誰彼構わず、とはいかんのだ
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
本当に好きなものほど、誰にも言えないんですよ。
心の中で愛でる趣味があるんで。
彼女の好きなもの。珈琲、紅茶、喫茶店のケーキ。だから何時も行動を共にして、『好きにして良いよ?』と言うと、大抵純喫茶に連れ出してくれる。
連れて行くのは何時も違う店だった。どれも雰囲気があって、美味しいものを提供してくれる。
今日は珍しく、二度目の来店だった。真紅の明かりが灯る、隠れ家の様な店だった。彼女は何時もの様に珈琲とケーキを注文し、安心した様に肩を下ろした。
「お友達と行く時も、此処に連れて行くの?」
「いいえ。……そうね……うん。貴方が初めて」
少し視線を視線を泳がせて、歯切れ悪くそう言った。
友人と過ごしている時の彼女を遠くから見た事がある。明るく、無邪気で、従順な子だった。今の様な陰りのある女の側面はなかった。
後から彼女直々に話を聞いた限りだと、『お友達の前では従順で可愛い子でいるの。ずっと一緒に居るわけじゃないから、お愛想売れるのよ。彼氏には無理だけど。論外だけど』という返答が返ってきた。
「頼むものも違うよ。あの子達の前では珈琲は頼まない。カフェオレとか、若しくは紅茶。
苦いのあの子達、苦手だからさぁ。それなのに『飲んでみようかな』って無理、するからさ」
女子特有の空気感を、私は分からない。でも協調性を重んじていて、それから排したものは、奇異の目で見られる。と聞いた事がある。
きっと誰よりも其れを嗅ぎ分けている。嗅ぎ分けているから、下手な真似をしない。
「此処、大好きなんだよね。だから私にとっては一見さんお断り。連れは選ばせて貰うよ」
「どっちも好きなんだ」
そう言うと、ツンとそっぽを向いた。
彼女は友人をこの場所に連れて来て苦手な物を頼むのも、それで『苦い……』と言われるのも好きじゃない。そうして店側から弾かれるのを何より拒んでいる。
計算高い。伊達に顔を使い分けてない。
「本当に好きなものは、誰彼構わず。とはいかないね。リスクがデカイから」
自分が紹介したものが、相手の好みに合わなかった時、空気が濁る。だからこそ、余り連れ出したくないのだろう。
オマケ 友達故になせる技
別にあの子達の事は嫌いじゃない。素直だし、嘘は言わないし、比較的気が楽。でも全てにおいて、私と好みが合うかと言われればそんな事はない。違う人間なのだから当たり前。
だからこそ、食事の時の選択はドリンクバー一つとっても演算する。嫌なら雑音は軒並み排して駒を進めなければ。
あの子達は珈琲を好まないし、目の前で飲んだら『珈琲飲むの? 大人〜』『私、苦いの駄目〜』と言った話題になる。ぶっちゃけ返しが難しいので、珈琲の選択権は配して……。
そうなると、ジュースとかの選択権。そう言えば前にお勧めされてた葡萄があったな……今回それで行くか。
「ただいま〜。お勧めしてくれた葡萄、選んで来たよ」
吸引力中……。
「どう?」
「私は白い方が好きかも。この後味スッキリさが良い」
「ノーマルはカルピス割もお勧めだよ〜」
シナリオ通りの会話。この会話自体、嫌いじゃない。嫌いじゃないから一緒にいる。気だって使える。他の誰が何と言おうと、これが私の『親しき仲にも礼儀あり』なんだわ。空気の濁りを自分で生んだ時点で、『私』失格なんだわ!!
「今日も会えて楽しかった〜。うー……帰りたくない……。連れて帰りたい」
「えー、嬉しい!! 私は休日ガラ空きだからさぁ、何時でも待っとーよ」
その言葉が一番聞きたかった。その言葉を聞く為に、地雷以外は全て許せる。まぁ、お友達だからなせる技だな。
女子特有の空気感だと思うんですけど、何となくお揃い好きなんですよ。
だから相手が食べたり飲んだりしてるのものが気になると、感想聞くだけじゃなくて、自分でも試すんです。
これはテレビでもやっていた事なので、少し信憑性はありそうですね。
『えー、同じの食べて欲しいよー!!』
って零していた彼女さん。分からなくは無いんですよ。
そこで此処からが問題。
相手が苦手なものを、自分が好きで頼んだ時。
ちょっと好奇心誘われて、
『自分でも試してみようかな。苦手だけど、お友達がやれるなら自分でも大丈夫そう!!』
みたいな空気になるんですよ。
その後はもう、火を見るより明らかなんです。
ショボーンっとした顔で後悔するんです。
だから徹底的に好みは合わせます。
何なら食べる金額まで合わせます。
特に普段は注文しないような食べ放題系 (ドリンクバーとか)も合わせます。
ノイズは全てねじ伏せる。自分で産むことは許さねぇ。
精神です。
だからこそ、自分の好みを晒して『好みじゃないかな……』と言われるのは本当に堪えるんです。
もう立ち直れない。
自分の好きなものは全肯定して欲しい我儘精神なので、相手に勧めるのは血眼です。
今回の彼女はそんな子です。
この人は私の好み生き写し。
だから絶対に自分の意見を受け入れてくれる。
という精神で連れて来てます。
好きなもの程言えないですよ。
大事な相手に言われるからこそ、その傷つき方は尋常じゃないんで。
だったら最初から選択肢に入れません。
此処でこの例え出すのは凄いセンシティブなんですけど、同性愛者が同性愛者である事を友人に話すのと似てるんです。
受け入れてくれたら生涯のお友達です。
でもそうじゃなければ絶交です。
それぐらいなんですよ。大袈裟ですけどね。