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フレイントールとノールノール

作者: 石室悠

 フレイントールとノールノールは水の妖精。二人は湖の中で、毎日仲良く遊んでいます。

 二人は水の中で色んな形になって遊びました。犬や、大柄な熊や、意地悪な人間や、優雅に泳ぐお魚や……色んな形になりました。

 けれど、それも大人になるまでのお話です。

 水の妖精は大人になると、何かの鳥になって、湖から出て行かなければならないのでした。


 大人になる日を控えたフレイントールとノールノールは、自分達が何の鳥になるか、真面目に考え始めました。

 今日も、一体何の鳥になるか、相談します。

「ねぇ、ノールノールは何の鳥になりたい?」

 フレイントールが尋ねると、ノールノールは首を傾げて言いました。

「何にしようかしら。本当に悩むわね。フレイントールは何がいいの?」


 フレイントールは答えました。

「私は、そうねえ。白鳥になってみたいかしら。白くて綺麗だし、とても優雅な感じじゃない?」

 フレイントールは水の中で、白鳥の姿になりました。大きな体の鳥は、ゆったりと水の中を泳ぎます。

「でも白鳥は体が大きくて動きが遅いから、狼に食べられちゃうかもしれないわ。それに美しい羽を持っていると、人間に狙われる事も多いはずよ」

「そうねぇ、白鳥も大変ねえ」

 ノールノールに言われると、フレイントールも何となく不安になって、白鳥の姿を止めて、また悩み始めました。

「他の鳥になさいよ」


「そうねぇ。じゃあ、ウグイスはどうかしら。小さくて可愛らしいし、鳴き声も素適じゃない?」

 フレイントールはウグイスの姿になりました。ホオゥホッケキョと小さく鳴いてみました。

「でもウグイスはあの鳴き方を出すのに、とても苦労するらしいわよ。すぐ出せるわけじゃないんだから。それにあの鳴き声を人間は気に入っているから、捕まる事もあるわ。そうしたら、一生鳥かごの中に居なきゃいけないかもしれないわよ」

「そうねぇ、ウグイスも大変ねえ」

 ノールノールに言われると、フレイントールも何となく不安になって、ウグイスの姿を止めて、また悩み始めました。

「他の鳥になさいよ」


「そうねぇ。じゃあ、スズメはどうかしら? 小さくて可愛らしいし、取り立てて目立つ所はないし、安全じゃない」

 フレイントールはスズメの姿になりました。水の中で、チョンチョンと飛び跳ねました。

「でもスズメは虫の他にお米を食べるから、ある国では皆撃たれちゃった事もあるのよ。スズメも可愛いけど、嫌われてるから危ないわ」

 ノールノールに言われると、フレイントールも何となく不安になって、スズメの姿を止めて、また悩み始めました。

「他の鳥になさいよ」


「そうねぇ。じゃあ、カラスはどうかしら? 黒い羽がとっても綺麗だし……彼らは穀物は食べないわよ」

 フレイントールはカラスの姿になりました。鋭いくちばしでツンツンと水の中をつつきます。

「でもカラスはゴミを荒らすでしょう。とても縁起が悪いって、人間に嫌われているし、最近は捕まる事も増えてるらしいわ」

 ノールノールに言われると、フレイントールも何となく不安になって、カラスの姿を止めて、また悩み始めました。

「他の鳥になさいよ」


 そうして二人は何日も何日も、ついに世界中のありとあらゆる鳥の名前を出して話し合いましたが、結局、決まりませんでした。理想的な鳥というのは、中々見つからないものです。


 そうこうしているうちに二人は大人になる日を迎えてしまいました。二人はまだ悩んでいましたが、フレイントールはふと思いついて言いました。

「そうだわ、なりたい鳥が見つからないなら、自分だけの鳥になればいいんだわ。私、とりあえず鳥になってみるわ」

 それを聞いてノールノールはつまらなそうに言いました。

「そう。じゃあ私はもう少し、自分がなる鳥の事を考えてからにしてみるわ」


 フレイントールは湖から出て、鳥の形になりました。まだ透明のみずみずしい身体でしたが、パタパタと羽根を振ると、フレイントールは宙に浮き上がりました。

「わぁ、楽しい」

 フレイントールは嬉しくなって、空に向かって飛び上がりました。何度か練習すると、フレイントールはちゃんと空を飛べるようになりました。

 空を飛ぶと、たくさんの物が見えました。今まで自分が居た湖はちっぽけな水溜りのようでした。見渡す限りの緑の森があって、そしてその先には見たこともない土地が広がっています。湖よりずっとずっと大きな水溜りや、細長い水の線。人間が住んでいる、灰色の場所も見えました。

