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なんとも思ってなかったクール系の美少女にチョコを渡されて告られて保留したタイミングで恋しちゃった学生の話。

作者: 竜田揚げ丸
掲載日:2025/02/14

どうも。バレンタインということなので書くだけ書いてみました。

稚拙な出来のお話ですが、楽しんでいただけたら幸いです。


ちなみに作者は生まれてこの方恋愛をしたことが無いので妄想で書いています。


この作品は、Pixiv様にも投稿させていただいています。

「西馬くん。バレンタインのチョコよ。貴方にも渡しておくけど、よければもらってくれる?」


そう言いながら俺に素っ気なくチョコレートを渡してきたのは古川さんこと古川真子さん。容姿端麗の上その声も透明感のある綺麗な声を持っているため、大半の男子がお近づきになりたい人だ。

彼女は成績優秀、文武両道というクラスメイトなのだけれど、基本的に素っ気ない上に誰も表情が動いたところを見たことがないという所謂「氷の女王」であり、彼女にアタックして三言で撃沈した男子は数しれない。

行事の準備などには協力的に参加してはくれるから決して協調性のない人というわけではないのだけれど、その鋭い視線をはじめとした佇まいでなんとなく人を敬遠させてしまうただならぬ雰囲気の人。それが俺から見た古川真子さんだ。


「あ、あぁ、うん…。ありがとう、古川さん」


「…お礼はいらないわ、クラス全員に渡しているものだもの。…友チョコ…というやつよ」


クラス全員にチョコレートを渡しているのは律儀だなぁとは思うのだけれど、なんというか素っ気なさすぎて効果がないような気がしないでもない。

しかしバカ正直にその感想を口にしたら最後、その綺麗な声ではなく恐らく射殺されんばかりの視線を向けられるだろうから口にはしない。代わりに、俺は感謝の言葉を口にした。


「友チョコだとしてもだよ。ありがとう、古川さん。美味しく食べるよ」


「……そう」


俺がそう言うと、古川さんは特に何を言うこともなく踵を返して自分の席につく…前に、一度振り返った。

何か地雷を踏んでしまったかと俺が内心どきどきしていると、古川さんは、


「…そのチョコ、あんまり賞味期限が長くないから。早く食べるのよ」


となぜだか賞味期限についてを口にしたあと、今度こそ席につく。そんな彼女の後ろ姿を数秒見つめた後、俺は視線を下に落として先程彼女から受け取ったチョコレートの箱を見つめる。

…そのチョコレートの包み紙のリボンは一見完璧だけど長さが違う上にどこか皺が多い…ような気がした。


──


「お前女子からもらったもんをじろじろ眺めたの? それってどーなのよ、いくらなんでも童貞がすぎねぇ?」


「…うるさいよ。冷静に考えたら結構やばいのは俺だって承知してるんだよこの野郎」


俺が昼休み、屋上で売り言葉に買い言葉で殴り返したのは幼馴染にして悪友、そして十数年生きてきた中で数少ない親友と呼べる男、須藤圭。

自称恋多き男…らしいが、その実態は付き合うまでは上手く行くが付き合ったが最後女の子に振られまくる運命にある可哀想な男だ。

とはいえ恋愛経験自体は俺よりもよっぽど多いため、今の状況ではこいつに頼るしかないのが現状だ。もっとも、相談したらめっちゃくちゃ引かれたんだけど。


「ま、そんなに気になるんだったら本人に直接聞いてみりゃいいんじゃね? 女王サマもお前の話なら聞いてくれるだろ」


「バカ言うなよお前…。付き合うどころか碌に話してもいないのに『これ手作り?』なんて聞けるか、自意識過剰もいいところだろ。逆に聞くけどお前最近ちょっかいかけ始めてる狭山さんにチョコもらったとして聞けるのかよ」


「聞くが? アプローチしてる子から貰えたってことはある程度気があるってことだろ?」


当然のように言う圭に対してだからお前はフラレるんだという言葉を辛うじて飲み込み、しかしながらなんかムカついたので睨んでおいた。

そんな俺の視線を「おぉ怖」と雑にあしらいながらアメリカあたりの映画でよく見る肩を竦めておどけるポーズをとる圭。やはりこいつとは一回徹底的に話し合ったほうがいいのかもしれない。

