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ネット掲示板のノリでVTuberのママになったTS絵師とその娘の物語。  作者: カミトイチ《SSSランクダンジョン〜コミック⑥巻発売中!》


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VTuber.47



配信終了後、私は美心に聞いた。


「えーと、まずはお疲れ様」

「あ、はい。お疲れ様でした」


「それで、いつからこれ計画してたのかな?」

「こ、これというのは......?」


にんまりと私は笑みを浮かべる。美心の視線が左下に落ちた。気まずそうに出した水を一口飲む彼女。


「私がなんでコラボ出てるん?って話だよ!」

「ぶふっ」


私が声を荒げると美心は危なく水を吹き出しそうになっていた。肩を震わせ笑いをこらえる彼女。......こ、こいつ。


「しかも1日前に知らされるとか」

「いやいや、でもでもちゃんとできたじゃないですか!ママすっごく面白くてよかったです!!ノリノリで面白かった」

「おまえなぁ!」

「ママも楽しかったでしょ?ふふ」

「......そりゃ、まあ。ちょっとは」

「あたしもママと一緒で楽しかったよ!えへへへ」


にこーっ、と満開の笑み。卑怯だろこれ。美心の笑顔は全てを許せてしまえそうな力を持っている......これは卑怯。


「はあ、もう良い......次はでないからね」

「えーっ、そんなぁ」

「そんなぁじゃねえ」

「でもでも、リスナーさん喜んでたじゃないですか!ほら、リスナーさんの望むことをしてかないと!」

「口が達者になったな、美心」

「へへっ、どーもどーも。ママに似たかな?」


こいつ......ちょっと嬉しいのが腹立つ。いやまって、私口が達者だと思われてるのこれ。


「でもでも、突発的にライブ配信でてあれだけ喋れるんですから、ママも配信者の才能ありますよー!やりませんかVTuber!親子でっ!」

「......いや、やらないけど」

「えーっ、絶対数字とれるのにぃーっ」

「ふふっ」


「?」

「やっぱり、美心はもう大丈夫だね」

「大丈夫?なにが?」


まだまだVTuberとしての日は浅くて、経験値も足りない。けれどいろんな物が見え始めている。中でも大切なのは、楽しみながら数字を取ること。


「私はさ、美心はクロノーツライブに行くべきだと思う」

「......!」


はっきりと、私は言った。これは今の私の本心だ。美心の為を思えば、これが最善の手。彼女にはここで燻っている暇なんか無い。


若い時間はあっという間に過ぎていく。ここで無駄にしている場合じゃない。


多くの人に愛され、多くのリスナーに彼女の活躍を見てもらいたい。


「美心がもし、クロノーツライブへいって......さみしいというのなら、またこうしてコラボしても良い」

「え......?」


彼女の為ならば、私は......どんなことでもする覚悟がある。


「私もVTuberモデルを用意するよ。それで、コラボしよう」


「......ふふ」


?、なんで笑った?


「ママにはそれほどの覚悟があるんですね」

「あるよ。だって、アリスを育てるって言い出したのは私だからね......美心には無いの?」

「ありますよ。というか、ママが言ったのは「アリスを育てる」じゃないです......「俺らがつくった子は俺らで育てよーぜ」って言ったんですよ」


「......」


「この間も言いましたけど、逃げないでくださいよ。なんでクロノーツライブへ行くように促すんですか」

「大きな箱にしか出来ないことがある。それは、このままでは出来ないことで、ここにいちゃ出来ないことだから......」


「例えば?」

「グッズ販売とかかな。人手も足りないし、ほかにも......」

「あ、グッズ販売なら大丈夫。スレ民にそういうのに詳しい人がいまして、やるならお手伝いするって」


「ええええっ、なんで......DMしたんか!?」

「え、しましたけど?ちなみに初配信に来てくれた方には皆にお礼のDMしましたけども。その時に皆が協力できることあるならするからって......」

「いやいやいや、あんまりそうほいほい接触したらだめだろ!」

「あー、はい......パパにお礼DMしたときにまったく同じこと言われましたね。あはは......ママかパパにそういうのは通してからやってねって」


パパーっ!!偉いぞパパ!!ありがとうパパ!!


「ごめんなさい、ママ」

「あ、いやパパが言ってくれたなら良いけど、危ないからね......グッズは良いとして、他にも色々あるだろ新曲出したりとか」

「あ、それはこないだ作ってくれたスレ民の方が居たじゃないですか。ちなみにライブするなら手伝ってくれるらしいですよ?」


「ああ、あの子か......いや、でも」

「でも?」


「数字......数字の伸びが違う」

「数字か」


ふんふん、と腕を組み頷く美心。どーした。


「でも......数字は大切ですけど、もっと大切なモノがありますよね」

「それはなに?」


「環境です」


「環境......それなら尚更でしょ。クロノーツライブのがライバーにとってやりやすいことこの上ない」

「なぜわかるんですか?」

「え?」


「それってママの想像での話でしょ」

「いや、それはそうですけど......」

「ならわからないじゃないですか」

「ううむ」

「でもそれとは反対に確かな事があります」

「?、なに?」


「あたしが今いるこの場所、ママやパパ、スレ民さんリスナーさんに囲まれてライバー活動ができる......この環境。それがとても楽しくて、やりやすくて、ストレスが無いと言うことです」


「......ああ」


心の負担、ストレスが無いのは大きいな。社畜で心を病んだ身としてはわかる気がする。

良いプレッシャーによるストレスとは違う......下手に溜め込むと鬱になるやつ。


たしかに、新しい環境がいいとは限らないか。


「それに多分、クロノーツライブじゃあたし伸びませんよ」

「え、なんで?」


「ママがいないから」


美心がテーブルにうなだれ手を伸ばしてくる。そして、マグカップを両手で持つ私の指先に彼女の指が触れた。


「美心はさみしいとダメになります」


――ズキン、と心に痛みが走る。




かつて彼女の前から姿を消した私には、その言葉は深く刺さる。






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