表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/76

いけにえ

 駆け足で地下病院の奥へと足を進める。


 しばらく行くと、やがて広めの空間に出た。


 直後、ガシャアンッ! と通路に格子が下りて、俺達は広場に閉じ込められた。


 まもなく、奥の暗がりから歩み出してくる人影。


 足先まで覆った長い腰巻きの上に、裸の上半身。全体的に青っぽい。


 そして、その上にあるはずの頭部は、長く鋭い(すい)状の兜にすっぽり隠されて見えない。頭に青い三角コーンを被っているような感じだ。


 手に巨大な(なた)を引っ()げ、ガリガリと床を削りながらこちらに迫ってくるそれは――。


「な、なんですかあれ……怖っ!」


「〈ブルーピラミッドシング〉――だ‼」


 有無を言わさず大戦斧を一閃。ガードしようと割り込ませた(なた)ごと首を叩き切られたブルーピラミッドシングは、バタリと床に倒れた。


 それを見たショコラがぽつり。


「……ディーゼルさんと一緒にいると、ホラーがホラーじゃなくなりますね。ただの作業って感じ。台無しです」


「さっき、あれだけぎゃあぎゃあ泣き叫んで腰抜かしていた奴のセリフか」


 言いながら、ブルーピラミッドシングの頭部を覆っていた長い錐状の兜を掴み上げる。


 それは俺が持つ手の中で、ゴトゴトと振動した。


 その断面を、ショコラの方に向ける。すると――。


「――? ……っ! いひーーー! 気持ち悪ぅううう⁉」


 顔を引きつらせてダッシュで部屋の隅まで逃げたショコラ。


 兜の中から、にゅーっと伸びた細長い数本の触手が、新鮮な魚を彷彿とさせる感じでビチビチと跳ね、粘液の糸をまき散らした。イカの足っぽいが、もっと筋肉質だ。


 それをショコラに向けたまま、徐々に距離を詰めていく。


 ショコラは壁を背にしたまま、俺から一定の距離を保って逃げた。


 仕方なく、考えていたストーリーを言い聞かせる。


「――これに寄生されろ、ショコラ」


「――っはぁあああああ⁉」


 ショコラが、デートをすっぽかされた女が詰め寄る時のような、あるいは、耳を疑うレベルの浮気の言い訳を聞かされた女のような、そんな呆れと怒りが入り交じった般若(はんにゃ)顔になった。


「これに寄生されると、お前の病気が治る」


「嘘つけッ‼」


 ショコラが吐き出すように叫んだ。


「ぜっっっったい、嘘‼」


「チッ……」


 思わず舌打ちが漏れ、それを聞き逃さなかったショコラの猫耳がピクピクと動いた。「あーっ、やっぱり‼」と怒気を強める。


 ショコラを騙し切る作戦を諦めた俺は、降参だとばかりにシュコーっと嘆息混じりに両手を上げ、正直に説明することにした。


「――これは、ゾンビになった奴に寄生する〈ゾラーガ〉という」


「そんなの近づけないでくださいよ‼ っていうか私ゾンビじゃないですし⁉」


「この寄生モンスターの宿主(やどぬし)でなければ、ここの裏ボスをおびき寄せる餌にはならないのだ」


「え、餌……?」


 そこではっと、ショコラが息を飲んだ。


「――まさか、あのガス……わざと私を……」


「ああー、今思い出したー、あのガスは吸った者をゾンビに変えるガスだったー」


「知ってた! ディーゼルさんは知っていた‼ そんな見えすいた嘘ッ! こんな姑息(こそく)なやり口! ディーゼルさんらしくないッ‼」


 ショコラはゲシゲシと地団駄を踏んでから、すっと表情を消して尊大に腕を組んでみせると、声音を低くして続ける。


「――シュコー……おい、ショコラ。この先ゾンビが必要だ。俺の本体は甲冑だから、ゾンビになんぞならん。お前ちょっとゾンビになってこい――みたいに、堂々とわたしを生贄(いけにえ)にするのが、ディーゼルっていう鬼畜ドSコスプレイヤーでしょう⁉ キャラがブレてるじゃないですか‼」


趣向(しゅこう)を変えてみたんだがな」


「い、ん、し、つー! やり方が陰湿です! いつもの、どストレートな感じの方が私好きです‼」


 グッと両拳を握り込み、フンスッと鼻を鳴らしたショコラ。


「そ、そうか? それはすまなかったな……じゃあ、改めてショコラ。ぐだぐだ言わずに寄生されろ。もうお前はゾンビ毒に掛かっている。治療薬はない。ジタバタしても無駄だ。お前はもうすぐゾンビになる」


「ぐっ……堂々と言われると、それはそれで腹が立つ……!」


「今回はちゃんと死体は残るから、装備の心配はしなくても大丈夫だ。綺麗に復活させてやる。安心して()け」


「いやー‼ やっぱり死にたくなああああああい‼」


 逃げるショコラ。ビチビチ跳ねるゾラーガ入りの兜を聖火みたいに掲げて追う俺。


 ショコラは中身は壊滅的だが、フィジカル――とくに敏捷性に関しては突出している。実際、足の速さは俺に勝っており、なかなか追いつけない。


「待てってッ!」


「こっち来ないでッ!」


 しばらくそんな感じで広い空間を追いかけっこしていると、やがてショコラがふらふらと立ち止まった。


「――ショコラ?」


 俺が彼女の肩に手を掛けると、彼女はその手甲に噛みついてきた。


 唐突な豹変ぶりに、ちょっとだけ驚いて仰け反る。


 どうやら運動をして毒の回りが早まったようだ。


 俺は無言でブルーピラミッドシングの兜をショコラに被せた。


 中にひそむゾラーガを寄生させるだけで良いのだが、もういい加減、情も湧くというものだ。普段の彼女の可愛らしい様子らしからぬ痛ましい見た目を、かぶり物で隠してやるという、心ばかりの配慮だった。


 俺の手甲に噛みつこうと藻掻(もが)くゾンビショコラ・オン・ゾラーガ・イン・ブルーピラミッドシングを、そのまま部屋の真ん中へと引きずっていく。


 挑むのは、やがてやって来るはずの〈ロード・ヘカトンケイル〉だ。


「ア゛ー、ア゛ー、ア゛ー」


 足元に転がされ、呻き声を上げながら俺の鉄靴(サバトン)に縋り付くゾンビショコラ・オン・ゾラーガ・イン・ブルーピラミッドシング。


 すげぇ気になる……さすがに不憫(ふびん)……。


 ……いや、まてよ?


 もうショコラは死んでるわけだから、これ以上死ぬことはないんだよな?


 ショコラが俺の瘴気を大量に吸い込むと、あっという間に真なる死に至ることになる。だから俺は、いつもは瘴気を漏らさないように力をセーブしている。


 逆に言うと、今は俺が瘴気をぶちまけても問題ないということだ。


 ロード・ヘカトンケイルはなかなかの強敵だ。六本の腕に最高品質の魔導具を携え、致命傷以外の傷は瞬時に癒してしまう。(たお)せる敵としてここに配置されていない。本来は、ロード・ヘカトンケイルの追跡から逃げ切るというギミックなのだ。


 ショコラを気にしながらだと、時間をかけて逃げるしかないが……。


 ――久しぶりに本気を出すか。


 ショコラの腰からタバコ型チョコを拝借し、兜に突っ込む。


 徐々に近づいてくる、恐ろしげな巨人の足音を正面から迎え撃つように、力強い瘴気の鼓動音(エギゾースト・ノート)が地下空間に起こった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