要塞には惑星連盟の各国政府代表たちが求めるような食材、日常品があまりにも不足しているので、彼らの悩みは深かった。たいていは乗艦してきた艦まで取りにいくことになるのだが、それを運んだりするのが結構大変だったのだ。

「でも、それぞれ一生懸命にやっているのがわかって、少しは気持ちがわかったように思いました」

 各国政府代表もそれぞれ性格が違っていてユニークだった。見かけが人間とかけ離れた種族には近寄りがたいものがあったが、大抵は人間型に近かった。その中でもゼノン帝国の連中は横柄だったし、ナンヴァル連邦の人たちは礼儀正しかった。

「彼らがもし、もしだよ、ヘイダール要塞に来たとしたら、上手くやって行けるだろうか?」

と、ディポックは言った。

「え?惑星連盟がヘイダール要塞に来るんですか?」

と、驚いてキルフは聞いた。

「いや、もしの話をしているんだ。どうだろうか、上手くやっていけると思うかい?」

「そうですね。でも、やってみなければわかりません」

「そうだろうね」

 もし、ヘイダール要塞に惑星連盟が来たとしたら、銀河帝国はもう要塞を取り戻すことはできなくなる。これは確かだ。軍事的にも政治的にも、銀河帝国やジル星団とは別個の独立した存在になるだろう。だが、要塞の今後に関しては、惑星連盟の議長の意向を重視しなくてはならなくなるだろう、とディポックは思った。

 第一、惑星連盟の議長はどうやって選出されるのだろうか。それさえもまだわからないのだ。

 今現在ヘイダール要塞は、銀河帝国ではないが、元新世紀共和国とも違った独立した勢力のつもりだった。そこには、武力はあるもののまだ経済的な基盤がないという弱点があるのだった。もし、惑星連盟が要塞に来るとすると、その経済的な部分が解消される可能性があった。

 なぜなら、ジル星団との交易が始まるからである。惑星連盟が必要とするものを、正確には惑星連盟の各国代表が必要とするものをそれぞれの国から輸入しなければならなくなるからだ。

 経済活動が始まれば、一つの独立した勢力から政治勢力に格上げされる。そうなると、元新世紀共和国と完全に離れることになるし、銀河帝国とは一つの独立した政治勢力として対峙できるのだ。

 ヤム・ディポックは自分がそれを本当に望んでいるのかどうか、今一度考える必要があった。



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