俺がそんな事を思いながら相も変わらず圭を睨んでいると、圭はこほんと一度咳払いした後に真剣な表情で指を一本ぴんと立てた。


「まぁその話は一旦置いといて、だ。お前の話なら聞いてくれるだろ、ってのは実は結構マジだ」


「そんなわけないだろ。俺から話しかけたところで古川さんが…」


「話は最後まで聞きたまえヨ、誠矢くん。あのな、俺が見た限り古川さんはお前とそれ以外にかなりの対応の差があるぜ?」


「はぁ…? それってどういう意味だよ?」


圭の若干ムカつく言い方に少しだけ腹を立てながら聞き返すと、「あのなぁ…」とため息混じりにわざわざメガネをかけて先ほどの発言の意図を解説する体勢に入った。これは圭が本気で人に物を教える時のポーズなので、どうやら圭は本気らしい。


「…お前だけなんだよ、古川さんがチョコ渡したの」


「……え」


古川さんは嘘を言っていた。圭の話を聞く限りそういうことらしい。


「それにな、古川さんと十分以上まともに話した男は教師を除くとお前だけなんだわ。…だからお前、実は古川さん狙いの男子に密かに目の敵にされてんだけどな」


「えぇ…。俺も大した事話してないんだけど…」


「まともに話できたってだけでもすげぇんだよ、お前。…そういや今思い出したけどお前体育祭の借り物競争で古川さん連れてったよな?」


「えっ? あぁ、うん、そうだなぁ…。苦肉の策で、仕方なく…」


ここにいる圭をはじめとする色んな生徒の色んな策謀に振り回された末に借り物競争に出場させられたのだけれど、確かその時引いたお題が『綺麗なもの』だった。あまりにも主観的なものだからどうしていいかわからず、でも時間がなかったから仕方なく『綺麗な人』である古川さんに全力で頭を下げてゴールまで付き添ってもらった。

その時の古川さんは『貴方のお題に私が必要なの? なら、一緒に行くわ』といつもの鉄面皮で快諾してくれた。…ゴールしたあとはお題を確認した古川さんにその後ずっと無言で睨まれるわ、周りから変な目で見られるわで心底やり辛いことこの上なかったのが限りなく印象に残っているのだけれど。


そんな話を圭にしたところ、圭は無言で頭を抱えはじめた。そんな彼の様子を心配した俺は、圭に声をかける。


「…大丈夫? 体調悪い?」


「……それ答える前に確認だけどよ。お前文化祭のときは古川さんとしょっちゅう一緒だったよな?」


「確かに、準備のときはなんだかんだ一緒に居た時間は長かったな」


俺はそう言いながら文化祭の準備の時の記憶を引っ張り出す。ダンボールを色々やってる最中に彼女といくらか話す機会があった。確かその時の話題は基本的には文化祭の出し物に関するものだったけど、でもなんだかんだの内に体育祭での借り物競争の話になって互いに気まずい雰囲気が流れていたはずだ。

…それ以降は話題がなかったから会話もクソもなかったけど。


「…俺の予想が正しければ、だけどよ。誠矢、驚くなよ?」


そう言って、圭はすぅはぁと何度か深呼吸した。一体何を驚けというのかその瞬間までの俺にはわからなかったけど、しかし圭の衝撃の発言に目を見開くこととなった。


「もしかすると、古川さん…お前に気があるのかも、しれねぇ」


「えっ」


「だとすると、お前がもらったっつーチョコ…マジで包装込みで手作り、だったりするかも…」


「…マジ?」


「…わっかんね。だって古川さんだからなぁ…でも直接チョコ渡してるしなぁ…」


呻く圭を横目に見ながら、俺は思わず空を見上げた。

あの古川さんがもしかしたら俺に気があるのかも、かぁ…。もしそうだとしたらもちろん嬉しいっちゃ嬉しいけど、でも仮に付き合うとしても俺でいいのかなぁ…。

そんなことを思いながら遥か上空を流れる雲を眺めていたけど、ふと気がついたら圭はこちらをじとりとした視線で見ていた。


「…お前『俺でいいのかなぁ』とか思ってたろ」


「えっ…なんでわかった?」


「何年の付き合いだと思ってんだこのバカ。…いいか? もし、もしだぞ? 古川さんに限らずお前を好きになってくれた人は、『お前でいい』んじゃなく『お前じゃなきゃダメ』なんだよ。大体よく考えてみろ、あのヒトが妥協で男を選ぶタマかっつの」


