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幼馴染もの

俺のことが大っ嫌いなはずの幼馴染の様子が変だ

作者: テル

「将来は朝比奈 夏樹(あさひな なつき)くんのお嫁さんになるぅ!」

「約束?」

「うん、約束! 他の女性お嫁さんにもらったらダメだからね!」


 小さい頃、幼馴染の更科 琴梨(さらしな ことり)とそう約束した。

 小さい頃のありきたりな約束だ。俺は普通に覚えていたが、琴梨は覚えていないだろう。


 お嫁さんになるまでは行かなくても俺は琴梨と友達......親友のままでいたい。

 俺は琴梨のことを、1番の理解者であり1番の親友だと思っていた。俺は。

 向こうはおそらく違うのだろう。


 変化が生じたのは高校に入ってすぐのことだった。すごく避けられるようになった。

 話しかければ無視されるし、中学時代のように一緒に帰ってくれなくなった。

 それだけなら別に気にもならないのだが、目があったら睨まれるし、事情があり、話す時は嫌な顔をされる。

 心当たりは特にない。中学時代までは仲が良かった。

 終盤の時は少し様子が変で、オドオドしかったような気がするが、こんな風にやられることはなかった。


 きっと忙しいだけなのだろう。


 琴梨に嫌われていると思いたくないのでそう思い込むことにした。

 別に暴言を言われる訳じゃないし、大っ嫌いって真正面から言われたことはないのだ。

 色々な線が考えられる。


 しかし、そんな考えはあっさりと切り捨てられることになった。

 俺が廊下を歩いていた時だった。目の前で琴梨含む女子3人が目の前で俺の話をしていた。

 バレると流石にまずいので少し隠れながら聞いてみることにした。

 盗み聞きする罪悪感はあったが好奇心の方が強かった。


「琴梨っちってさ、夏樹くんのことどう思ってるの?」

「な、夏樹!? え、えーっと......あ、あんなやつ嫌いに決まってるじゃない。大っ嫌いよ! 目を合わせるのも嫌だし話すなんてもってのほか。あーなんであんなやつと幼馴染なんだろ」

「ふーん、そうなんだ」


 俺は聞かなければ良かったと後悔した。まさか俺の悪口を琴梨が言っているとは思わなかった。

 思いたくなかった。しかしこうも堂々と言われてしまうと受け止めざるをえない。

 俺......そんなに琴梨に嫌われてたのか。胸が痛い、締め付けられる思いだ。


 もう琴梨と関わるのはよそう。


 ***


「夏樹、ちょ、ちょっといい?」


 放課後、1人帰ろうと廊下を歩いていると琴梨から話しかけられた。

 普通に反応してしまいそうになったが、そういえば琴梨は俺のことが嫌いだったことを思い出した。

 何か用事だろうか。本当は俺と話すのも嫌なのだろう。

 現に話しかける際に言葉が詰まっていて、躊躇がうかがえる。

 さっさと終わらせてあげよう。


「どうも、更科さん。俺に何の用でしょう」

「......え?」


 琴梨は目をぱちぱちとさせた。いやまあ確かに今までタメ口だったのに急に敬語にびっくりするものだ。

 しかしもう関わらないと決めた以上、こういう他人行儀の態度の方がいい。

 向こうとしても距離が遠くなって嬉しいだろう。

 問題としてはこちら側が精神的に辛いことだが、琴梨の俺への印象がこれ以上下がるよりはマシだ。


「なんでそんなよそよそしい態度なの?」

「いや、別に。気にしなくていいですよ」

「私が気にするから。ていうか名前呼びじゃなくてなんでいきなり苗字呼び? え? ドッキリ? あんたって昔からそういうところ......」

「ドッキリじゃなくて本気です......それで何の用ですか?」

「......え、なんで?」


 そうして話していると1人の生徒がやってきた。


「夏樹くん、今日一緒に帰ろ〜」


 最近仲の良い女友達の甘中 春寧(あまなか はるね)である。

 俺には数年前ゲーム内でネッ友がいたのだが、アカウントが何故か消失してその人と音信不通になってしまった。

 そして訳あってそのネッ友が実は春寧だったということを知り、数年越しの再会を果たして、ネッ友からリア友へと昇華した訳である。

 普通にそのネッ友のことを男だと思っていたので驚いたが、女子でも友達であることに変わりなく、楽しいので問題は何もない。


「あ、琴梨っちじゃん、やっほ」

「春寧ちゃん......」


 どうやら2人とも知らない仲という訳ではないようで、名前で呼び合っている。


「......2人とも仲良いんだ」

「うん、そうだよ〜。昔に連絡取れなくなったネッ友でね。まさかまさかの偶然現実で再会しちゃったんだー」

「へ、へーそうなんだ」

「あ、なんか夏樹くんに何か用事? 私もしかして邪魔しちゃった?」

「う、ううん。別に何もだから......き、気にしないで」

「そっか、じゃあ夏樹くんいこー。新しくできたカフェの店行きたいのー!」


 そう言って春寧は俺の腕に絡みついて引っ張った。

 琴梨の俺への用事は良いのだろうか。急ぎじゃなければ明日学校で聞けばいいか。

 聞きづらいけどな。


「じゃあまあ、さようなら」

「ばいばい、琴梨っち」

「......ばいばい」


 ***


 それから約2週間が経った。

 琴梨と話す時は敬語を心がけて他人行儀な態度にした結果、距離を遠ざけることができた。

 遠ざけたくて遠ざけた訳でもない。......俺は琴梨と仲良くしたい。

 でもこの対処がベストなのだろう。今はある心の苦しみもおそらく次第になくなっていく。


 そしてそんな日の帰り道でのことだった。

 

