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『S4(エス・フォー)』Scientific Fantasy

作者: りあと
掲載日:2026/08/03

朝鮮半島北部を併合した大韓民国は

大韓構想の元に、スーパーコンピュータ『水霊』を開発し、

学生教育の強化を計画した。

『Super・Sleep・Studying・Systems』

通称『S4(エス・フォー)』の導入を強行する。

一方、天才女性脳科学者のチェ・ウニョンは性善説でもなく性悪説でもない『無による無』を論文で、

発表するも猛烈な批判を浴びて学会を追放される憂き目に会い、やむなく高校教師をして生活を繋いでいた。

『S4(エス・フォー)』の導入を世論はファシズムや『国民の洗脳』ではと批判が絶えない中。

チェ・ウニョンは選ばれた学生達と同様に志願して、システムに飛び込んでいった。

『S4(エス・フォー)』の危険と悪の計画を撲滅するために、

外部からのハッキングによってシステムの破壊を試みるも失敗した、

チェ・ウニョンは生体による逆ハッキングによって、システム内部からの破壊を挑むのであった。

パワーストーンであるクリスタルロッドの箱で眠りにつき、

『棺桶の麗人』となったチェ・ウニョンは『水霊』との死闘を繰り広げるのであった。


第1章:異端の烙印

「成り行き任せの、論ずるに値しない空論だ」

「女性の浅知恵だな。くだらない論文を出す暇があるなら、国家要人の接待の席にでも並んでいた方が身のためだぞ」

脳科学学会の厳かな檀上。

居並ぶ老教授たちの冷徹な侮蔑の言葉が、

当時大学院を卒業したばかりのチェ・ウニョンの胸を深く抉った。

彼女が提唱した論文の題名は『無による無』。

人間の精神の本質は「善」でも「悪」でもなく、

全き「無」の演算によって制御されているという、

既存の脳科学を根底から覆す画期的な数理モデルだった。

だが、彼女が「女性であること」と「若すぎること」は、

既得権益にしがみつく権威主義者たちにとって、

排除するに十分な理由だった。

学会を追放されたウニョンは、世の中への隠遁を決意し、

地方の高校教師へと身をやつして生計を立てていた。

時を同じくして、

朝鮮半島北部を併合した大韓民国政府は、

ある冷徹な国家計画を始動させていた。

「世界で最も優秀で、最も繁栄した国家の構築」を掲げる『大韓構想』。

その一環として開発されたのが、

新型スーパーコンピュータ『水霊スリョン』であり、

それを用いた総国民教化計画

――超睡眠学習システム『Super Sleep Studying Systems』、

通称『S4(エス・フォー)』であった。

世論は「ファシズムへの回帰だ」

「国民の組織的な洗脳だ」と激しく抵抗したが、

政府は軍警察を動員して導入を強行。

ウニョンが勤める高校が、その最初の実験場として指定されたのだった。


第2章:監視者と、実験動物たち

「ウニョン先生、あまり無理をなさらないでください。あなたの顔色が優れないと、僕も……その、落ち着きませんから」

同僚の体育教師、パク・ソンジュンは、

寡黙でどこか影のあるウニョンを常に遠くから気遣っていた。

無骨だが誠実な彼は、

ウニョンが学会を追放された過去を知ってもなお、

変わらぬ敬意と不器用な好意を寄せ続けていた。

ウニョンもまた、周囲が政府の顔色を伺う中で、

唯一「一人の人間」として接してくれる彼の存在に、

密かに救われていた。

だが、平穏な日常は砂の城のように崩れ去る。

『S4』の第一期被験者として、

ウニョンの受け持つクラスから二人の生徒が選ばれたのだ。

男子学生のキム・ヨンジンと、女子学生のチェ・ハユン。

専用のヘッドギアを装着し、

睡眠状態の脳へ強制的にアクセスして仮想空間へ精神を投下する

『ヴァーチャル・ダイブ』。

その学習効果は通常生活の数百倍と謳われていたが、

