表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦場主婦  作者: ヤサシイキ
9/19

詠唱

「いいよ!」

「おてつだい!」


2人は暇だったのだろう、お手伝いという言葉に嬉しそうに反応する。


「ありがとう!じゃあ、透君、水撒きーーー…あー、お花にお水あげるみたく、ジャーってしてくれる?」

「うん!」

「薫ちゃんは、私と一緒に怪我してる人の手当てしようね」

「あい!」


薫は元気よく、手をピシッとあげて返事をした。


よくよく考えたら、苦労してアルベルトさん達と運ばなくても、薫が運べばすぐに終わったんじゃ...?


「俺たちも何か手伝うぞ」

「俺の祝福は“水”なので、水をひとかたまりにして浮かせたりできますよ。ただ、あんまり大きくすると重くて動かせないんですが…」


おずおずとアルベルトさんが名乗り出る。

控えめな性格の人だな。どこかの脳筋さんと違って。

それはそうと、アルベルトさんの祝福は水なのか。

役に立たないと思いますが、と顔を伏せるアルベルトさんに、とんでもない、と返す。


「じゃあ、透君のお水を一口分くらいに固めて、怪我人の人達と、あとついでにまだ起きないあの人達に飲ませてください。それから、傷口にもお水を。そしたら、私が回復します。多分、大丈夫です。できます。」

「は、はい。」


アルベルトさんは、心なしかどこか嬉しそうにはにかみながら水を固めていく。

なんだか、不思議な光景だ。

水がすいすいと一点に集まり、プルンプルンと揺れながらも怪我人の口許に運ばれていく。


「なあ、俺は?」


とラインさんがそわそわしながら聞いてくる。


「うーん、じゃあ、私は怪我人の方に向かうので、透を宜しくお願いします。」

「わかった!」


ラインさんは嬉々としながら透のほうに向かっていった。


「よし、薫ちゃん、頑張ろうね」

「うん!」


私は、意を決して怪我人達を見た。

(うっ、やっぱりグロい。)

対して薫はなんでもない、というようにケロッとしている。やっぱり。

一度、夫がスプラッタホラーものの映画を借りてきたことがあり、家にはテレビが1つしかないため、リビングでその映画を見ていたのだが、透は泣き喚いて大変だった。それに比べて、薫はケロッとしており、この子は大物だ、と感心したことがある。


男の子よりも女の子の方がたくましいとは...。


「アルベルトさん、ありがとうございます。」

「いえ!俺みたいな平凡な祝福持ちでも役に立っているのなら、凄く嬉しいです。」


(謙虚な人だなあ)


そう思いながら、さてと、と怪我人を見る。

アルベルトさんと透君の共同作業のおかげで、傷口は綺麗になったはず。


(よ、よし。)


「じゃあ、薫ちゃん、そこの人、運べる?丁寧に、優しく。」

「うん。」


薫は、背中に手を回し、ふんぬと持ち上げ私の手前に運んできてくれた。


(ま、まずは、実験。何もないのに使うのはもったいない気もするし、本当に使えるのか確かめないと...。)


「え、えいや」


何も起こらない。


「そ、そいや」


何も起こらない。


「ふ、ふんっ」


何も、起こらない。


「な、なんでぇ?」


ショックで立ちすくんでいると、アルベルトさんが気まずそうに口を開いた。


「あ、あの、多分、詠唱を言わないといけないのでは...?俺は魔法は使えませんが、そう聞いたことがあります。」

「そうなんですか?」


なるほど、たしかに魔法が出てくる有名な海外の小説でも、呪文のようなものを唱えていた。

あと、杖もあったような気がするけど...。まあ、杖は関係ないのかな。

でも、詠唱って…、なんていえばいいの。


「あ、あの、ちなみになんて言ったら良いのか、とか分かりませんか…?」

「え、すみません、分かりません…」


お役に立てず申し訳ない、と縮こまるアルベルトさんにそんなことないです!と返しつつ、どうしたものかと頭をひねらせる。


「ど、ドーム型…. ドーム型の、防壁…い、いでよ、防壁!」


スノードームのようなドーム型をイメージして、中に入っている雪だるまは人、降りかかる粉雪は回復すふための粒子のイメージで、いでよと唱えてみる。



ーーーあれ。


不思議と、その言葉がよく口に馴染んでいるような気がした。


詠唱を唱えると、私の手の平の上に、円状の光る何かが現れ、そこからガチャガチャのカプセルのようなものが出てくる。


そして、倒れている人のところへコロコロと転がっていき、ドーム型へと変形した。


(う、うそっ、できた…!なにこれ、ちょっと楽しいかも…!?)



「わあ、俺、魔法陣も防御魔法も始めて見ます。けど、防御魔法は術者以外には見えないってほんとうなんですね。」


何も見えません、とケタケタ笑うアルベルトさんに和みつつ、私は再び怪我人達と向き合った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