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戦場主婦  作者: ヤサシイキ
2/19

離婚

生まれつき、平凡だが幸福で、恵まれた類の人間だった、と自覚している。

暖かな家庭に生まれ、ぶっきらぼうで少し厳しい父に、気が強く、芯の通った母に大切に育ててもらった。容姿も人並み程度には整っていたと思う。ご当地アイドルになれるよ、ともてはやされ、一時期慢心し、調子に乗った恥ずかしい記憶があるが。

娘と息子を連れて実家に行った時なんて、お母さんは感涙していて、大袈裟だと笑いつつも、夫と共に幸福感をかみしめていたーーーと、思っていた。


ーーー最近の、夫の様子がおかしくなるまでは。


前から食や掃除に関してとても口煩い人で、私も苦労していた。

だが、家族のためだと育児と両立させ、頑張ってきた。夫もそこまで育児、家事に協力的でなく、眠れない日もあったが、子供の笑顔と元気に育った姿を見ると感慨深いものだ。


だが、もともと育児に協力的でないとはいえ、家にいるときは、たまにだが遊んでくれたり、一緒に昼寝をしたりしてくれていた。それなのに、最近は私も子供も、鬱陶しそうに、邪険そうに扱うのだ。


おかしいと、違和感を覚え首を傾げつつも、思い当たる節がなかったため、放置してしまっていた、がーーー。



ーーー「仕事もせず、家でダラダラするだけのお前とは違って、彼女はお前と同じ子持ちなのに、仕事をしている。」


「それに比べて、お前はなんだ?仕事もしてなければ、子供だって保育園に預けてるし、家事をするのは当たり前だし」


「離婚しよう。俺は彼女と再婚する。」


6年間共に連れ添ってきた夫は、鋭い目つきで私を睨みながらそう言う。




(ーーー浮気、していたの。)

突然の告白と結婚破棄に、私はショックで目眩がした。


なによりも、夫の言った言葉がショックで堪らなかった。


仕事もせず、家でダラダラだなんて...。朝は早く起きて、子供達と貴方のお弁当作り。手を抜いたり、冷凍食品を使うと不摂生な食事を俺にさせるつもりか、と怒るから、一から頑張って作ってきたのに。その後も、子供を保育園に送って、貴方を駅まで送って、洗濯をして、掃除をして、洗濯物を干して、お皿を洗って....。


そりゃ、一刻も休む時間がなかったとは言わないけれど、時間を持て余してダラダラしていた覚えはない。


家事をするのが当たり前ですって?貴方がどんな料理を作っても文句ばかり言ってくるから、たくさん練習して、色んな料理を作ってきたのに。

まるで、家政婦のようだと思うこともあった。けれど、それが妻の役目だろうと、俺は仕事をして家庭を支えているんだと言われてしまうと、強く出られなかった。

なにより、貴方が怖くて、けれど貴方も子供も愛していてーーー。



全て、家族のためだったのに。



ーーー「...分かったわ。そのかわり、子供は私の方に連れて行く」


「ハッ。勝手にしろ。あんなもの、俺と彼女の間ではお荷物でしかない。」


ーーーあんな、もの?

この人は、子供をなんだと思っているの?

体がグワングワンと揺れているような、不快な気持ちになる。


「ーーー貴方と結婚したのが、間違いだった。」


そう言って、私は荷物をまとめ始めた。

離婚届にこれからサインして、子供を起こして、早く家を出よう。


しばらく、お母さんとお父さんのところにお世話になるかもしれない。けれど、すぐに職を見つけて、子供達を養わなければ。

まあ、慰謝料や生活費も、あちらから貰えるだろうけど....。




「透。薫。」


私、明石志保の子供2人、とおるかおるは双子の男女で、現在5歳である。


こんな小さな子供を、父親なしで育てるなんて...。

一番可哀想なのは子供達だ。


(ごめんね。)


「んー?んぶぅ」

「ごめんね。眠いよね。あのね、実はお父さんとお母さん、バイバイすることになっちゃって....」


だめだ。子供を見ると、涙が溢れそうになってくる。

ぐっと涙をこらえ、下唇を噛んで、子供達を抱きしめる。


「ばっばーい?」

「そう、バイバイ。」

「ママー、だいじょうぶ?」


頬を伝う、暖かいものは悲しみからか、子供への罪悪感からなのか、はたまた子供の優しさが嬉しいからか、いや、その全部がごちゃ混ぜになった涙なのだろう。


ーーー「ありがとう。大丈夫だよ。」


お母さんと一緒に、来てくれる?と言うと、2人は同じ顔で、コクリと頷いた。




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