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第3話 小さな体という制限

目が覚めてから、どれくらい経ったのかはわからない。


 ただ、はっきりしていることが一つある。

 ――俺は、自分の体を思うように動かせていない。


 腕を動かそうとしても、空を掴むような感覚しかない。

 指に力を込めたつもりでも、ぎゅっと握れた気がしなかった。


 視界は狭く、ぼんやりとしている。

 天井らしきものが近くにあり、世界全体が滲んで見えた。


(……小さいな)


 その感覚だけは、妙にはっきりしていた。


 体が小さい。

 小さすぎる。


 寝かされている布は柔らかく、体に合いすぎている。

 首を動かすのも難しく、視線を向けるだけで精一杯だった。


(赤ちゃん……か)


 声に出そうとして、すぐに無理だとわかる。

 喉は動くのに、言葉を形にできない。


「……あ……」


 漏れたのは、意味を持たない音だけだった。


 脳ははっきりしているのに、体が追いついてこない。

 思考と肉体の間に、決定的なズレがある。


(生まれたばかり……ってところだな)


 正確な年齢はわからない。

 けれど、少なくとも話せるような段階ではないことは確かだった。


 視界の端に、小さな手が映る。

 丸く、柔らかく、力のない手。


 額にかかる髪の感触が、微かに伝わってきた。

 色は黒ではない。


(茶色……か)


 前の世界では、ずっと黒髪だった。

 この体は、完全に別物だ。


 その事実が、少し遅れて胸に落ちてくる。



 無意識に、頭の中で何かを確認しようとしている自分に気づく。


(ステータス……とか、ないよな)


 名前も、レベルも、能力値も見えない。

 画面も、表示も、説明もない。


 力が湧いてくる感覚もなければ、魔力のようなものも感じない。

 ただ、弱くて、守られる前提の体があるだけだった。


(最初から特別、ってわけでもなさそうだ)


 それは少しだけ、安心でもあった。


 世界を作る仕事をしていた頃、

 理由のない強さは、あまり好きじゃなかった。



 そのとき、喉の奥がひくりと動いた。


 理由ははっきりしない。

 不安か、空腹か、それとも単なる反射か。


 肺が勝手に空気を吸い込み、

 口が開いた。


「……あぁ……」


 次の瞬間、声は大きくなり、制御できなくなる。


 泣くつもりはなかった。

 けれど、体は完全に赤ん坊のものだ。


 感情とは関係なく、声が出て、涙が溢れる。


 視界が滲み、息が乱れた。


(……止まらないな、これ)


 そう思った直後、

 部屋の空気が、わずかに変わった。


 小さな足音。

 ためらうように、近づいてくる気配。


 視界の端に、人影が入る。


 こちらを覗き込み、動きを止めた少女。

 まだ幼く、どうすればいいのかわからない、そんな様子だった。


 しばらく、そのまま固まったように立ち尽くし――


 そして、ぽつりと。


 「……泣いてる……」

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