あり合わせスープを作ろう後
(あ、いいかんじかも)
一旦冷ましたあと、試しに細切れにした干し肉を少し味見すると、かなり塩味が感じられた。
スープは、味が薄く水に近かったので、ポペリ花と塩をまた投入した。
最後に、ミモミ草とキキニ草の甘く、シャキシャキした茎の部分を入れて、コルドフさんに熱して貰えば完成だ。
手で草をちぎりつつ、塩を少しずつ足しながら調理をしていく。
いや、調理というよりは、どんな味になるのかの実験といったほうがいいか。
「コルドフさん、あっためてください」
「はいっす」
そう言って、コルドフさんはまた指でくるくると鍋をかきまぜる。
鍋の上に、静かに泡が上がってきたのを見て、コルドフさんにやめてもらう。
「なんか、おもったよりも美味そうっすね!」
「そうですか?私、これでも専業主婦ですから!」
「センギョウシュフ?あ、なんかのシェフっすか?」
「うーん、違うけど...。あ、ちょっと味見します?」
「するっす!」
近くでテントを組み立てていたアルベルトさんも呼んで、味見してもらうことにした。
お皿は、先程ラインさんが大きな葉っぱを丸めて作ってくれたのがある。
なんでも、繊維が強く葉も厚いので、皿代わりには最適なのだとか。
でも、お皿が葉っぱだと虫なんかが付いてそうなので、念入りにチェックしたものだ。
「どうぞ」
「どうも」
「どうもっす」
そう言って、2人は少しフーフーと息を吹きかけ冷ましたあと、恐る恐るというようにゆっくりスープを啜った。
「!うまいっすね」
「これ、干し肉ですよね...?柔らかいし、味も干し肉より濃い気がするんですけど...」
「はい、干し肉は、味を染み込ませたんです。」
「美味しいです」
「ありがとうございます!」
良かった。どうやら、うまくいったようだ。
ホッと胸を撫で下ろすと、後ろから小さな体が抱きついてきた。
「おなかすいた」
「かおるもー」
「今できたよ。ちょっと物足りないけど、スープだよ」
2人の頭を撫で、鍋をテントの中に運ぼうとする。
(お、重っ!!しかも、鍋熱っ!)
「あ、俺が持ちますよ。男ですし」
そう言って、アルベルトさんはひょいと鍋を持ち上げた。
(紳士だ…。素晴らしい)
こんな人と結婚したかったなあ、なんて頭の片隅で考える。
いや、夫も最初はすごく優しかった。
君は、俺のそばにいてくれるだけでいいって、それで幸せだって言ってくれた。
(...いや、そんなこと考えても仕方ないか。)
「おっ、美味そうな匂いだな。さすが衛生兵」
そう言って、ラインさんが嬉しそうに鍋を覗き込む。
(取り敢えずの目的は、生きることなんだから。)
アルベルトさんの後に続いて、テントに向かう。
「薫ちゃん、あそこでお寝んねしてる人達、運べる?もう傷も治ってるし、さっきみたいに優しくしなくても大丈夫だと思うけど…。」
「わかったー」
薫はそう了承の返事をすると、ズルズルとテントに5人いっぺんに運んでいった。
なんだか、娘の背中がとてもたくましく見えるよ、ママ。
怪我人をテントに運び、鍋を真ん中に起き、私たちも入るとギュウギュウだった。
こ、こんな状態で寝れるのか…?
兵士の人達は、皆無口でしんみりとした空気だ。
ラインさんみたいな人が特異なのかな。
ーーーそりゃそうか。
だって、戦争に駆り出されてるのに楽しくお話ししながらスープ飲もう!とはならないよね。
「じゃ、葉皿もったか?」
「はい」
兵士の人達も、コクリと静かに頷いた。
「では、女神に感謝して頂こう。」
いただきます、とは言わないのかとぼんやり考え、スープを口に含む。
うん、まあまあかな。
もう少し味が濃くてもいいけど...。
干し肉も柔らかくなっているし、おもったよりも干し肉からいい出汁が出てたようで、ただの塩胡椒スープよりも少し美味しい。
そう思って、他の人にも感想を聞こうとして目を配らせた。
「うん、よくあれだけで作れたな。うまい。」
「なんか、久々の食事って感じです」
「ママー。このはっぱきらい」
「とおるにちょうだい!」
「あいがと」
そんなやり取りを聞いて、満足気に私は頷いた。
でも、そんなに言うほど美味しいかな?いや、美味しいっちゃ美味しい。
まあ、戦地だし、なんでも美味しく感じるのかもしれない。
ガツガツと無言で食べる面々を尻目に、私はスープを口に含んだ。