…言われてみれば、確かに。俺でいいとかそういうのは、好きになってくれた人に対して失礼だろう。いやまぁ正確に言えば古川さんが俺のことが好きになってくれたとかは実際のところどうなのかさっぱりわからないけれど、でもこれに関しては圭の言う通りだ。


「…うん、お前の言う通りだよ圭。ちょっと卑屈になりすぎてたみたいだ」


「わかりゃいいんだよ。んで、これからどうすんだ?」


「どうする…って?」


「古川さんにどう返すんだよって話だよ。多分だけど、お前古川さんに恋愛感情的なモンを持ってるわけじゃねぇんだろ?」


確かに彼女は綺麗だとは思ったけど、言うほど多く話をしていたわけでもない古川さんに恋愛感情を持っているわけじゃない…と思う。そもそも向こうも本当に俺に恋愛感情を持っているかはわからないのだ。

ならば、俺がするべきことは彼女と向き合うこと…だと思う。だから、俺は。


「…とりあえずは友達を目指そうかな」


「うっわ、ヘタレかよ」


「自意識過剰かもしれないだろって。何回この話したよ」


「そんな言うほどじゃねぇだろ。…ま、精々頑張れよ。友達から恋人にっての、そこそこあると思うぞ?」


そう言って、俺の頼れる幼馴染は実年齢に似つかわしくないニヒルな笑みを見せながら立ち上がって手をひらひらさせながらその場を去っていく。

俺はそんな幼馴染の後ろ姿を眺めながら、古川さんにどうやって声をかけるかをシミュレーションし始めるのだった。


──


授業は終わった。普段ならさっさと荷物を纏めた後に圭をひっ捕まえて帰るところだけど、でも今日はまだやることがある。

昼から色々考えたが、結局いい案は出なかった為直球勝負で行くことにした俺は号令が終わった後に荷物を引っ掴み、教室から出ていこうとする古川さんを呼び止めた。


「──古川さんっ。ちょっと時間、いいかな」


俺が彼女に声を掛けると、彼女は静かに振り向いた。

いつもと変わらない、威圧感を纏わせる鋭い視線。

俺よりも若干背の高い彼女は少しだけ俺を見下ろし、かなり静かな声で「…何?」と極めて冷淡に聞き返してくる。

大体の人はこの冷淡な対応に尻込みして退くけど、でも今日ばかりはそういうわけにはいかない。


「今朝の件だけど」


俺が話を切り出すと、古川さんはわずかに驚いたような表情を見せた。彼女の見たことのない表情に俺もまた少し驚きながらも話を続けようとすると、彼女は「…ちょっと待ってくれる?」と遮ってきた。

なんだかんだでいつもは話を最後まで聞いてくれる彼女にしてはかなり珍しい対応に俺が「…んむ」とかなり急に言葉を詰まらせると、彼女は静かに告げた。


「……外で話しましょう。ただでさえ目立つ私に西馬くんが尋常じゃない勢いで話しかけてきたから皆に注目されてる。このままじゃ私も話し辛いことこの上ないわ。…行きつけの喫茶店があるの。よければそこで話さない?」


「えっ」


古川さんのその発言に俺が思わず教室を見回すと、教室内の大半の生徒たちがこちらの様子を窺っていた。特に圭は俺を見て悪鬼が如くにやにやしている。

…しまった、古川さんに話しかけるっていうことに意識を割きすぎてて他の人がどういう反応するかが意識の外だった。古川さんとの話がどうなるにしても、これは間違いなく噂にはなるやつだ。

