VTuber.32
まさかの展開である。
「......どーしよう」
私はPCのモニターを眺めつつ頭を抱えた。
「どーしたの?倫ちゃんっ」
キッチンのテーブルで焼き立てのトーストにかじりつきながらえまちゃんが聞いてくる。
「......以前にコラボお願いしていた人がいるんだけど、えまちゃんとのコラボと被っててさ。どーしようかと思って......いや、まあえまちゃんとのコラボのが話進んでるから優先なんだけどね。タイミングが悪いなぁ」
(来週、夜の配信だろうしそれを考えるなら、コラボやれるタイミングは一日だけ......土曜の夜。他の日は薄氷シロネ、忌魅子の仔の二人共、もしくはアリスが難しい。やれるのは一日だけ......)
こちらの大物YooTuberもできれば逃したくなかった。薄氷シロネは160万人をこえるリスナーを抱え、忌魅子の仔さんの80万人をこえるが、それぞれ視聴者層が違う。
できるだけ多くの様々なリスナーにリーチしたかったんだが。これはもう仕方ない......今回は断ろう。
「一緒にコラボしちゃう?その人もっ」
「......え?」
【紅莉アリス】と【薄氷シロネ】、そして【忌魅子の仔】さんでコラボ?
そ、そんなの......めちゃくちゃイイじゃねえかッ!!
アリスはまだ登録者数だけでみると二人には敵わない。けれど、ライブ配信の同時視聴者数であればこの二人に見劣りしない。
なにがいいたいかってーと、この三人ならば伝説的な同接を稼げる可能性が高い。そうなればSNSでトレンド入り、またそれが人を呼び更に大規模なお祭り騒ぎになって〜の好循環が期待できる!
ぞくぞくと肌が粟立つ。これならば、このライブ配信だけでアリスの登録者数も30はこえてくるんじゃないか?......いや、さすがに期待しすぎか。
(でも、これは千載一遇のチャンス)
......って、いうか――
「そんなこと出来るの?」
「できるんじゃないっ?」
キョトンと首を傾げるえまちゃん。口周りがパンクズだらけだ......拭かねば。
ギシッと椅子から腰をあげ、ティッシュを手に取る。
「......とりあえず、えまちゃんのマネージャーさんに聞いてからだな。それから忌魅子の仔さんと連絡をとろう」
私はえまちゃんのおくちを拭き拭きする。
「ありがとっ」
「ん」
んー、やはり妹ポジやな。イチゴ100%なら南◯唯、SAOなら◯葉、はがないなら◯鳩、物語なら八◯寺......いや撫◯の位置か......。
(とりあえず、まず先に美心へDMしてっと......)
そのDMがうち終わる頃、ピンポーンとインターホンが鳴った。時刻は7:46。
誰だこんな朝早くに?とモニターを見ようとすると既にえまちゃんがそこを覗き込んでいた。
「あ、蓮華さんだよっ!鍵開ける?」
「......ん、頼む」
ロックが解除され扉が開かれる。入ってきた蓮華さんはえまちゃんの姿を見て一瞬固まった。
「あ、え?お、おはよう、ございます?」
「おはよー!蓮華さん!朝早くから遊びに来てますっ!えへへっ」
「......まあ、そういう事で。蓮華さんどうしたの?仕事は......今日はお休み?」
視線が泳ぎ、唇を触れた。
「まあ、そんな感じですね......うん」
「......?」
「ちょっと待ってて、今珈琲淹れるから。あとトースト食べる?......というより食べてくれると嬉しいんだけど」
「あ、じゃあ、いただきます」
珈琲のボタンをポチッと。トースターにパンをセットして、と。
「それで、今日はどーしたんですか?蓮華さん」
「......以前、聞いていた話なんですが。VTuberの」
お?
「ああ、VTuberにかかる費用。えーと、やるとなればイラストは私が描くから料金はかからないし......モデリングもアリスのパパがおるから無料」
「え、え?無料?」
「うん、無料ですよ。もし蓮華さんがやるならお祝いでそれくらいやりますよ......やるんですか?」
と、聞いたその時。
「あー!はい、はーいっ!!わたしもお祝いするっ!」
「ええっ!?」
「え、えまちゃんも?」
「アリスちゃんのお姉ちゃんなんだよね?ならお祝いさせて欲しいなっ」
「あ、いや、妹だよ」
「あ、そっか。前アリスちゃんのことお姉ちゃんって言ってたもんね......って、え?そーなの?あれ?でも、アリスちゃん......高校生じゃ?蓮華さんの方が年上じゃっ......?」
「んー、まあそこは深い事情があってね。ともかく、蓮華さんはアリスの妹なんだよ」
「......ややこしくてすみません、えまさん」
「んーん、大丈夫っ!えーとわたしからのお祝いはPCになりますっ!」
「「PC!!?」」
バッと驚き私と蓮華さんが同時にえまちゃんに顔を向けた。
「あ、でもあれね?わたしのお古になっちゃうんだけど......でもでも、使ってた期間短いしそんなにいじってなくてねっ?」
「いやいや、くれるなら有り難いよ。ちなみにそれで配信したことは?」
「あるよっ!三回くらいだけどねーっ。まあ、みてみてよ!それで気に入ったらあげるっ」
ポカーンと口を開き蓮華さんは放心してる。
「......どうします?」
「え、えっと......それは」
戸惑う蓮華さん。しかしそんな蓮華さんの手を引いた人物がいた。それは――
「蓮華さん!やろうよっ!VTuberすっごく楽しいよっ!!人生変わっちゃうくらいっ!!」
――そう、えまちゃんこと薄氷シロネだった。
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