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第1話 帰り道のプラットフォーム

終電一つ手前。

 改札を抜けた瞬間、肩にのしかかっていた仕事の重さが、わずかに軽くなった気がした。


 今日も残業だった。

 デバッグに追われ、仕様は日々変わり、ディレクターの気まぐれな修正が突然降ってくる。

一見すると「好きなことを仕事にしている」華やかな職業に見えるかもしれない。

だがその実態は、売上や評価といった“数字”に縛られ、締切に追われ、理不尽と戦う日々だ。


「……はぁ」


 無意識にため息が漏れる。

 エスカレーターを上り、ホームへ向かう足取りは重い。


 ――もう少し、余裕のある人生でもよかったんじゃないか。


 そんなことを考えるのは、決まって一日の終わりだ。



 ホームに出ると、夜風が肌をなでた。

 都会の駅特有の匂い。鉄、油、コンクリート、そして微かに残る雨の名残。


 時計を見る。

 電車までは、あと三分。


 俺は黄色い線の内側に立ち、リュックの肩紐を直した。

 スマホを取り出そうとして、やめる。


 最近、ふと思うことがある。

 俺は世界を作る側なのに、自分の人生は誰かに操作されている気がする――そんな感覚だ。


 レベルは上がらない。

 スキルも増えない。

 セーブもロードもできない。


 現実ってやつは、クソゲーだ。


 向かいのホームでは、学生らしき集団が笑っている。

 スーツ姿の中年男性は、ベンチで目を閉じていた。

 誰もが、それぞれの一日を終えようとしている。


 そのときだった。



 ――ゴォォ……ン。


 遠くから、低い音が聞こえた。

 トンネルの奥から、電車がこちらへ向かってくる音だ。


 やがて、闇の中に光が見える。

 二つの白いライトが、ゆっくりと、確実に近づいてくる。


 不思議と、その光から目が離せなかった。


 ゲームを作るとき、よく考える。

 プレイヤーが惹きつけられる光とは何か。導線とは何か。


 今見ているこの光も、そういうものなのかもしれない。

 抗えない。自然と、視線が吸い寄せられる。


 音が大きくなる。

 風圧が、少しずつ強くなる。


「……」


 無意識に、一歩前に出そうになり、踏みとどまった。


 その瞬間――



 ドンッ


 背中に、強い衝撃。


「っ――」


 声にならない声が漏れる。

 誰かがぶつかってきた。


 バランスが、一気に崩れる。

 足がもつれ、地面を踏みしめようとするが、うまくいかない。


 視界が揺れた。


 黄色い線。

 ホームの縁。

 近づきすぎた、あの光。


「やば――」


 そう思ったときには、もう遅かった。



 足先が、空を踏んだ。


 体が前に投げ出される。

 時間が、異様にゆっくりと流れる。


 頭の中に浮かんだのは、後悔でも恐怖でもなかった。


 ――未完成のゲーム。

 ――まだ調整していないバランス。

 ――やりたかった企画。


 そして、どうでもいいくらい小さな願い。


 もう一度、最初からやれたら。


 白い光が、すべてを覆った。


 耳をつんざく音。

 衝撃。


 そこで、俺の意識は――

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