そう思ったけど、しかしこの程度で退くわけにはいかない。


「……わかったよ。まず学校を出ようか」


俺が古川さんの提案を承諾すると古川さんは「それじゃあ、行きましょう」と相も変わらず素っ気なく言うと歩を進め始め、俺もまたそれに付いて行く。当然ながら学校から出ていくまでの間の視線はかなり多く、俺はこれからのことも相まって落ち着かない気分になるのだった。


──


古川さん行きつけの喫茶店は学校から出て十数分のところにあった。モダンな印象を受ける内装に、繁盛する時間ではないのかかなり多い空席、そしてダンディという言葉がかなりしっくりくるマスター。それらは隠れた名店という言葉を連想させるには十分すぎる要素だった。

俺がお店を観察していると、古川さんは慣れた手付きで窓辺から離れた席に陣取った。…マスターに来訪を知らせなくていいのかとは思ったけど、恐らく古川さんの手慣れた着席の様子を見るに別に空いている時間帯だとそういうのは必要ないタイプの喫茶店なのだろう。俺は一人で勝手に納得すると古川さんにならって特に何も言わずに彼女の正面の席に着席した。

その瞬間にマスターは俺達の席にゆらりと近寄ると「ご注文は?」とお決まりのセリフを口にした。


「ケーキセットを一つ。…西馬くん、これ。メニューよ」


「えーっと、じゃあ…カフェオレをお願いします」


古川さんと俺がそう言うと、マスターは穏やかな笑みを浮かべ「承知しました」と言って注文の品を作るために悠々とした足取りで席から離れていった。

それを確認して古川さんを見据えると、彼女もまたこちらを真っ直ぐ見据え、「話って何?」と明らかに訴えている。

その視線を真っ直ぐ受けて、俺は覚悟を決めながら口を開いた。


「古川さん。話っていうのは朝のチョコの件だよ」


「………」


俺がそう話を切り出した瞬間に、古川さんは相変わらず無言でこちらに視線を向け──そしてため息を吐いた。

俺が彼女のあまりにも珍しいその態度に面食らっていると、彼女はかなり気まずそうな視線を俺に向けてきた。


「……私の予想が正しいのなら、気づかれてしまったのよね?」


「気づいた…っていうか、圭…須藤が教えてくれたんだ。もしかしたら、その…」


「…私が貴方を気にしてること、須藤くんにも気づかれてたのね…」


古川さんはいつも通りに、しかし俺から視線を外しながら落ち着き払ってそう言った。秘密がバレてしまっても彼女は冷静なんだなぁと俺がそう思いながら彼女の横顔を眺めていると、不意に彼女は再び俺に視線を合わせてきた。


「……西馬くん。今私はかなり理不尽なことを言いたいのだけど、もしそれを言ったとしても我慢してくれる?」


「えっ? あっ、うん」


「ありがとう。それじゃあ…。…すぅ、はぁ…こほん。…こんな私が貴方を好きになってしまったのは、貴方が悪いのよ?」


「えっ?」


突然お前が悪いと言われて、思わず俺は間抜けな声を出してしまった。瞬間、古川さんはとんでもない勢いで俺を詰めてきた。顔を赤らめて恥ずかしさを堪えているのがわかるその表情はもはや鉄面皮でも氷の女王でも高嶺の花でもなんでもなく、どこにでもいる秘密がバレてしまった普通の女の子だった。


「だって貴方、下心なく本気で綺麗だって思ってるって行動で伝えてきたじゃない。文化祭の時には皆に距離を置かれてた私に普通に話をしてくれてたし、意識するなってほうが無理に決まってるでしょう? ちょっと優しくされただけで貴方に恋したなんていくらなんでもちょろいわよね、自分でもそう思うわ。でも好きになったものは仕方ないじゃない。貴方にチョコを渡すときだって冷静なふりしてチョコを渡すときに臆して嘘をついたのよ、笑うなら笑ってちょうだい」


半ばやけくそ気味に言い切ると、古川さんは顔を赤らめたままぷいっと顔を逸らしてしまった。…なんというか、古川さんは思ったよりも感情豊かで面白い人なのかもしれない。そう思ってくすりと笑うと、古川さんは「…本当に笑うことはないじゃない…」と拗ねたようにじとっとした視線を向けてきた。