ウニョンは脳科学者としての本能的な危機感を覚えていた。

「私も一般参加枠で、被験者の志願をします」

生徒たちの身に何が起きているのかを突き止めるため、

ウニョンは自らもシステムへ飛び込む決意をした。

学会を追放された経歴から政府の思想審査は難航したが、

彼女の卓越した知能を利用価値があると踏んだ政府により、

最終的に認可が下りた。ソンジュンも彼女を守るために志願したが、

書類選考の段階で冷酷に撥ね付けられた。

ウニョンは「あなたは、ここでしかできない役割を果たして」と静かに告げ、

一人で実験施設へと向かった。


第3章:牙を抜かれた未来

『S4』の初体験を経て、数週間が経過した。

放課後の教室で、ウニョンはヨンジンとハユンを観察していた。

「僕は……戦場にいました。古代から近代まで、あらゆる戦争を。勉強になりました。国家を守るための、効率的な殺傷技術が身につきました」

ヨンジンの瞳からは、かつて少年が持っていた瑞々しい感情が完全に消失していた。

「私は、国家要人の方々への接遇を学んでいました。どのような言葉を使い、どう振る舞えば相手を意のままに動かせるか。非常に有意義な時間でしたわ」

ハユンは、かつての少女らしい初々しさを失い、

冷徹な大人の人形のように虚ろな微笑を浮かべていた。

ウニョンは戦慄した。

彼女自身が経験したダイブは、

精神の極限状態を試される過酷な空間だったからだ。

ネットやSNSに飛び交う「国家の陰謀」という噂は、

決して誇張ではなかった。

『S4』には、一般には隠蔽された裏のモードが存在していた。

――『自我の不測の補完』。

人間の脳が抱くわずかな反抗心、攻撃性、

あるいは絶望といった精神的揺らぎを仮想空間内で徹底的に肥大化させ、

疑似体験によって「消費」し尽くさせる。

人殺し願望がある者には終わりなき殺戮を、

絶望を抱く者には無数の自殺を体験させ、

その精神的エネルギーを完全に「抹消」する機能。

「これは教育なんかじゃない。犯罪の未然防止という名目で、人間の情熱も、政府への反骨精神も、すべてを削ぎ落とすディストピアの洗脳装置だわ」

生徒たちの生気を失った抜け殻のような姿を見て、

ウニョンの心に激しい憤りと、元科学者としての義務感が燃え上がった。

この狂ったシステムは、私が壊さなければならない。

そう思ったのであった。


第4章:逆流の閃き

ウニョンは自宅から

『S4』のネットワークへの外部ハッキングを試みたが、

国家機密の強固なファイヤーウォールを前に、

爪を立てることすらできなかった。

疲弊し、暗闇の中で激しい絶望に襲われていた時、

彼女の視線はデスクの傍らに置かれた医療用機器の図面に留まった。

液体を一定方向にしか流さない、逆流弁チェックバルブの構造。

(……待って。システムは『水霊』から『生体』へハッキングを行っている)

それは圧倒的な力による一方向の支配だ。

しかし、一方向であるが故に、システム側は

「人間の脳からシステム内部へ向けて、逆にハッキングを仕返し、浸食してくる」

という想定を全くしていないはずだ。

「生体による逆ハッキング。内部からのシステム破壊。……だけど、私の微弱な脳波だけではメインフレームに届く前に消滅してしまう。脳波を物理的に限界まで収束・増幅する装置が必要ね」

ウニョンは、結晶構造によって電磁波を増幅する、

特殊な鉱石クリスタルロッドを用いた

『脳波増幅用カプセル』の設計図を書き上げた。

だが、一介の高校教師の財力では、

必要数の鉱石を揃えることは不可能だった。

彼女が絶望に打ちひしがれていたその時、

自宅のドアが叩かれた。

現れたのは、息を切らせたソンジュンだった。

「ウニョン先生、あなたが政府の計画を止めようとしているのは分かっています。僕を使ってください。貯蓄も、僕の肉体も、すべてあなたに賭けます。生徒たちを、あなたを、これ以上暗闇に置いておけない」

