プロローグ
まだ雪が残る北海道の高校の入学式が行われている。新しい制服に身を包み、少しカビ臭い体育館に並べられたパイプ椅子に新入生が行儀良く並んでいる。体育館にはマイク越しに校長先生の声だけが響いている。北海道立小樽桜宮高等学校の第95回の入学式は何滞りなく終了した。
坂田慎吾は1年2組になった。高校自体はそこまでの難易度ではなく、市内2番手といったところだ、中学時代の同級生はあまりいないが、坂田にとってはむしろ都合が良かった。
「みんな入学おめでとう。これから1年間担任になる、赤尾です。このHRが終わった後は今日は解散になりますが、明日からは学校案内や部活動紹介があるので、これからの学校生活を充実させるために気を抜かないように!ではこれで今日のHRを終わります。また明日。」
担任の赤尾先生からの短い祝辞で締められたHRが終わった。坂田はこれからの高校生活に夢を膨らませていた。
勉強に部活に恋愛にバイト、高校生を構成するものといえばこの4つだろう。坂田本人も中学時代はバスケ部に入っていたが、高校でも続けるつもりは無かった。身長的なものが一番の要因だ。以前に高校のパンフレットを見たときに運動系も文化系の部活も一通りあったがいまいち目を引く部活が無かった。明日の部活動紹介で高校からでも始められる部活があればと思いながら家へと帰ることにした。
下駄箱に向かっている途中に白い胴着に袴姿の人達の集団とすれ違った。その姿は洋風の建築物とは相容れない服装だったが、堂々とした立ち振る舞いはそんなことすらも忘れさせる様だった。
坂田の通学方法はバスになるが、桜宮高校に通う生徒の8割はバスで通っていることから、帰りのバスとはいえバスの中は桜宮の生徒たちでごった返していた。そんな何人乗っているかも分からないバスの中だからこそ、知り合いも多少乗っていた。慣れない満員バスの中で坂田は他の中学の知り合いと駅前の乗り換え先まで、これからの挨拶と何の部活に入るかの話をしていた。
そして次の日の部活動紹介の時間になった。昨日と同じ体育館に今度は全校生徒が集まっている。高校の方針的に生徒は必ずどこかの部活に入部しなければいけないらしく、活動の程度はあれど部活自体は活発だそうだ。
野球部やサッカー部といったもう入部する人が確定している部活の紹介は流して聞いていた。中学ではあまりない部活の紹介もあったが、だからといってラグビー部やボート部などに入る気も起こらず、文化系にしようかとも思っていたところ、弓道部の番になった。
部員の全員が白い胴着に黒の袴姿はやはり目を見張るものがある。坂田は先輩方の姿に一目惚れしたのは事実であった。坂田は思わず呟いた。
「よし。弓道やってみよう。」
坂田の何かが動き出した。そんな気がした。
坂田慎吾 この物語の主人公。
赤尾 1年2組の担任。