いじけてしまった古川さんをどうやってなだめようかと思ったところで、マスターが頼んでいたものを持ってきた。


「ご注文の品です。…それとお二人さんよ。これは個人的な意見なんだが、いくら今客がいないっつっても公共の場で騒ぐもんじゃない。一応俺もいるってことは忘れないでほしいんだが」


「す、すみません…」


マスターに注意され、俺も古川さんも申し訳ない気持ちになってしまい二人揃って彼に頭を下げる。以降は声のトーンには気をつけよう。そう思ったところで、マスターはふっと息を漏らした。それに反応してちらっとマスターの顔を見ると、彼は優しい笑みを浮かべていた。


「素直に謝ってくれたことといつも通ってくれてる嬢ちゃんに免じて客がいねぇ今は騒いでも許してやろう。俺ぁお前らみたいな青春してるやつの話を聞いてるのも結構好きだからな」


「あ、ありがとうございます、マスター…」


「おう、気にすんな。…っと、個人的な話はここまでだな。ごゆっくりどうぞ」


持ってきたものを俺達に渡し、マスターは足取り軽く鼻歌さえ歌いながらカウンターに戻っていった。どうやら本当に俺達の会話を楽しんでいるらしい。このお店大丈夫なのかな…と俺がその背を見ながら思っていると、古川さんが「西馬くん」と呼び掛けてきたので、俺は古川さんに視線を戻す。


「改めて言うわね。私は貴方の事が…。…貴方の事が、…す、好き、なの…。だから、その…西馬くんさえ良ければ私と交際してもらえない、かしら…?」


顔を赤らめながら、おずおずと改めて告白してきてくれる古川さん。彼女はいつもと違って自信がなさそうで、その瞳は不安に揺れている。

圭みたいに恋愛経験がある訳じゃないから、俺にはどうするのが正解なのかはわからない。あいつならきっと「オーケー、俺達付き合おう」というのだろうけど、でも俺には相手をよく知らないのに軽々しくOKを出すのが正解だとは到底思えない。

だから、俺の答えは。


「…古川さんと今付き合うことは、できない。だからまずは、友達から始めよう」


「………えっ?」


思っていた答えと違ったのか、古川さんは目を見開きぽかんと口を開けて素っ頓狂な声をあげた。…やっぱりこの人意外と感情豊かだ。

思わぬところでそう思いながら、しかし俺は話を続ける。


「付き合うにしても、まだ俺は古川さんのことをよく知らないからね。その状況で付き合ったら、お互い思ってたのと違うって思うかもしれないから」


「それは…そうかもしれないけど…」


「確かにこの先ずっと友達のまま…かもしれないけど。でももしかしたら…えぇと、なんていうか、その…今度は俺の方から、告るかもしれないし。別にこれで終わりとはかぎらないっていうか…」


俺は言ってる途中で照れてしまって、古川さんから目を逸らしながらそう言った。告るという行為を想像してみたらなんとなく恥ずかしくなってしまったのと、もう一つ。


「……わかった、今はそれで構わないわ。まずはお互いのことを知りあって、そしてその上で…今度こそ首を縦に振らせてみせる。心の準備をしておいてね?」


いつもの鉄面皮とは違う、このお店に入って感情豊かな姿を。そして先程までのきょとんとした顔とは打って変わって今日一番の明るい表情を見せる古川さんを見て彼女のことを可愛いと心の底から思ったから、つまり…。


……いや、回りくどい言い方はやめよう。


後から付き合うかもしれないとはいえ、一応はキープという形にしてしまった女の子を相手に。

俺は恋をしてしまったのだった。


──


「…んで? お友達になったはいいけどお友達で済ませたことを後悔してるって? バカなのお前? …いやバカに失礼だから訂正するわ、お前クソバカなの?」


「言うなよ…。いやホントに、いや…ほんと…もうマジで…はぁーっ…」


そして翌日。昨日もそうしたように昼休みに学校の屋上にて俺は圭に昨日あった出来事とそれに対する後悔を吐き出していた。

俺のしょうもない後悔を聞かされることになった圭は心の底から、一点の曇りもなく呆れているのが視線だけでもわかる。


「あぁぁぁぁ…なんで無駄にカッコつけたんだよ昨日の俺ぇ…」


「後悔するくらいだったら付き合っときゃよかったろうがこのバカ。だからお前は童貞なんだよ」

 