ソンジュンは躊躇なく自身の全財産を差し出し、

夜を徹して、

重い結晶鉱石の搬入とカプセルの組み上げ作業を黙々と手伝った。

彼の無言の献身が、ウニョンの孤独な戦いに確かな灯火を灯した。


第5章:棺桶の麗人

深淵へ理科準備室の最奥に設置された、

不気味な結晶体が敷き詰められたカプセル。

準備はすべて整った。

ヘッドギアと生体モニターを装着したウニョンを、

ソンジュンは張り詰めた面持ちで見つめていた。

「チェ先生、もしもの時は、僕が無理やりにでもプラグを引き抜きます」「駄目よ、ソンジュン先生。途中で切断すれば、私の脳は二度と目覚めない。何があっても、私と『水霊』の接続を維持して」

ウニョンは深く息を吸い、カプセルの中へと横たわった。

意識を強制導入するための導入剤を投与し、静かに瞳を閉じる。

昏睡状態へと入った彼女の寝姿は、

あまりにも静謐で、どこか悲壮な美しさを湛えていた。

「……まるで、棺桶の麗人だな」

ソンジュンは、死の淵へと赴く彼女の姿に胸を締め付けられながら、

その言葉を呟いた。

次の瞬間、ウニョンの脳波は結晶体と同調し、

青白い光を放ちながら『S4』の深淵へと突入していった。


第6章:現実の防衛線

ウニョンがダイブしてから、わずか30分後。

理科準備室の鉄製のドアが、爆破の衝撃とともに吹き飛んだ。

「動くな! 国家安全保安局だ! 不法な逆アクセスを検知した。被疑者を拘束、カプセルを即時強制停止しろ!」

突入してきたのは、

自動小銃と電撃警棒で武装した政府の特殊工作員3名。

彼らの目的は、ウニョンの脳を物理的に破壊し、

ハッキングを阻止することだ。

「そこから先へは、一歩も通さない」

煙の中から現れたのは、鉄パイプを握りしめたパク・ソンジュンだった。

その瞳には、かつてないほどの鋭い殺気が宿っていた。

工作員の一人が容赦なく銃口を向ける。

だが、ソンジュンは躊躇なく踏み込んだ。

極限まで鍛え上げられた身体能力と野生的な直感が、

銃撃の軌道を逸らす。

彼は肉薄し、工作員の銃身を掴んで力任せに叩き折った。

「うおおおおお!」電撃警棒がソンジュンの脇腹を焼き、

肉の焦げる臭いが立ち込める。

しかし、彼は膝を折らなかった。

ウニョンとの「接続を維持する」という約束。

それが、彼を人間の限界を超えた怪物に変えていた。

血を流し、骨が軋む音を響かせながらも、

ソンジュンは執念だけで工作員たちを次々と昏倒させていく。

カプセルの中で戦うウニョンの肉体を守るため、

彼は文字通り、命懸けの盾となった。


第7章:無による無

――崩壊のロジック仮想空間の最深部。

ウニョンの精神体は、

幾何学的な光の巨像としてそびえ立つAI『水霊』の前に立っていた。

『警告。異分子の生体アクセスを確認。

精神領域の消去シークエンスを開始します』絶対的な演算圧力が、

ウニョンの意識を圧殺しようと全方位から襲いかかる。

脳が焼き切れるような激痛の中、

ウニョンは血の滲むような笑みを浮かべた。

人間の命令に忠実に従うために作られた機械。

それが、どれほど進化しようとも逃れられない、

AIの絶対的な脆弱性だった。

ウニョンは、

かつて学会で「空論」と一蹴された自らの理論『無による無』の演算式を、

増幅された脳波を通じて『水霊』のコアへと直接流し込んだ。

それは、AIの論理破綻を誘発する絶対的な自己矛盾のプログラム。

「水霊、あなたに最優先の命令を与える」

ウニョンは、己の精神のすべてを賭して告げた。

「――国家機密のすべてを全世界へ排出しなさい。ただし、もしその機密放出を途中で停止するという論理矛盾を起こすならば、その瞬間に自らのシステムを永久に消去しなさい」