 琴梨が夕焼け色に染まった空の下、1人で公園のベンチに座っていた。

 虚ろな目をしており、顔は曇っている。

 俺は反射的に彼女の元へ行こうとした。しかし踏みとどまった。


 俺が行っても余計に彼女に負の感情を生ませてしまうだけである。

 嫌なことがあったのに嫌いな人物が慰めにやってきたら泣きっ面に蜂状態だ。


 そのまま無視して帰ろう。


 頭ではわかっていた。関わらない方がいいって。

 でも放っておけなかった。疎遠になっているとはいえ十数年の付き合い。


 気づけば俺の足は再度公園へと向かっていた。


 これで本格的に琴梨に嫌われるかもしれないが、それはそれで逆に切り替えられる。

 

「隣座るぞ」


 俺は琴梨の横に座った。


「その声......な、夏樹......? な、なんで夏樹がここに」

「帰り道なんだから当たり前だろ」

「それもそっか......ていうか今はタメ口なんだ」

「あー、えっと、まあうん」


 手痛いところを疲れて少し口篭ってしまう。

 

 琴梨は一瞬顔を上げたが、また視線を下に戻した。

 顔色がさらに暗くなっているようにも感じる。やっぱり野暮だったかな。


 そして琴梨は重い口を開けるように話し出した。


「......ねえ......夏樹」


 声はだいぶ震えていて、涙こそ流していないが今にも泣き出しそうな様子だった。

 これには流石に俺も胸を打たれた。かなり重い悩みのようだ。

 

「......私のこと......嫌い?」

「え? 琴梨が嫌い? 別に嫌いではないけど」


 何を話し出すかと思えば、そう俺に聞かれた。

 

 俺が琴梨を嫌いになったことなんて今までにない。

 喧嘩もしたしイラつきを感じたことはあるけど正直ずっと親友として一緒にいてほしい。

 最近その気持ちに封を閉じなければならない時が来ているが、本心としては仲良くしたい。


「じゃあさ......なんで他人行儀なの? 夏樹が私と話す時......赤の他人みたいな接し方で話すじゃん.......幼馴染なのに......」


 そこまで言って琴梨はポタポタと涙をこぼし始めた。


「酷いよ......夏樹......」


 これにはどうしていいか分からず内心困惑していた。

 なぜ俺のことが大っ嫌いなはずの彼女が涙を流すのか。

 俺はあの態度が正解だと思っていた。しかしそれがどういう訳か彼女を傷つけてしまったらしい。

 だって、俺のこと大っ嫌いって......。


「私は......夏樹のこと好きだったのに」


 ......どうやら俺は盛大に、馬鹿で酷くて愚かでどうしようもない勘違いをしていたらしい。


「......ごめん、琴梨。でも嫌いになんてなるはずないだろ? 俺はお前を嫌いになんてなったことがない。むしろ好きだ。これからも一緒にいたい」

「......本当?」

「ああ、本当の本当だ」

「もう、絶対......嫌いにならないで......!」


 そう言って琴梨は俺に抱きついた。


 ***


「ああ、ご、ごめん。私急に抱きついちゃって」

「いいよ。仲直りのハグ?」

「そもそも喧嘩してたのか分からないけどね」


 すっかりと琴梨の顔色は元に戻っていた。目元は少し腫れているが、いつもの笑顔を浮かべている。


「ち、ちなみにだけど、す、好きってそう言う意味じゃないからね!? 友人としてって意味だからね!?」

「ああ、わかってる。俺もそのつもりだ」


 はぁ、と琴梨は安堵のため息をこぼした。


「......その、今までごめん。俺ずっと琴梨が俺のこと嫌いなのかと思ってた」

「私が? そんな訳ないじゃん」

「じゃあ、勘違いだったってことか。心配損だ」

「改めてだけど、まあ、その......何? これからよろしく?」

「こちらこそよろしく」


 ***


 すっかり俺は琴梨と仲が元に戻った。

 今まで通りとはいかなくてもたまに一緒に帰るようになったし、話しかけても無視されない。

 そういえば前の態度は何だったのか気になるが、仲が戻ったので気にすることではないだろう。


 そんな日が続き、俺が移動教室先に向かっている時だった。

 俺の前を琴梨含めた3人が歩いていた。


「琴梨っちってさ、夏樹くんのことぶっちゃけ好き?」

「な、夏樹が好き!? わ、私が!? そんな訳ないでしょ! むしろあんなやつ嫌いよ! 大っ嫌い!」

「嘘だー、実は気になってたりして......」

「嫌いよ! あんなやつ! 大体......」


 ......あれ? おかしい。


 俺は無事琴梨との関係を元に戻せたと思い込みながら今日も学校生活を送っている。


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― 新着の感想 ―
[一言] 素直にならないめんどいやつ これは本当に他の誰かと付き合ってわからせをしないとダメよ夏樹くん
[良い点] 面倒な女ってやつか 二人っきりのときは甘々な関係なら良いが別に彼女じゃないと。めんどくさw
[気になる点] あれれー?おっかしいぞー?で終わらせる話じゃねえだろ…幼馴染は因果応報な目に合え。
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