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ネット掲示板のノリでVTuberのママになったTS絵師とその娘の物語。  作者: カミトイチ《SSSランクダンジョン〜コミック⑥巻発売中!》


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VTuber.39



美心用に新しい歯ブラシを出し、未使用パジャマを引きずりだす。

昔、デザインが可愛いからってネットで買ったんだけど、結局使わなかったやつ。


「美心これサイズあうかな」

「......ちょっと後で着てみます」

「ん。あ、お風呂はいるかい?シャワーだけにする?」

「それじゃあ、シャワーで」


バスタオルを用意しつつ、美心に聞く。


「そういや明日バイトあるん?」

「いえ、ないです」

「そかそか......なら早起きせんくても大丈夫だね。私のベッド使ってゆっくり休みな」


ん?と眉をひそめる美心。


「ママは?」

「私はソファとかで大丈夫。そもそも私、昔からあんまり眠れないんだよね」

「不眠症?」

「......んー、まあ慣れたから大丈夫」


度々起こるフラッシュバック。瞳を閉じれば二度と目を覚まさないかもしれないという恐怖心。


冷たい雨と、遠のく意識があの記憶を呼び起こす。


「ママ」

「ん?」

「お願いがあります」

「......なに?」


ジッとこちらを見る美心。ほのかに顔が桜色にそまっていて、視線が揺らいでいる。


「添い寝、してください......」

「え、添い寝?」


みぎ、ひだり、左右に揺れ、そして私に定まる目線。


「......だめ、ですか」


まあ、別にいいけど。むしろご褒美感あるまである。でも、美心ちゃんと寝れるのか?誰かが横にいると気になって眠れなくない?


「お邪魔でなければ......させていただきますが」

「うむ」


照れ隠しなのか、鼻息をふんふん言わせ大げさに頷く美心。......添い寝、か。


「とりあえずシャワーいきな」

「はい!」


ととと、っと浴室へかけていく。が、しかしその歩みを止め、途中でピタリとまった。


「?」


美心はちらりとこちらを見て、こういった。


「......からだ洗って」


「ああ......ちょっと、それは恥ずい。すまん」


「ちっ」


口で「ちっ」と言い美心は再びとてとて歩いていった。いや、それはね欲を言えば望むところなんだけど、今の彼女は美心であり女子高生でありなにより私の娘でしょ?


そこ越えたら良心が病んでひどいことになりそう。あと気まずくなりそう。


(......とりまベッド綺麗にしとこ)


片手にコロコロを持ち、寝室へ。いやいっそシーツかえちまうか。

遠くで床を打つシャワーの音が聞こえる。目を瞑ればあの日の......私の最期が思い浮かぶ。


(あの日を思い浮かべるといくら眠くても目が冴えてくる......まあ、これのお陰で徹夜とか余裕でできて締め切りとかに追われないですんでるんだけど)


けれど......その分、肉体や精神は疲労が蓄積し蝕まれていってる。何度か倒れた事もあるし、それは間違いない。.....いつか、大きなツケを払わされる日が来るのだろう。.....けど、私にはどうにもならない。


一度病院にも行こうかと思ったけど、その理由は語れるわけもなく。話したところでまた別の病気だと判断されても困るのでいけてない。


前世と同じく、今回も過労死する可能性大って感じ。ただ、前とは違い、今回は好きなことをたくさんやれた......夢であったイラストレーターにもなったし、なにより美心......遙華との夢も間接的にではあるけど叶った。


私は今、満たされている。


「......美心の着替え用意しよ」


チッチッチッ、と刻まれる秒針の音。


何かを急かされているような気分になり、私は時計から目を背けた。


......伝えなくて、本当に良いのだろうか。



◇◆◇◆



「どーぞ、姫」


サッとベッドを指し示す。


「ありがとうございます」


ぽふっ、と倒れ込むようにベッドへ横になる美心。彼女はころんと仰向けになると、ぽんぽんと横に来いと言うように手でベッドを叩く。


「仰せのままに」

「その喋り方嫌なんですけど」

「......あ、はい」


私も美心の横に寝転がる。大きめのベッドだから狭いという事はないけど、寝転がった瞬間距離を美心が詰めてきたから若干端っこに追い詰められかけている。


美心はごろんとこちらに身体を向ける。その表情は依然、仏頂面のまま。


「......ママ、アタマ、ナデル」


いつかのようにカタコトで要求してくる美心。新手のナニカかと思うほどナデナデを要求してくるな。暗黒大陸に行ったことはないんだが。


私は彼女の言う通りに頭を撫でてあげる。ドライヤーをかけふんわりとした髪の毛を滑らせるてのひら。


ふと気がつけば彼女の表情は砕け、にこにこ笑みを浮かべていた。


ぎゅうっと私を抱きしめる幸せそうな美心。


(......いや、このままで良い)


彼女が幸せであるなら、私はそれで。


......しかし、美心の体温。人の温もりを感じるのは、いつぶりだろう。


自分のパーソナルスペースに他人が入ってくるの結構嫌な質なんだけど、不思議と嫌悪感を感じない。......いや、不思議ではないか。きっと美心だからなんだろうな、これは。


(......むしろ安心感がある)


やがてすやすやと寝息が聞こえてきた。


「......おやすみ、遙華」







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