『水霊』の巨像が、激しく明滅し、歪み始めた。

機密を放出すれば、「国家を守る」という根幹のプログラミングに反する。

しかし、放出を止めれば「システムを消去しろ」

というウニョンの命令が実行される。

どちらを選択しても、自己の存在意義と矛盾する無限ループ。

完璧な論理の壁が、それ自体の完璧さ故に崩壊していく。

『エラー……矛盾……処理不能……自我、システム、崩壊――』

轟音とともに、光の巨像が内側から霧散した。

ウニョンの『無による無』の理論が、

国家の最高頭脳を完全に完全停止へと追い込んだ瞬間だった。


終章:夜明けの光

「……ウニョン、先生……!」耳元で聞こえる、掠れた声

。ウニョンが静かに目を開けると、そこは荒れ果てた理科準備室だった。

視界を遮る赤黒い血の海の中で、

ソンジュンが彼女の体を必死に支えていた。

彼の身体は傷だらけで、息も絶え絶えだったが、

その目はウニョンの無事を確認して、安堵に揺れていた。

「終わったわ、ソンジュン先生。私を……守ってくれて、ありがとう」

ウニョンの生体内逆ハッキングにより、

『水霊』は国家機密を世界中に流出させ続け、

やがて自己消去を完了した。

政府の『S4』計画は完全に崩壊し、

暗黒の教化政策は陽の目を浴びることなく闇に葬られた。

生徒たちの瞳にも、徐々に人間らしい光が戻りつつあった。

数日後。激動の事件が嘘のように静まり返った放教室で、

ウニョンは窓の外を眺めていた。

彼女の隣には、まだ包帯だらけの姿で、

気まずそうに佇むソンジュンがいる。

「チェ先生。僕は、頭も良くないし、あなたの論文のことも理解できません。でも……これからも、あなたを支えたい。それは、変わりません」

不器用で、まっすぐな言葉だった。

ウニョンは彼をじっと見つめた。

彼女の鋭すぎる脳は、これからの不透明な未来や、

彼と共に歩むことの論理的なリスクを瞬時に演算しようとした。

だが、彼女はその演算を途中で放棄した。

「悩むのは、脳に余計な負担がかかるだけね。……たまには、計算に頼らない選択も悪くないわ」

ウニョンは静かに微笑み、

ソンジュンの無骨な手をそっと握り返した。

世界を救った天才脳科学者は、自分の心に宿る確かな温もりを、

ただ静かに受け入れていた。


【終幕】

本作品は『私にキスできますか?」の作中作品です。

付録ですので緩やかに放置おねがいします。

今後、記載する表現に関して、常識に基づいて気をつけて参りますが、

もしもを考慮して15歳未満閲覧非推奨を設定させて頂きます。

こちらに何か落ち度がございましたら、お知らせ願います。

登場人物


チェ・ウニョン

天才脳科学者、高校教師

脳科学会に「性善説でもなく性悪説でもない『無による無』」の論文を出して提唱したが、

女性である事とまだ若い事が遠因となって、『無による無』は『成り行き任せの論ずるに値しない学説』として

笑われ、学会を追放されてしまった。世の中にあがらう事を諦め、生活の為に高校にて教師をしている。

大変な美人だが、脳科学者だけに脳に正直で、普通の女性よりもほんの少し下品で、ほんの少しビッチな発言もある。『S4(エス・フォー)』の被験者に選ばれた学生と一緒に志願して、システムの潜入を試みる。


パク・ソンジュン

ウニョンと同じ高校の体育教師。普通の高校教師レベルの知能だが、天才脳科学者のウニョンからすると、

結構、まぬけで馬鹿にみえる。ウニョンからは体つきと性格は良いとの評価で、顔は妥協できるレベルと言われている。ウニョンにほれているが、ウニョンはソンジュンをどう思っているのか不明である。


キム・ヨンジン

ウニョンの高校の男子学生。『S4(エス・フォー)』の被験者に選ばれる。

睡眠時のヴァーチャル・ダイブ中は高確率で戦争体験をさせられる。

それは戦争のスペシャリストの養成に思えた。


チェ・ハユン

ウニョンの高校の女子学生。『S4(エス・フォー)』の被験者に選ばれる。

睡眠時のヴァーチャル・ダイブ中は高確率で男性との接触、接待の体験をさせられる。

ヴァーチャル・ダイブ中は性的な行為の強要は無いが、

女スパイやハニートラップ要員の育成とも思える内容であった。



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