「圭もまだ童貞だろ、偉そうにするなよ…」


俺のその発言に圭は「てめぇ…」と若干の怒りを露わにしていたけれど、でも俺の様子があまりにも酷かったからかすぐにその怒りを引っ込めた。いつも思っているけど、なんだかんだで圭はいいやつだ。


「まぁ、なんだ。ちっとばかりカッコつける必要とかはあるだろうけどよ、友達と言うほど変わるもんでもねぇだろうさ」


「…そうなの?」


「そうなの。いいか、例えば一緒にメシを食うとするぞ? デートっつー名目ならそりゃあいいところを選びたくなるが、結局のところメシはメシだ。本当に好き同士なら多分その辺の牛丼屋行ってもいい感じになるだろうよ」


「…本当?」


「嘘だ。多少見栄張って多少の点数は稼いどけ」


「なんで嘘ついたんだよ…」


親友との妙に小気味のいい会話をしたあと、俺は空を見上げた。

あんなことを自信満々に言っちゃった以上、すぐに告るわけにもいかないよなぁ…。これからどうしようかなぁ…。

俺がそんな事を思っていると、圭は「おっ」と何かに気づいた声を上げた。


「圭? どうし…」


俺が圭の視線を辿ると、そこには噂の古川さんがそこにいた。

どうやら彼女は俺を探してたらしく、当の古川さんは俺の姿を認めた瞬間にほんの僅かに…よく見ないとわからない程度に頬を緩めた。


「やっと見つけたわ、西馬くん。須藤くんと一緒だったのね?」


「一緒っつーか俺はこいつに拉致られて愚痴を聞かされてただけの被害者っす。古川さん、こいつの彼女ならなんとかしてくださいよ」


「かのっ…け、圭っ! 俺と古川さんはまだそういう関係じゃないってさっき散々…!」


俺がそう言った瞬間に、圭はにやりと邪悪に笑って「まだぁ…?」と悪辣にからかってきた。こいつ、と思いつつ俺が少し顔を熱くさせて圭を睨みつけていると「…まだ、ね…」と古川さんが呟いたのが聞こえた。

俺がそちらに目を向けると、彼女は。


「……えぇ、西馬くんの言う通り。私はまだ西馬くんの彼女でも何でもないわ。だけどいずれは彼の大事な存在になってみせるつもりよ。だから須藤くんも応援していてちょうだい」


古川さんはいつもの鉄面皮でそう言い切ると俺は更に顔を熱くし、圭はぱちぱちと拍手しながら「おぉう、積極的ィ」と古川さんを言いながら古川さんを思いっきりはやし立てていた。

そして数秒の間いつも通りの表情を見せていた古川さんだったのだが、しかしぽんっと突然顔を赤くしたかと思うと。


「…ごめんなさい、ちょっと調子に乗ったわ…。…二人とも、できれば忘れて…」


と顔を抑えながら俺達から逸らし、思い切り恥ずかしがっていた。そんば彼女の様子を見て今まで抱いていたイメージが崩れたのか、圭はぽかんとした表情を浮かべている。今までのクールな古川さんのイメージとは全く違うのでそれも仕方のないことだろう。


「…思ってたより表情豊かなんだな、古川さん。なんつーか、あの顔面とスタイルの良さであんなんされたらそりゃ惚れるわ…」


「だよな…」


「お前マジで絶対ものにしろよ? あんまもたもたしてると掻っ攫うからな」


「わかってるよ…。その代わり、圭にもいろいろと付き合ってもらうからな」


「あんま必要ねぇと思うんだけどなぁ…」


圭のそんな呟きは空に消えていき、そしてその後の時間は喋っては照れる俺と古川さんを圭が全力でいじり続ける時間になった。


そして、こんな小さな出来事から僅か二カ月と十日後。「友達として互いを知ろう」という期間に俺と古川さんがいちゃつきまくったせいで腹を立てた圭の手引きによって付き合いはじめることになったのだった。

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