 横を見れば、たくさんの鳥が空を飛んでいました。トンビや、ツバメ達。それに、真っ白な雲も、いつもよりずっとずっと近くに見えます。

 風が顔や体を撫でて、とても気持ちよくて、フレイントールはうっとりしながら飛びました。やがて、フレイントールはこの気持ちを伝えようと、湖に帰りました。

「おかえりなさい。どうだった?」

 ノールノールが尋ねると、フレイントールは嬉しそうに頷いて言いました。

「空を飛ぶって、とっても気持ちいいわ! 物がいっぱい、小さく見えるの。それにとてもゆっくり動くのよ。風は心地いいし、なんだか幸せな気分になれるの」

 けれど、ノールノールは乗り気ではありません。

「そうね、気持ちいいと思うわ。でも空を飛んだら、落ちるかもしれないじゃない? 何かに引っかかって、宙ぶらりんになってしまうかも。やっぱり、空を飛ぶのは危ないわ」

「じゃあ、ニワトリやダチョウになったら? 彼らは空を飛ばないけれど」

「ダメよ、彼らはすぐに、狼とかライオンとかに食べられちゃうじゃない。やっぱりまだいい鳥が見つからないわ」


 フレイントールは仕方なく、また空を飛んで、ノールノールをその気にさせる事を探していました。すると、フレイントールの透明な体が、少しづつ色をつけて来ました。やがて、フレイントールは虹色の羽根を持った、とても美しい鳥になっていました。

「まぁ、すごい。こんな綺麗な鳥、他に居ないわ」

 フレイントールは嬉しくなって、ノールノールに知らせに行きました。

「おかえりなさい。すごいわね」

 ノールノールが言うと、フレイントールは嬉しそうに頷いて言いました。

「とりあえず鳥になったけど、こんなに素的な羽根が生えたわ! こんな綺麗な羽根の鳥なんて、他に居ないでしょう? なんだかとても嬉しい気分だわ」

 けれど、ノールノールはおもしろくなさそうです。

「そうね、綺麗だわ。でもそんなに羽根が生えたら、抜け落ちる時とても痛いでしょうね。それにその姿じゃ、目立ってしまって、猟師に鉄砲で撃たれてしまうかも。綺麗な羽根では危ないわ」

 

 フレイントールは仕方なく、一人で空を飛んで行きました。やがてフレイントールは空高く舞い上がって、鳥の中でも一番美しい鳥になって、人々からも重宝されて、幸せに暮らしました。

 さて、湖に残ったノールノールは、というと。

「一体何の鳥になればいいのかしら……」

 あいも変わらず悩み続けていました。


 ある時、大雨が降りました。ザァザァバラバラ、雨はどんどん降っていきます。やがて水溜りが出来て、それが繋がり川になって、そして森の中を這い回りました。ノールノールの湖にも、どっと水が流れ込みました。

「ノールノール、早く鳥になって、飛んで逃げるのよ。流されちゃうわ」

 木の上からフレイントールが呼びましたが、ノールノールは困った顔で、

「でも、鳥になったらもう、姿を変えられないわ。私はまだ、何の鳥になるか決めてないの」

 と言いました。

「とりあえず鳥になってごらんなさいよ。そうして悩んでいる間に、どんどん悪い事が起こっていくわよ」

 フレイントールがそう言っている間に、森は水びだしになってしまいました。

 ノールノールは水にどんどん流されて、ついに見えなくなってしまいました。

 結構前に友達に送ったお話です。

 オチが本当はもうちょっとドぎつかったんですが、こちらに落ち着きました。

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